「高齢化率の上昇」、「老老介護」、「介護職の不足」など、介護に関わる問題は多岐にわたります。人事労務管理の場面においては、“介護休業”などの制度を効率的に利用できるかが大切になります。今回は、国の動向などを含め、仕事と介護を両立している従業員に対して、会社としてどのように向き合うべきかを考えていきます。
2025年度施行予定「育児・介護休業法」の改正で、「介護休業」の個別周知・意向確認が義務化へ。介護離職を防ぐ従業員対応を解説

会社が抱える「仕事と介護の両立支援を推進する上での課題」とは?

まずは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた厚生労働省委託調査「令和3年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書 企業アンケート調査結果」(以下、調査)から、会社が抱えている課題を確認していきます。

調査の中で、企業に対し「仕事と介護の両立支援を推進する上での現在の課題」について回答を求めたところ(複数回答可)、1番多かった回答は「従業員の年齢構成から、今後、介護を行う従業員が増えることが懸念されること」(33.9%)でした。会社が抱える“将来を懸念した課題”と捉えられます。

次に回答が多かったのは「仕事と介護の両立で悩んでいる従業員がいても、その課題が顕在化してこないこと」(32.9%)でした。実質的には会社が抱える“今現在の課題”として最も多かったと捉えられます。

会社としては、仕事と介護を両立している従業員を把握していたにもかかわらず、従業員が突然に介護離職をしてしまったり、燃え尽きたような状態になってしまったりすることは避けたいところです。しかし、介護のたいへんさは本人にしか分からないものでもあり、だからこそ「課題が顕在化してこない」という難しさがあるのかもしれません。

国の動向:2025(令和7)年度より施行予定
「介護休業制度などの個別周知及び意向確認」の義務化

次に国の動向について確認していきます。厚生労働省は「育児・介護休業法の改正案」を、2024(令和6)年1月26日に召集された通常国会(第213回)において提出しました。

その改正案の中には、「労働者が会社に対して、家族の介護が必要になったことを申し出た時は、会社は労働者に対して、介護休業などの制度を知らせるとともに、労働者の意向を確認するための面談などの措置を講じる」(以下、個別周知・意向確認)という趣旨の条文案が含まれています(2025/令和7年度より施行予定)。

この個別周知・意向確認の必要性については、厚生労働省「労働政策審議会雇用環境・均等分科会」(以下、分科会)でも検討が重ねられてきました。第66回分科会資料の中でも「家族の介護の必要性の申出をした労働者に対する個別の周知等及び環境整備」に関する『新たな仕組みの必要性』について、次のように触れられています。

● 両立支援制度を利用しないまま介護離職に至ることを防止するために、仕事と介護の両立支援制度の周知や雇用環境の整備を行うことが適当である。
●介護に直面した労働者が離職せずに仕事と介護の両立を実現することは、企業・労働者双方にとって重要であることから、労働者に対して情報を届けやすい主体である、個々の企業による情報提供を促していくことが適当である。
※第66回労働政策審議会雇用環境・均等分科会「資料1 仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について(案)」より

先ほど紹介した「仕事と介護の両立で悩んでいる従業員がいても、その課題が顕在化してこないこと」のような会社が抱える課題に対し、国が解決策の中心と想定しているのが『会社の個別周知・意向確認』です。

育児休業との両輪で、効率的な“介護休業”の個別周知・意向確認を!

“育児休業”に関する個別周知・意向確認については、2022(令和4)年4月より事業主に義務化されています。つまり、 “育児休業”に関して義務化した仕組みを、“介護休業”に関しても2025(令和7)年度より採用することになります。

実際に分科会資料の中でも「育児休業制度の個別周知・意向確認の仕組みを参考に」とされ、“介護休業”に関する個別周知・意向確認の必要性について触れています。“介護休業”の制度の概要については、厚生労働省の特設サイトにてご確認ください。実際に“介護休業”と“育児休業”は重複している内容が多いため、併せて理解すると効果的です。


少子高齢化社会が進む中で、近年はこども家庭庁の新設など、こどもに関してより焦点が当てられてきました。そのような流れの中で、男性の育児休業制度の取得率が向上するなど、“育児休業”に向き合うよう組織風土も少しずつ変わり始めています。

育児休業取得推進の歩みをいかし、ぜひあらためて“介護休業”にも焦点を当て、家族の介護が必要になったことを申し出た従業員に対しての個別周知・意向確認に力を入れていきましょう。そのことが、仕事と介護を両立する従業員への理解を深めることができる組織風土となり、従業員が一人で悩みを抱え込まないため、会社が従業員と向き合うことができる機会へとつながっていきます。
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