「シニア戦力化・活性化」を巡る現状
最近の経済紙、経済雑誌に、シニアを主たるターゲットとした「リスキリング」という言葉が載らないことはないと言って良いほど、「シニアのキャリア」、「シニアの戦力化・活性化」についての問題意識は高まっています。2021年9月に筆者がHRプロで書き、未だにグーグル検索で「シニアの戦力化 活性化 キャリア」といったキーワードで最上位の方に来る「人生100年時代を見据えた、中高年社員のキャリア形成(第1回)(※)」を執筆した頃は、まだこうしたことが人口に膾炙することは少なかったのですが、今や大きく社会的な環境が変化していると言って良いでしょう。
※中高年社員の「キャリア形成」を企業がサポートすべき本当の理由 シリーズ:人生100年時代を見据えた、中高年社員のキャリア形成(第1回)
では、この3年弱の間で、シニアを巡る環境はどのように変化したのでしょうか。ポイントは以下の2点です。
(1)企業経営者の意識、ガバナンス、そして人的資本経営の開始
筆者がこの記事(※)にて詳述しているように、日本株式市場の活況は日本の大企業の変革を先取りしており、それは経営者の企業改革やガバナンスへの意識の高まりを示していて、持続的なものであると筆者は考えています。改革の対象として明確に「シニア」が言及されることはまだ少ないのが現状ですが、人的資本経営の一つとして、シニア世代の戦力化・活性化は今後の高齢化社会の進展に伴うシニア世代社員の増加によって、改革の対象となることは必須です。
※Japan In-depth 2023年12月3日「日本の株式市場、人的資本経営が鍵」
(2)シニア世代の就業者が顕著に増加していること
2023年9月に総務省統計局発表による「高齢者の就業者」統計によると、2021年では「2004年以降、18年連続で前年に比べ増加し、909万人と過去最多」となっており、下図にあるように「高齢者の就業率は25.1%で前年と同率、65~69歳は初めて50%超え」にまでなっているのが明らかになっています。大企業の場合には、65歳までの雇用延長によって経済的には必ずしも65歳以上も働かなくても良い高齢者も多いわけですが、人生100年時代には主に経済的な観点から、既に高齢者の就業は当たり前のこととなっているのです。
引用:総務省労働局「統計トピックスNo.132 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで- 2.高齢者の就業」(https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1322.html)
今こそ、企業が積極的に「シニア戦力化・活性化」をスタートするとき
人手不足の中小企業、地域企業、そして技術や経験の継承に苦労が多い専門家の領域では、既にシニアの戦力化・活性化は当然のこととして行われているわけです。問題は、「総合職」としてメンバーシップ型雇用で学卒同時に入社してきた多くの大企業社員の場合です。これまで、「働かないオジサン」などと揶揄されてきたこうしたシニア社員については、多くの企業で「戦力化・活性化」に対しての積極的な取組みがなされてきませんでした。研修をシニアに対して行うなどという発想自体が稀であり、せいぜい社員の福利厚生施策の一つとして、「説明会」のようなことは実施していたとしても、本格的に「シニアの戦力化・活性化」に向けた研修等の施策自体は一部の先進的な企業を除いては行われてこなかったと言って良いでしょう。あまりに企業が前向きだと「希望退職を始めるのではないか」と社員や組合に勘ぐられるといった懸念もあったかもしれません。
いずれにせよ、企業がリーダーシップを持って、「シニアの戦力化・活性化」を企業内で開始して来なかったのは事実でしょう。
しかしながら、上述のように、もう時代は変わろうとしています。社内の客観的な都合はもちろん、従業員自体も、変化する状況の中で、自らの「キャリア形成」に対する意識が変わってきているのです。大企業においても、60歳の定年時まではまだまだ「会社に任せておけば悪いようにはしない」と考えてきた従業員が、役職定年、60歳以降の業務委託契約への切換えなどによる年収の大幅ダウンという現実の前に、変わらざるを得ないと考え出しているのが正に現状なのではないでしょうか。
声を大にして、大企業のHR担当、経営幹部に対して申上げたいと考えます。
今こそ、シニア社員の方々に対して、こう呼びかけようではありませんか。
「高齢化が進展し、少子化による人手不足が深刻化する今後、シニア社員の皆さんが再び大きな戦力として社業に貢献しないと会社はもうもちません。そして、人生100年時代のシニア社員のキャリア形成もシニア社員の皆さん自身の重要な課題であることも間違いないです。会社は皆さんと一緒に、皆さんの「リスキリングによる活性化・戦力化」に真剣に取組むことにします。皆さんのご協力、主体的な取組みをお願いします」と。
もう遠慮、無用な忖度は会社とシニア社員双方にとって無益です。
次回、シニアの戦力化・活性化において、本当に高いハードルである「意識変化」についての企業の実効性のある手法について、具体的にお示ししたいと思っています。
ご期待下さい。
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