現代のビジネスシーンにおいて、言葉でのやり取りだけが重要とは限らない。表情や身振り、声のトーンなどの「ノンバーバルコミュニケーション」も、信頼関係の構築や円滑な意思疎通には不可欠だ。人事担当者にとっても、例えば面接や研修時に非言語のサインを正しく読み取ることで、正しい評価やコミュニケーションの質向上につなげることができる。そこで本稿では、「ノンバーバルコミュニケーション」の意味や重要性、種類、具体例について詳しく解説し、職場での活用方法についても紹介していく。
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「ノンバーバルコミュニケーション」とは

「ノンバーバルコミュニケーション」とは、言葉以外の手段で行われるコミュニケーションのことだ。「ノンバーバル(non-verbal)」は、「非言語」、「言語を使わない」といった意味を持ち、「ノンバーバルコミュニケーション」には、身振りや表情、声のトーンなどがあたる。こうした非言語の意思伝達は、無意識に使うことも多く、言葉以上に相手に強い印象を与えるという特徴がある。

●「バーバルコミュニケーション」との違い

「バーバルコミュニケーション」が言葉による意思伝達であるが、「ノンバーバルコミュニケーション」は言葉を用いなくても、表情やジェスチャーで相手に感情や意思を伝えることができる。例えば、笑顔はポジティブな感情を、腕を組む動作は防衛的な態度を示す。言葉以上に多くの情報を伝える手段となり得るのが「ノンバーバルコミュニケーション」だ。

●ノンバーバルコミュニケーションの考え方

「ノンバーバルコミュニケーション」は、コミュニケーション全体の大部分を占めると言われている。この考え方の根底には、「人は無意識に多くの情報を非言語で伝えている」という事実がある。例えば、同じ「はい」という言葉を使っても、声のトーンや表情、視線が異なることで、肯定の度合いや相手の真意が変わって伝わる。そのため、非言語の要素は、会話の文脈を補完し、誤解を防ぐために不可欠で、特別な知識がなくても普段から活用していることを認識しておくことが大切だ。

●メラビアンの法則との関係性

「メラビアンの法則」とは、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが1971年に発表した法則で、「7-38-55ルール」や「3Vの法則」とも呼ばれている。人が相手から受け取る情報のうち、言語情報が占める割合はわずか7%で、残りの93%は声のトーンなどの聴覚情報(38%)や、ボディランゲージなどの視覚情報(55%)といった非言語の要素に依存しているというものである。ビジネスシーンにおいても「ノンバーバルコミュニケーション」を意識することで、相手に与える印象や関係性が大きく変わると言える。

「ノンバーバルコミュニケーション」の効果・重要性

「ノンバーバルコミュニケーション」は、言葉では表現しきれないメッセージを補完し、コミュニケーションの質を高める。具体的には以下のような効果や重要性が挙げられる。

●言葉以外でメッセージを補完できる

「ノンバーバルコミュニケーション」は、言葉に含まれないニュアンスや感情を補完できる。例えば、プレゼンテーションの際に、単にスライドを読み上げるよりも、自信を持って前に立ち、アイコンタクトを取りながら話すことで、説得力が増し、また親近感を与えることができる。

●状況や本音に気づきやすくなる

相手が口では「理解しました」と言っても、視線が下がり、腕を組んでいる場合には、実は納得していないかもしれない。こうした非言語のサインを読み取ることで、状況や本音に気づき、誤解や不安を未然に防ぐことができる。

●信頼関係を構築しやすくなる

ビジネスにおいては、相手の言葉だけではなく、姿勢や表情、声のトーンなどを組み合わせて相手に信頼感を伝えることが重要だ。また、落ち着いた声で相手の話を聞き、うなずきながらアイコンタクトを取ることで、相手に安心感を与え、信頼関係が構築される。

「ノンバーバルコミュニケーション」の種類と具体例

「ノンバーバルコミュニケーション」には、さまざまな種類がある。状況に応じて使い分けるためにも、具体例とともに知っておいてほしい。

●周辺言語

周辺言語とは、言葉そのものではなく、声のトーンや強弱、速さ、リズムなどのことを指す。プレゼンテーションで話す際に、感情を込めて話すか、単調に話すかで、相手の受け取り方が大きく変わる。声のトーンや抑揚を使い分けることで、メッセージに説得力を持たせることができる。

●身体動作

身体動作には、ジェスチャーや手振り、姿勢などが含まれる。例えば、話しながら自然な手の動きを加えると、相手に対してよりエネルギッシュな印象を与えることができるだろう。また、姿勢を正して話すことで、相手に自信や誠実さを伝えられる。

●身体特徴

身体特徴とは、体型や身長、肌の色、髪の色などを指す。大柄な体格の人は無意識に権威や与えることがあり、また清潔感のある人は、ない人に比べて信頼感を得られることがある。逆に言えば、相手がどのように自分の外見を利用してメッセージを発しているかにも注目することが重要と言える。

●接触行動

接触行動は、握手や肩を叩くなどの身体的接触を言う。ビジネスシーンでは、握手が最も代表的だが、その強さや長さで印象が変わることがあるだろう。強い握手は自信を示す一方で、あまりに強ければ敵意と取られてしまいかねない。

●人工物の使用

ここで言う人工物とは、衣服やアクセサリー、持ち物など、身の回りの物を指す。ビジネスの場面では、スーツやネクタイ、時計などがその一例だ。こうした装飾品は、着用するだけで、相手に対して自分の社会的地位や信頼性を示すツールとして機能する。

●環境

「ノンバーバルコミュニケーション」には、周囲の環境も影響する。オフィスのインテリアや会議室のレイアウトが、コミュニケーションの質に影響を与えるのだ。例えば、開放的な空間では、フレンドリーでオープンなコミュニケーションが促進されやすく、クローズドな空間では、よりフォーマルな対話を行うのに適している。

●匂い

匂いは、無意識のうちに人の印象を左右する要素だ。香水や柔軟剤の香りがその人の印象を良くすることもあれば、逆に不快感を与えることもある。特にビジネスの場では、強すぎない香りを意識することが重要だ。

●外観

外観には、服装や髪型、メイクなどの要素が含まれる。ビジネスにおいては、身だしなみがその人の信頼性やプロフェッショナリズムを象徴し、時と場所に適した服装は相手に対する礼儀とも言える。外観を整えることで、初対面の印象を良くすることができる。

「ノンバーバルコミュニケーション」が活躍する場面

「ノンバーバルコミュニケーション」は、ビジネスシーンにおいてどう活用されるのか。場面別に説明していこう。

●会議・プレゼンテーション

会議やプレゼンテーションの場では、言葉だけでなく、視線や姿勢、ジェスチャーが重要となる。例えば、発話者がアイコンタクトを取ることで、聞き手側は自身に話しかけられていると感じ、注意を引きやすくなる。適度なジェスチャーを使って視覚的にメッセージを補強すれば、相手により内容を理解してもらいやすくもなるだろう。そして、姿勢や立ち方も重要だ。まっすぐ立って自信を持った態度で話すことで、話の信頼性や説得力が増す。逆に、体を縮こませたり、目を合わせなかったりすると、緊張している印象を与え、聞き手の興味を失わせてしまう可能性がある。

●商談

商談においては、「ノンバーバルコミュニケーション」が契約の成否に大きく影響する。商談相手の目をしっかりと見て話せば、誠実さや信頼感を与えられる一方で、視線を逸らしがちだと、自信のなさや不誠実な印象を与えてしまう場合がある。また、相手の発言に対して頷いたり軽い笑顔を見せたりすることで、話を真剣に聞いているという姿勢を伝え、信頼関係を築きやすくなる。

●スピーチ

スピーチにおいて、姿勢やジェスチャー、声のトーンによって、内容をより深く聞き手に伝えることができる。堂々とステージに立ち、大きな身振り手振りをつけながら話すことで、説得力が増す。逆に、姿勢が悪かったり、ジェスチャーが少なかったりすると、話の内容に対する説得力が薄れてしまう。そのためスピーカーは内容以上に、話し方に気を遣わなければならない。

●研修・ワークショップ

研修やワークショップでは、講師と受講者との間に円滑なコミュニケーションが不可欠だ。講師が受講者一人ひとりに視線を配りながら話すことで、より参加型の学びの場を作り出すことができる。「ノンバーバルコミュニケーション」は、受講者の興味や集中力を維持するためにも有効な手段と言える。

●面接

面接では、応募者と面接官のどちらもが「ノンバーバルコミュニケーション」に注意を払う必要がある。応募者は、自分のスキルや経験を言葉で伝えるだけでなく、姿勢や表情などを通じて、自信や真剣さを表現することが求められる。一方で面接官も応募者の言葉だけでなく、声のトーンやしぐさから本音を読み取ることが大切となってくる。特に、初対面の際には、非言語の情報が第一印象に大きく影響する。

「ノンバーバルコミュニケーション」を取り入れる方法

「ノンバーバルコミュニケーション」を意識的に取り入れることで、日常のコミュニケーションの質を高められる。以下で取り入れる方法を紹介していく。

●話すトーンや大きさ

強調したいポイントを話す際には、声のトーンを少し上げて話すと、聞き手の注意を引くことができる。また、静かな場所での話や感情に訴えかけたい場合には、意図的に声のボリュームを下げることで、真剣さが伝わる。

●話す速さや間の取り方

速く話しすぎると、緊張しているように見られたり、相手が内容を理解しづらくなってしまうだろう。ただし逆に、遅すぎれば、退屈な印象を与えてしまう。適度な間を置くことで、相手に考える時間を与えたり、重要なポイントを強調することができる。

●動作やジェスチャー

動作やジェスチャーは、言葉に感情を加え、強調しやすくする。相手に意図をより伝えたいポイントでは、手を広げたり、アイコンタクトを取ったりすることで、言葉の背景におる意味を補い、強く印象付けることができる。

●表情やしぐさ

表情やしぐさは、「ノンバーバルコミュニケーション」の中でも最も影響力のある要素の一つと言える。笑顔は親しみやすさを、真剣な表情は信頼感を相手に与えることができる。相手が話している間には、適度にうなずいたり、目を見開いたりするしぐさを見せることで、共感や理解を示すことが可能だ。

●相手の反応

コミュニケーションを取る時には、相手の反応に敏感になることも重要だ。相手が腕を組んでいたり、視線を逸らしたりしている場合は、興味を失っているか、不安を感じている恐れがある。その時には、話の内容やトーンを変えることで、相手の興味を引き戻すことができるかもしれない。つまり、相手の反応を観察しながら、柔軟に伝え方を調整することが、効果的な対話のポイントとなるのだ。

●身なりも意識

外見は第一印象を左右する。ビジネスの場では、清潔感があり、適切な服装を選ぶ必要がある。相手に与える印象を意識して、服装や髪型、アクセサリーなどの身なりを整えることで、プロフェッショナルな印象を与えることができる。また、身だしなみは自信を持ってコミュニケーションを行うためにも有効だ。

「ノンバーバルコミュニケーション」の注意点

「ノンバーバルコミュニケーション」を行う際には、いくつかの注意点もある。主な3つを紹介しよう。

●相手の状況に合わせる

相手の文化や状況に応じて、「ノンバーバルコミュニケーション」を適切に使い分けたい。例えば、文化によってはアイコンタクトが不快に感じられたり、ジェスチャーの意味が異なったりする場合がある。相手がどんな環境や文化的背景を持っているかを意識し、それに応じた表現を選ぶことが、信頼関係構築の鍵となる。

●伝える内容は明確にする

「ノンバーバルコミュニケーション」には言葉を補完する役割があるが、それだけではメッセージが曖昧になることが多々ある。特にビジネスシーンでは、伝えたい内容をまず言葉で明確にし、その上でノンバーバルな要素を加えることで、誤解を防ぐことができる。

●やりすぎに注意する

「ノンバーバルコミュニケーション」が過剰だと、不自然な印象を与えてしまう。頻繁にジェスチャーを使いすぎているとしたら、相手に焦りや不安を感じさせてしまうかもしれない。適度に使うことが大切だ。

まとめ

「ノンバーバルコミュニケーション」は、言葉だけでは伝えきれない感情や意図を補完する重要な役割を果たす手法だ。面接、評価面談、プレゼンテーションなど、人事の業務においてもさまざまな場面で活用され、大きな影響を与える。人事担当者が、非言語のサインを読み取るスキルを養い、また社員に身に付けさせることで社内のコミュニケーションの質を向上させることができるだろう。ぜひ意識的に社内でのやり取りに取り入れる文化を作り上げてほしい。

よくある質問

●「ノンバーバルコミュニケーション」の具体例は?

「ノンバーバルコミュニケーション」の種類はさまざまだ。具体的には、以下がある。

・声のトーンや強弱、速さ、リズムなどの周辺言語
・ジェスチャーや手振り、姿勢などの身体動作
・見た目や体型、身長、肌の色、髪の色などの身体特徴
・握手や肩を叩くなどの接触行動
・衣服やアクセサリー、持ち物などの人工物の活用
・インテリアやレイアウトなどの環境
・匂い
・服装や髪型、メイクなどの外観

●「ノンバーバルコミュニケーション」で気をつけることは?

「ノンバーバル」の表現において、留意しておきたいことは主に以下の3点がある。

・相手の状況に合わせる
・伝える内容は明確にする
・やりすぎに注意する
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