前回は,ものごとを3 つの選択肢で考え,何でも3 分類で説明する「3 点思考」について解説した。もう少し詳しい解説があったほうが実用に供しやすいと思うので,今回は続編としてお話を続ける。できれば前回分を再読したうえで,お読みいただきたい。

同時並行で 3 つのことを考える

  例えば,あなたが課長だとして,上役の部長から次のように水を向けられたとき。
 「このところウチの部署は,どうも士気が低下しているような気がするんだが,どうだろうか?」
 士気にかかわる要素としては,①人,②物,③金,などの経営資源がある。人に関しては,①上との関係,②横との関係,③下との関係,がある。仕事については,①時間,②効率,③業績,の視点が考えられる。これらの要素のうち,最も大きな影響を及ぼしていると思われることを中心に,頭の中で論理を構成していく。そして,こんなふうに返事をする。
 「私もそう思います。いちばん大きな原因はOJTがきちんと機能していないことではないでしょうか」
 まず「第一に」「いちばん~なのは」という調子で始め,語りながら同時進行で,「第二は」と考えてみる。いちばん大きな原因がOJTの欠如だとしたら,それをもたらしたものは何か,あるいは次に大きな原因は,と思いを巡らす。同時進行というのが,慣れるまでは難しいところだ。
 「上の人が忙しくしているために,下の者が困っても相談しにくい雰囲気があります。それが結果として残業時間を長くする一因ともなっているのではないでしょうか」
 ここまできたら,まとめである。
 「若手の同僚同士でも協働する風土が失われてきているようです。来週のミーティングでは,ぜひチームワークの強化について取り上げていただければと思います」
 OJTの問題,残業時間の増加,チームワークと, 3 つの視点から構造的にとらえることができた。
【並列的】①②③の横の関係
【階層的】1 位, 2 位, 3 位の縦の関係
【構造的】三角の関係あるいは正,反,合の動的関係
 どの切り口で考えるのがよいかは,ケース・バイ・ケースだ。いろいろな場面で試行錯誤を繰り返すうちに自然と会得できる。要は回数を重ねることである。

デキる人ほど 「第三の○○」を思いつく

  「第一は」と言って話しだして,第二や第三が続かなくなることはないのか? といえば,初めのうちはよくある。文字通りの,試行錯誤(トライアル・アンド・エラー)なのだ。「第一は」と考えだしたとき,すぐに並列的,階層的,構造的に思考を進め,論旨を展開してみよう。
 また,人の話などを聞く場面で,3点思考を意識して反応の仕方を考えるのも,よい訓練になる。
①それは本当に正しい内容といえるか(テーゼ)
②それと反対の意見はどう表現されるか(アンチテーゼ)
③ 2 つを統合するとどうなるか(ジンテーゼ)
 よく会議などで,人の意見を聞くといつも「なるほど」と感心するだけの人がいる。逆に「そんなことはない!」と,かみつくだけの人もいる。YES(テーゼ)かNO(アンチテーゼ)かの二項対立に終始し,第三の視点(ジンテーゼ)を考える発想がないからである。
 周りの人たちのことを考えてみていただきたい。実りのない議論に終始して会議を長引かせる元凶のような人は,おおむね第三の視点がない人,乏しい人ではないだろうか。いわゆる頭の切れがよい人は,議論が行き詰まるとすばやく発想の転換を促し,新しい視点を提供するものだ。
 ついでながら,「第三の~」という切り口は,それ自体に新鮮な魅力が感じられるようで,昔からキャッチフレーズとして頻繁に用いられてきた。映画では「第三の男」,文学では「第三の新人」,書名では「第三の波」のように。「第三のビール」というものもあった。

“YES”“NO”の他に “OR”の視点で発想する

  「第三の視点といわれても,そう簡単には思い浮かばない」と感じる人もいるだろう。コツとして,YESとNOの次に,ORを意識してみるとよいかもしれない。コンピュータを動かす基本になっているブール代数でも, A N D とNOT,それにORがキーワードになっている。
 相手の意見に少し変更を加えると,どうなるか。あるいは別のアプローチをしてみてはどうか。ものごとの論理は,だいたいこの範囲に収まるものである。この観点からすれば,発想が豊かな人とは,「ORをたくさん思いつく人」のことといえるかもしれない。ブレーン・ストーミング法の発案者アレックス・オズボーンのチェックリストも,ORをたくさん思いつくためのヒント集といえる。これは既存のものから新しいアイデアを生み出すための9 ヵ条のリストで,次のように表現されている。
①ほかに使い道はないか(転用)
②ほかからアイデアを借りられないか(応用)
③変えてみたらどうか(変更)
④大きくしてみたらどうか(拡大)
⑤小さくしてみたらどうか(縮小)
⑥ほかのもので代用できないか(代用)
⑦入れ替えてみたらどうか(置換)
⑧逆にしてみたらどうか(逆転)
⑨組み合わせてみたらどうか(統合)
 新しい発想が思いつかなくても,こんな考え方ができるという見本である。ORを考えるトレーニングに活用できるのではないか。

人間関係の3 点思考は 「3 謝」に極まる?

  最後に,復習になるが, 3 点思考の例として「3 謝」に触れておきたい。人間関係の大切な心得として,このキャッチフレーズを前号で紹介した。単なる語呂合わせかと見すごさないでいただきたい。人と人との関係は,つまるところ,ここに集約すると私は思っている。
●感謝「ありがとうございます」
●陳謝「申し訳ありません」
●辞謝「私はけっこうです」
 新入社員研修で習うような事柄だが,この3つをいつもさわやかに,相手が満足できるレベルで言える人はめったにいないと感じているのは,私だけではないだろう。
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