「感謝の気持ち」が表れているか
リーダーは日々の業務で、部下にさまざまな作業を命じるであろう。たとえば、部長が部下にコピー取りを命じたとする。しばらくして、コピーを取り終えた部下が、出来上がったコピーを持参して「部長、コピー終わりました」などと終了報告に来る。このとき、皆さんであればどのような態度で部下と接するだろうか。このような場面を注意深くみていくと、
・「うん」「ああ」などと言いながらコピーを受け取る。
・無言でコピーを受け取る。
などのケースが数多く見受けられることに気付く。しかし、こうした対応は、決して好ましい態度とは言えない。コピー取りという作業を部下にしてもらったことに対する「感謝の気持ち」が表れていないからである。
コピーを取るなどの難易度の低い作業であったとしても、完了したことに対して「助かったよ。ありがとう」など「感謝の気持ち」を表すリーダーの“言葉掛け”があれば、業務や職場に対する部下のモチベーションは各段に上がるものである。その結果、雑務といわれるような作業を命じられたとしても、“前向き”な気持ちで取り組める可能性が高くなる。人間には周囲の期待に応えようとする特質があるからである。
ところが、コピーを取った後の終了報告に対して「感謝の気持ち」を示さず、至極当然のごとく、出来上がったコピーを受け取るようなリーダーの態度は、部下のモチベーションを著しく低下させてしまうことがある。その結果、職場の雰囲気の悪化、生産性の低下、離職率の上昇などにも繋がりかねないので注意が必要である。
人間は“理屈”ではなく“感情”で動く
このような対応をとるリーダーの中には「仕事なのだから、部下が上司の指示に従うのは当たり前である。当たり前のことを行っただけだから、感謝は必要ない」などと考える方もいるようである。確かに、組織の中では下位者は上位者の指示に従い、誠実に職務に専念することが労働契約上の義務である。その意味では、命じたとおりにコピーを取る行為は、労働契約上の義務を果たしただけとも言える。しかし、人間には「“理屈”ではなく“感情”で動く」という特性がある。自分が行った仕事に対して感謝されれば嬉しいし、大して感謝もされなければ面白くはないのだ。
また、中には「上司は部下よりも偉いのだから、感謝など必要ない」という考えを持つリーダーがいるかもしれない。しかし、部長が「部長である」という理由で部下よりも偉いわけではない。役職の違いは組織内での単なる“役割の違い”にしか過ぎないからである。
それにもかかわらず、「上司は部下よりも偉い」などの職業観を持ち「感謝など必要ない」などと考えていては、部下の“前向き”な行動を引き出すことなど、期待できるものではない。
目を見て笑顔で「感謝」を伝える
終了報告の受け方には部下のモチベーションを上げるやり方もあれば、モチベーションを下げるやり方も存在する。部下のモチベーションを上げるためには、終了報告の際に作業を行ってもらったことに対する「感謝の気持ち」を表すことがポイントである。ただし、「感謝の気持ち」を示すときには、単に「ありがとう」と口にするだけでは十分ではない。「感謝の気持ち」は必ず部下の目を見て、笑顔で「ありがとう」と伝えることが重要だ。リーダーがこのような態度で部下の終了報告を受けたとき、部下の心の中に“前向き”な感情が醸成される傾向にある。
「目を見て笑顔で感謝の言葉を口にする」。ヒトとヒトとが関わりあう企業・組織では、必須のコミュニケーションスキルである。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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