退職予定の社員から、本当の退職理由をはじめとする「職場や仕事に対する本音」をヒアリングする「退職者のケア」。2023年10月10日付コラム『退職者のケアのすすめ』第1回では、人事労務部門が押さえておきたい「退職者のケア」の概要を解説した。シリーズの第2回目となる今回からは、従業員属性別の「退職者のケア」について整理をしてみたい。まずは、「新入社員」や「若年社員」が退職をする場合について考察してみよう。

退職する「新入社員」や「若年社員」に対するヒアリングのポイント【退職者のケアのすすめ:第2回/全4回】

「大学院に進学するから」は“本当の退職理由”とは限らない

退職時に“本当の退職理由”を告げる社員は必ずしも多くないものだが、この点は新入社員や若年社員が退職する場合も例外ではない。若手人材の場合には、例えば「大学院に進学するから」、「資格取得の勉強に専念するから」などの理由で職場を後にするケースも見られるようである。

このような退職理由を聞かされた人事部門の担当者の中には、「大学院に進むのだから“前向きな退職”である」、「資格取得が目的なのだから“本人のためになる退職”である」などと、若手人材の退職を肯定的に解釈するケースが少なくない。その結果、これらの退職事案について、「会社側には何の問題もない」と上席者に報告している事例も散見される。

もちろん、「進学する」、「勉強に専念する」などは、事実かもしれない。ただし、本人が充実した会社生活・問題のない職業人人生を送れているのであれば、仮に進学などの新たな目標が生じたとしても、現在の仕事との両立を前提とするのが一般的である。

例えば、「勤務を継続しながら休日に大学院に通う」、「昼間は会社で働き、夜間に資格取得の勉強をする」などが可能であろう。現にそのような取り組みを行っている若手ビジネスパーソンは、少なくない。

それにもかかわらず、せっかく就職した会社を退職する選択をした背景には、若手人材がそのような意思決定をせざるを得なかった“別の事情”が存在するものである。従って、表面的な退職理由のヒアリングで満足しないことが重要といえる。

「ヒアリング担当者の選任」に配慮・工夫を

新入社員や若年社員の“本当の退職理由”を知るには、退職する若手人材に合わせてヒアリング担当者を選任することが必要となる。

仮に、人事部門の管理職層がヒアリングする場合、退職する若年社員との年齢差がかなり大きくなるケースが多いだろう。親子ほどの年齢差になることも少なくないはずである。自身の親と同年代の相手に対し、若年社員が言いづらい本音を語ることは決して容易ではない。比較的年齢の近い人材をヒアリング担当者とするほうが、若年社員の本音は聞き取りやすいケースが多いものである。

また、退職する若年社員が女性の場合、ヒアリング担当者に男性社員を任命すると、仮に年齢が近かったとしても本音を語りづらいという現象が起こることがある。そのため、同性の先輩社員をヒアリング担当者に選任したほうが賢明である。

なお、ヒアリングを行う際は事前に“本当の退職理由”に当たりを付けておき、ヒアリング時に担当者から「〇〇についてはどうですか」などと質問をするのも効果的である。退職する若年社員の周辺人材にあらかじめヒアリングを行うなどし、“本当の退職理由”の検討を付けておくのもよいだろう。

ぜひ確認したい「就職活動時に受けた説明」と「現実の業務」とのギャップ

新入社員や若年社員の退職では、「想像していた仕事と違った」という点が“本当の退職理由”になることがある。このような現象は、「就職活動の際に会社側から受けた業務説明」と「実際の業務」との間にギャップが存在する場合に起こりやすい。

具体例で考えてみよう。大学を卒業してコールセンター運営会社に入社した新入社員が、入社から1年経過して退職をした。コールセンターという業態はクレーム対応による業務負荷が問題になりがちだが、とりわけ同社の業務はハードクレームが多いという特徴を持っていた。

ところが、就職活動の際に参加した会社説明会では、そのような業務特性が存在することは全く説明されなかったため、本人は同社に夢を抱いて入社したのである。しかしながら、現実の業務では日々ハードクレームの洗礼を受けることとなり、「想像していた仕事と違った」という思いから退職を意思決定したというケースである。

このような退職事例が発生する企業には、「人事部門の社員が他部門の業務内容に疎い」、「採用人数の目標数値達成を優先するあまり、マイナスの業務特性の存在を意図的に曖昧にして採用活動を行っている」などの問題が内在しがちである。

しかしながら、このような問題は現実にその影響を被った当事者の声を収集できなければ、なかなか表面化するものではない。従って、退職をする若手人材へのヒアリングでは、「就職活動の際に受けた説明」と「現実の業務」との不一致についても、ぜひ確認しておきたいところである。

退職する若手人材を「転職の悪循環」に陥らせないために

若年社員の場合には、「今の仕事は自分には向かない」という点が“本当の退職理由”になるケースも少なくない。「自分に合う仕事が他にあるはずだ」などの思いから退職を決意しがちである。

このような若手人材に対しては、本人の将来のため、退職前にぜひ伝えたい事実がある。それは「今の仕事が自分に向くかどうかは、2~3年程度の勤務経験で判断できるものではない」ということである。

職業に対する適性は、仕事の「遂行能力」と「実行領域」が拡大しなければ、適切に認識できるものではない。仕事の遂行能力・実行領域を拡大させるには、“全力で仕事に取り組む経験”を数多く積むことがどうしても必要となる。そのため、自分の職業適性に気付けるようになるには、かなりの時間を要するものである。「社会に出て10年、20年働いた後、やっと自身の適性らしきものに気付いた」という話も少なくない。

この仕組みを理解せずに転職をすると、新しい職場でも早々に「この企業の仕事は、自分には向かない」との思いを抱きやすくなる。その結果、自身に向いた仕事を求めて、何度も転職を繰り返しかねない。転職回数が増えれば、定職に就けなくなるリスクも高くなる。

自社を退職した若年社員がそのような事態に陥ることのないよう、「職業適性は長年にわたって全力で仕事に取り組む経験を多数積んだときに、初めて気付けるものであること」を、ぜひヒアリングの際に伝えたいものである。
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