2023年4月、給与支払口座として資金移動業者(〇〇Payなど)を指定できる改正法が施行されました。しかし、施行から1年以上、厚生労働省からの指定を受けた資金移動業者がなかったために、実際にはデジタル払いを行うことができませんでした。そんな中、2024年8月9日、ついに1社目の指定業者が決定したため、今後はデジタル払いが本格始動していきます。そこで今回は、「給与のデジタル払い」について解説していきます。

2023年4月の「給与のデジタル払い」解禁から1年半弱、ついに1社目の業者が指定。導入のポイントは

「給与のデジタル払い」を導入するメリットは?

そもそも、給与のデジタル払いが解禁された背景には、キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化が背景にあります。

公正取引委員会が2020(令和2)年に発表した「QRコードなどを用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」によれば、約4割が“給与デジタル払いの利用を検討したい”と回答しています。2020年と比較すると、更にキャッシュレス決済も普及しており、現在、この数字は増加していてもおかしくありません。

このように従業員のニーズがあるということは、従業員の満足度向上や採用時のPRなど、企業イメージの向上に繋がることも考えられます。

2024年8月に指定された第1号の資金移動業者は「PayPay」です。厚生労働省のウェブサイトによれば、8月9日時点で3社が審査中とのことですので、指定を受ける業者が増えれば、従業員のニーズもより増えていくと想定されます。

「給与のデジタル払い」の方法を整理

給与のデジタル払いを始める場合には、以下の流れで対応します。

1)導入する資金移動業者の検討

まずは、どの業者を導入するのか検討します。厚生労働省の指定を受けている業者しか選べませんので、厚生労働省のウェブサイトを定期的に確認していただくのがよいでしょう。資金移動業者との契約の要否、手数料負担の有無・金額などは業者によって異なりますので、必要に応じて、各資金移動業者のウェブサイトを確認しながら検討します。

2)労使協定の締結

企業が給与のデジタル払いを始める場合、労使協定の締結が必要です。労使協定には、以下の事項を定めます。

●対象労働者の範囲
●対象となる賃金の範囲とその金額
●取扱指定資金移動業者の範囲
●実施開始時期

労使協定の雛形は厚生労働省のウェブサイトにも掲載されていますので、参考にしてください。

3)従業員への周知・個別の同意取得

労使協定が締結できたら、社内周知・説明を行います。社内説明は、資金移動業者に委託することも可能です。

周知・説明の後、デジタル払いを希望する従業員には「同意書」と「支払先の情報」を提出してもらいます。説明を資金移動業者に委託した場合でも、同意書の取得は企業が行います。周知という意味でも、希望者以外にも同意書を配布し、希望の有無を全従業員に確認することも有用です。

こちらの同意書も、厚生労働省のウェブサイトで雛形が掲載されていますが、資金移動業者によってデジタル払いに必要な情報が異なる場合もあります。導入する資金移動業者によって、従業員から取得する支払先情報は変更してください。

4)給与支払い処理

支払い手続きは、資金移動業者によって異なります。導入する業者の手続き方法を確認してください。

なお、PayPayでは、PayPayと企業間での特別な契約や申請は必要ありません。PayPayへの給与支払いを希望する従業員がPayPayで利用登録を行うと、利用者ごとに口座番号が設定されるので、システムの設定変更なども不要で従来の口座振り込みと同様の処理で給与振り込みが行えるとのことです。

また、給与のデジタル払いには資金移動業者ごとに受取上限金額が定められていますが、PayPayでは上限を超える振込があった場合、従業員が事前にPayPayに設定した銀行口座へ超過分を自動送金してくれるとのことです。様々な観点から、PayPayはデジタル払い導入のハードルが低いという印象を受けます。

「給与のデジタル支払い」のその他のポイント

デジタル払いはあくまで選択肢の1つです。そのため、従業員にも企業にも導入が強制されるものではありません。従業員から希望があった場合には必ず企業が導入しなければいけないわけでもありませんので、話し合いを経て導入の有無を決定するので問題ありません。

同様に、企業が従業員へデジタル払いを強制することもできません。“給与の一部は従来通りの銀行口座で、一部はデジタル払いで”という方法も可能です。あくまで「選択肢が1つ増えた」という捉え方をしていただくと良いでしょう。

また、資金移動業者の口座は「預金」のためではなく「支払」、「送金」に用いるためのものです。そのため、口座には上限額が設定されています。業者によって上限額も異なりますので、あらかじめ確認しておきましょう。なお、上限額を超過した振込があった場合には、従業員がアプリ等で事前設定した銀行口座に自動送金されますので、超過があった場合に企業に何らかの手間・手数料負担がかかるということは原則ありません。

さらに、指定された資金移動業者には第三者保証機関が定められており、万が一、業者が破綻した場合でも、その保証機関による保証が提供されます。

指定業者第1号のPayPayは、2024年内に給与支払いの利用を開始するとのことです。デジタル払いの導入可否は今から検討を始めても早すぎることはありません。従業員からの問い合わせがあったときに「知らなかった」とならないよう、情報収集は早めに行っておきましょう。
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