「人的資本経営」における「エンゲージメント」の捉え方
学習院大学 経済学部経営学科 教授/一橋大学 名誉教授 守島 基博氏
人材価値の最大化に向けてカギとなる「全員戦力化」という人材戦略
本日は人的資本経営における「エンゲージメント」の捉え方についてお話させていただきたいと思います。その前に、まずは「人的資本経営」について簡単におさらいしておきましょう。人的資本経営とは、人材を重要な経営資本だと捉え、投資の対象とし、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上に繋げる経営のあり方です。注目される背景としては、事業創造・イノベーション・企業変革など、人間にしかできない創造的活動が企業価値向上の根幹となってきたこと。さらに少子高齢化や働く人の多様化などにより、人材(人的資本)の確保が困難になってきたことなどが挙げられます。そうした中で、人材投資やその成果に関する情報の開示により、人材マネジメントを向上させ、ひいては企業価値を高めようとする動きが起こってきました。
しかし、本当に重要なのは、企業が行う人的投資の内容や人材への投資額ではありません。問われているのは、適切な人材がきちんと経営戦略の中に位置づけられ、その実現に貢献する仕事をしているか、経営戦略や目的の実現に向けて活用されているか、端的に言えば、人材の価値が最大限発揮されているか、ということであり、株主もそうしたことを知りたがっています。人材マネジメントの中身として、そうした人材価値の最大発揮を実現しているかが、より一層重要になってきているのです。
- 1