現代社会では、SNSの普及や自己実現の重要性の高まりによって、自分を表現する機会やツールが増え、目立ちたいという「自己顕示欲」がより表れやすくなっている。自己表現はビジネスや社会生活を送る上で大切ではあるが、一方で「自己顕示欲」が強すぎると、人間関係がうまく構築できなかったり、組織での活動が円滑に進まなかったりする弊害が生じる。社内コミュニケーションの活性化やトラブル防止のために人事担当者としても理解を深めておきたいところだ。そこで本稿では、「自己顕示欲」の意味や承認欲求などの類語との違い、強い人の特徴、原因、「自己顕示欲」が強い人との付き合い方や自分の「自己顕示欲」との向き合い方など幅広い観点で解説していく。
自己顕示欲

「自己顕示欲」とは?

「自己顕示欲」とは、自分の存在や能力、価値を他者に示したいという欲求のことを指す。これは人間が本来持っている基本的な欲求の一つであり、他者に認められたり、自己実現を図ったりする上で原動力になり得る。ただし、過度な「自己顕示欲」は人間関係の構築に支障をきたす可能性があるため、適度なバランスが求められ、一般的には「過度な自己主張」としてネガティブに捉えられることが多い。

●「自己顕示欲」の仕組み

「自己顕示欲」は自己防衛機制の一つとして機能する特徴がある。そのため、不安や劣等感を抱いている時に、自分の強さを誇示して精神的優位に立つことで他者からの攻撃を防ぐ目的で、「自己顕示欲」が表れる。また自己肯定感が低い場合、自分の力や存在を示すことで周囲に認められようと考える傾向があり、「自己顕示欲」が強く働く。

●承認欲求との違い

承認欲求は他者からの承認を得たいという欲求である。これは他者に自分の存在や考え、成果を認めてもらいたいというもので、他者中心的な考え方である。一方で「自己顕示欲」は自分の存在をアピールして注目を集めたいという自己中心的な考え方であると言える。

●自意識過剰との違い

自意識過剰は自分の言動や外見に意識が向き、他者の視線や評価を必要以上に気にする心理状態を指す。「自己顕示欲」が自分をアピールする行動として表れるのに対し、自意識過剰は周囲を過度に意識して萎縮する傾向として表れる。

●虚栄心との違い

虚栄心は見栄や体裁を重視し、自分をよく見せたがる心理のことだ。実態以上に自分を良く見せようとする傾向がある。一方で「自己顕示欲」は必ずしも見栄を張ることだけを目的としていない。

「自己顕示欲」が強い人の特徴

「自己顕示欲」が強い人には、以下のような共通の特徴が見られる。

●自分の話題が多い

「自己顕示欲」が強い人は、「自分を知ってほしい」、「褒めてほしい」という思いから、会話の大半を自分自身の話で占め、相手に発言する機会をあまり与えない傾向がある。例えば、自分の経験や成功談、自慢話を中心に話を展開し、話題を自分に引き寄せがちだ。

●他人からの評価に過敏

他者からの評価や反応に非常に敏感で、些細な否定的な反応にも強く反応する。自分の行動や考え方が他者にどう見られているかを常に気にし、よく見られようとする。

●他者を認めない

他者の成功や業績を素直に認められず、自分との比較で相手を評価する傾向がある。時には他者の成功を過小評価したり、批判的な態度をとったりもしてしまう。

●人の話を否定しがち

他者の意見や経験を聞いても、すぐに否定的な意見を述べて、反論するのも「自己顕示欲」が強い人の特徴だ。建設的な対話をするよりも、自分の方が相手より優れているという心理が働くのである。

●承認欲求が強い

「自己顕示欲」が強い人は承認欲求も強いケースが多い。自分の行動や発言に対して、常に他者からの承認や称賛を求め、それが得られないと不安や焦りを感じる傾向がある。

●協調性がない

チームワークを必要とする場面でも、自分の意見や方法を押し通そうとするのも特徴だ。他者の意見を受け入れることが苦手で、妥協点を見出すことができない。

●負けず嫌い

「自己顕示欲」が強い人は、極端に失敗や敗北を嫌い、認めない傾向がある。失敗や敗北によって自分の至らない点があると思いたくないから。他者のほうが優れていると評価されないために、言い訳や無理な正当化をすることも多い。

●嘘や偽りが多い

自分をより良く見せるために、事実を誇張したり、虚偽の情報を話したりしてしまう。そのため本音がわかりにくく、また言動が一致しないことがある。

●自慢話が多い

自分の優位性を際立たせたい、注目されたいという思いから、成功体験や所有物について頻繁に自慢し、他者より優れていることをアピールしがちだ。さらにマウンティングを取るために他者を貶めるような言動も見られる。

●数に執着する

年収、所有物の価格、SNSのフォロワー数やいいね数など、数値で表せるものに異常なこだわりを持つのも「自己顕示欲」が強い人によく見られる特徴だ。数字を比較することで他者よりも優れていると考えるからだ。

●SNSの更新頻度が高い

SNSは自己表現のツールの一つであるため、「自己顕示欲」の強い人は、その更新頻度が高い傾向にある。自らの投稿に対する周囲の反応を常にチェックし、反応が少ないと不安を感じてしまいがちだ。

「自己顕示欲」の診断方法

「自己顕示欲」を診断するための目安になる設問は以下のとおりだ。各設問に「全くそう思わない(1点)」から「非常にそう思う(5点)」までの5段階で回答し、その合計点数を算出する。

【設問】
・人が集まる場所では、自然と話の中心になることが多い
・SNSで自分の活動や近況を頻繁に投稿したくなる
・自分の成功体験や得意分野について話すのが好きだ
・周りから注目されていないと落ち着かない感じがする
・初対面の人にも自分のことを積極的にアピールする方だ
・他人から褒められたり認められたりすることで強く動機づけられる
・グループ内で自分の意見や考えを主張することが多い
・自分が目立たない状況だと不安を感じる
・他人に自分の良いところを知ってもらいたいと強く思う
・自分の外見や服装に人より気を使う方だ

【採点方法】
合計10~20点:自己顕示欲が比較的低い
合計21~35点:自己顕示欲が平均的
合計36-50点:自己顕示欲が比較的高い

※一般的な傾向を把握するためのものであり、個人の性格や行動の全てを表すものではないことに注意を要する。あくまで傾向を知るための参考としてほしい。

「自己顕示欲」が強くなる原因

自己顕示欲が強くなる背景には、様々な要因がある。主な4つを紹介しよう。

●自信のなさ

自信のなさや劣等感、コンプレックスがあると、それを補うために「自己顕示欲」が強くなる。自分を自分で認められなかったり、本来の自分を受け入れられなかったりする分、他者から認められることで欲求を満たそうとするのだ。

●仕事やプライベートで問題を抱えている

仕事やプライベートで何かしらの問題を抱えている場合、現実の問題や困難から目を逸らすために、自己顕示的な行動で気を紛らわせようとすることがある。あるいは、日頃のストレスを晴らすために、人より優位に立ちたいという気持ちが強まる。

●教育環境における愛情不足

育ってきた環境の中で、親や周囲の関係者から愛情を十分に注がれてこなかった場合、寂しさの反動として過度な「自己顕示欲」が表れるケースがある。「もっと自分を見てほしい」、「関心を持ってほしい」という欲求につながるのだ。

●理想と現実のギャップが大きい

仕事やプライベートにおける自分の理想像と現実とのギャップが大きいと、「自己顕示欲」が強くなる傾向がある。現状に満足できないことや、「こうなりたい」という理想像に近づきたいという思いから、他者への過剰なアピール行動が生まれるのである。

「自己顕示欲」が強い人との付き合い方

では、職場に「自己顕示欲」の強い人がいる場合、関係性を保つためにどのように接したほうが良いのか。上手い付き合い方を紹介していく。

●適度な距離を保つ

「自己顕示欲」が強い人と関わることで大きなストレスを抱えてしまうのであれば、距離を置くことが有効だ。必要最低限のコミュニケーションにとどめ、相手の言動に振り回されずに済む。

●傾聴する

相手の話を否定せず、まずは傾聴の姿勢を示すことで相手の欲求を満たすことができ、無駄なトラブルを避けることができる。ただし毎回真剣に聞いていると業務に支障が出るため、時には聞き流すことも必要だ。

●あえて頼る

「自己顕示欲」が強い人は自尊心が強いため、実は頼られることを喜ぶケースが多い。そのため相手の能力や経験を認め、アドバイスを求めたり、協力を仰いだりことで関係構築が円滑にできることがある。

●否定しない

直接的な否定は避け、訂正が必要な場合は穏やかに別の視点を提示すると良い。ただし、相手の自尊心を傷つけないよう配慮した言い方が重要となる。

●反面教師にする

相手の行動から学び、「自分はこうした言動は取らないようにしよう」と、自身の「自己顕示欲」のコントロールに活かしたい。こうした視点に切り替えることでストレスを軽減することもできる。

●承認欲求を理解する

相手の言動の背景にある承認欲求を理解し、受け入れることが「自己顕示欲」の強い人とのコミュニケーションには大切になってくる。必要に応じて褒めたり、認めたりすることで、良い関係を築くこともできる。

●嘘と偽りの部分だけ訂正する

明らかな虚偽がある場合のみ、さりげなく事実を指摘するようにしたい。その際には決して感情的にならず、客観的な事実に基づいて伝えることを心掛けると良い。

●話題を逸らす

「自己顕示欲」が強い人の話が長々と続いている場合は、さりげなく別の話題に切り替えることも有効だ。また、別の人に話を振ることで主導権を変えることができる。

●敵意を向けない

相手の言動に対して、感情的になり敵対的な態度は決してとってはいけない。相手の言動をどうしても受け入れられない時には、直接敵意を向けず、周囲の人に相談するようにすると良い。

自分の「自己顕示欲」との向き合い方

「自己顕示欲」は誰しもが少なからず持っている欲求だ。もしも自分は「自己顕示欲」が強いタイプかもしれないと感じた場合や、「自己顕示欲」が強く出てきそうなシチュエーションに置かれた場合は、上手くコントロールすることでトラブルを避けることができる。その具体的な方法を紹介していく。

●自己肯定感を高める

まずは、ありのままの自分を受け入れ、自己肯定感を高めることから始めたい。自己肯定感が高まれば、自分の存在を誇示することにこだわらなくなり、精神的に安定する。

●他人と比較しない

自身にフォーカスを当て自分の人生や成長のペース、考え方を大切にし、他者との不要な比較を避けるのも効果的だ。自分の価値観が明確になり、劣等感からくる自己顕示欲を抑えることができる。

●過度な自己顕示のデメリットを理解する

「自己顕示欲」のままに行動してしまうと、対人関係や自身のメンタルにどのような悪影響があるのかを考えると、落ち着いた判断ができる。例えば、相手に不快感を与えてしまう、孤立してしまうなどのデメリットを理解すれば、自ずと欲求を抑えやすくなるだろう。

●自分を責めすぎない

「自己顕示欲」が強いと自分自身で感じたとしても、それは自然な感情であることを認識し、自分を責めすぎないようにしたい。自信の喪失がさらなる「自己顕示欲」につながってしまうからだ。上述したように、ありのままの自分を受け入れることで事態は好転する。

●自信を持つ

自信のなさが「自己顕示欲」として表れるケースは多い。そのためスキルアップによって自分に自信をつけることで、過度な自己主張をしなくても周囲に認められるような人材となれる。

●アサーティブコミュニケーションを心掛ける


「アサーティブコミュニケーション」は、相手のことを尊重しながら意見を伝えるコミュニケーションの手法だ。自分の意見や感情を率直に伝えながらも、相手の立場や感情にも注意を払うことで、一方的なコミュニケーションを避け、「自己顕示欲」をコントロールしやすくなる。

●カウンセリングや専門家に相談する

どうしても「自己顕示欲」を抑えられない場合は、必要に応じて、カウンセラーや専門家のサポートを受けることもオススメしたい。自分だけで改善を試みるより効果的であり、また客観的な視点でアドバイスをもらえるため、成長の機会にもつながる。

まとめ

どんな職場であっても「自己顕示欲」が強い人はいるものだ。ただ「自己顕示欲」は人間が本来持っている自然な欲求であり、そのすべてがネガティブなわけではない。重要なのは、その度合いを自分自身が上手くコントロールし、また周りの人は適切に接することである。人事担当者としては、上手な接し方や自身の「自己顕示欲」との向き合い方を研修などで従業員に知ってもらうことで、コミュニケーションの活性化やチームワークの強化を図っていただきたい。

よくある質問

●「自己顕示欲」が強いタイプの特徴は?

「自己顕示欲」が強いタイプの人は以下のような主に特徴がある。
・自分の話題が多い
・他人からの評価に過敏
・相手を認めない
・人の話を否定しがち
・承認欲求が強い
・協調性がない
・負けず嫌い
・嘘や偽りが多い
・自慢話が多い
・数に執着する
・SNSの更新頻度が高い
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