2015年に50人以上の従業員がいる事業場で「ストレスチェック」が義務化されてから10年近くがたち、多くの会社に浸透しています。その一方で、“ストレスチェックの結果「高ストレス」と判定された従業員を産業医に面談させる”ということにしか利用しない職場があまりに多いのに驚かされます。ストレスチェックは、上手に利用すれば職場改善につながる強力なツールとなります。今回はストレスチェックを職場改善に生かす方法についてお話しします。
「ストレスチェック」を有効活用する方法とは。上手に使えば職場改善の強力なツールに

ストレスチェックの“大きな目的”とは

ストレスチェックの大きな目的は、職場改善の必要性を会社に認識させることにあります。

ストレスチェックを実施すると、会社には個々人の結果はわかりませんが、“日本の全産業の平均点を100点とした場合”の自社(または部署単位)の点数が返ってきます。主に、「量-コントロール判定図の点数」と「職場の支援判定図の点数」があります。

前者は仕事の量が多いほど、また裁量が少ないほどストレスが大きくなるという理論に則っていて、ストレスが高いほど点数が高くなります。後者は、上司の支援の度合い、同僚の支援の度合いが少ないほど点数が高くなります。

この二つの数値をかけて100で割ると、「日本の平均的な職場に比べどれだけ健康障害のリスクが高いか」がわかります。

例えば前者が120点、後者が110点だった場合、120×110÷100=132ですので、この職場は全国の平均に比べ1.32倍職場の健康リスクが高いことを示しています。そうなると、このリスクを下げたいですよね。そのためには職場の働き方や風土を変えなければいけません。

職場改善というのは簡単に効果が出るものではありません。数値目標を立てて1年間取り組み、翌年のストレスチェック結果を見て、効果が出ているのであれば次の年も続けます。さらにほかの方法を付け加えるのもいいでしょう。もし効果が不十分と思える時は、もう1年同じ方法を試すか、別の方法を試すかについて考えます。

この様に、数年単位でPDCAを回します。

ストレスチェックを生かした職場改善方法~トップダウン方式~

職場改善には主に、2つのトップダウン方式と従業員参加型方式の、計3つの方法があります。まずはトップダウン方式から解説します。

●トップダウン方式(1):経営者主体の方法

経営者が判定図を見て方針を決めます。例えば「ノー残業デイ」などを設けるなどです。

この方法は、完全なトップダウン方式であるため会社全体が一斉に従うので、的確な手を打てば一気に改善されます。欠点は、現場のニーズとずれた、独りよがりな方針の可能性があることです。方針を決める際、会社の産業医や産業保健専門役員などの専門家に相談するといいでしょう。

●トップダウン方式(2):管理職主体の方法

判定図の部署単位の点数をもとに、管理職がそれぞれ対策を考え実行に移し、会社に報告します(例えば自署の同僚の支援が低いので、ランチ会を月1回開くなど)。翌年のストレスチェックの結果を見て、うまく行った事例について会社が発表すれば、他の管理職の参考になります。利点としては、やはりトップダウンであるため徹底できることですが、欠点としては管理職の負担が大きいことです。

またこの方法の最大の懸念点は、管理職自身がその部署のストレス源になっている可能性があり、逆効果になることです。ストレスチェックの「上司の支援」が極端に低い場合、また現管理職が就任してからストレスチェックの結果が悪くなっている場合要注意です。

これにあてはまる時は、部署の全従業員に聞き取りを行います。会社には話したくないことでも会社の産業保健職には話しやすいので、聞き取りは産業保健職が実施してもいいですし、日本労働衛生コンサルタント会などの外部団体に委託する方法もあります。

ストレスチェックを生かした職場改善方法~従業員参加型方式~

従業員参加型の職場改善方法がもっとも効果が高いと言われていますが、複雑なためここでは概要のみ示します。

ストレスチェックの結果が出てから約2ヵ月をかけて“職場改善へ取り組むこと”への合意を形成し、そのうえで約60分の「いきいきワーク」を課単位(10人程度)などの少人数グループで行います。

後述する厚生労働省のパンフレットに載っている改善事例の中から、“自分ならこの方法を採用したい”と思うものを選び、続いて、ワークシートに、まず自分の職場のいいところを3つ、次に改善案を3つ書きます。最後にシートを集めて、いいところ3つ、改善策3つを選び、「誰が」、「何を」、「どのように」、「いつまでに」やるかを決めて「いきいきワーク」は終了となります。その後は、次回のストレスチェック実施まで担当者が改善計画・報告シートを埋めていきます。

従業員の負担がそれなりにあり、また初めはうまく行かないことも多いのが難点ですが、「自分たちで改善方法を決めた」ということが効力感を高め、2年、3年とやっていくうちに参加者も慣れてきて、徐々に職場が改善されていきます。

詳しいやり方は厚生労働省「【2018改訂版】いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き(仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方)」をご参照ください。

ストレスチェックを活用して、それぞれが十分な力を発揮できる職場環境を作っていきましょう。
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