「遠隔地勤務制度」とは?
「遠隔地勤務制度」とは、従来のテレワークの枠組みでは限界のあった、郊外での育児や介護にも柔軟に対応できる多様な働き方を実現するため、通勤圏外に居住し、テレワークを活用した業務を行うことを目指す制度で、総務省も近年「ふるさとテレワーク」を推進しています。これは、「いつもの仕事をどこにいてもできるよう、バーチャルオフィス等の孤独感を感じさせないツールを活用し、地方へUターン(Iターン)しても、自宅やサテライトオフィス/テレワークセンターでの就労を可能とする雇用型・自営型テレワーク」をいいます。既存従業員にとっては、親族の介護や看病による精神的負担の解消、帰郷や実家継承、理想の地への転居、趣味やプライベートの充実、また新規採用者の場合は、地元を離れたくない、もしくは離れられないといった場合に活用することが期待されています。
企業にとっても、オフィスの維持費用削減や地方創生、多様な人材獲得を促進できる可能性もあります。さらに、柔軟な働き方によって従業員満足度が上昇すれば、モチベーション向上、パフォーマンスの最大化によって生産性も向上するでしょう。他にも、非常災害時の事業継続、副業の促進、配偶者の転勤などの事情で遠隔地に移住せざるを得ずに離職するケースを防ぐこと、なども期待できます。
一方で、遠隔地勤務制度は、国がテレワークの課題として掲げている「社内コミュニケーションに不安」、「顧客等外部対応に支障」、「情報セキュリティが心配」といった技術・文化面での課題と、「テレワークに適した仕事がない」、「適切な労務管理が困難」、「人事評価が難しく対象者限定」などの労務・人事面での課題もあります。
このような課題については、あらかじめ以下の点について労使で十分に話し合った上で制度を定めておくことが重要です。
●対象業務や対象者
●遠隔地の定義やオフィス出勤が必要な場合の取扱い
●賃金体系
●公平性
●申請等の手続
●費用負担
●通常又は緊急時の連絡方法
「遠隔地勤務制度」を通じて目指す「ウェルビーイング」
人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社(東京都渋谷区)は2023年4月6日、語学力と専門スキルを活かして働くグローバル人材を対象に「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について」というアンケートの結果を発表しました。調査結果では、「遠隔地勤務制度(社員は全国どこでも居住可、居住地に条件をつけない施策)を導入している」との回答は、外資系企業で39%、日系企業で31%となっています。また、「通勤圏外に居住し、そこからテレワークで勤務してみたい」との回答は67%にも上り、従業員側の遠隔地勤務制度への需要は高いことがうかがえます。
フィンランドは、世界幸福度ランキングにおいては6年連続1位で、「平均的な勤務時間は8時~16時、残業はほぼ無し」、「コーヒー休憩(カハヴィタウコ)が法律で定められている」、「年次有給休暇は完全消化」、「夏休みは1ヵ月以上取得」しますが、1人あたりのGDP(国内総生産)は日本の約1.25倍となっており、ワークライフバランスを実現しています。
フィンランドの仕事文化を語る上での重要なキーワードとして「ウェルビーイング」(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念)があります。職場においては、モチベーションや忠誠心の向上、業務の効率化やイノベーション創出にもウェルビーイングは欠かせないという認識があり、在宅勤務やフレックスタイム制などの柔軟な働き方、休憩のとり方を重視しています。
「Karoshi (過労死)」という言葉が世界にも知られているように、日本では過労死や過労自殺の増加という現実があります。これを解決するためには、フィンランドの仕事文化を参考に、企業全体の「意識」や「価値観」を見つめ直し、利用者の裾野を広げていく工夫が必要だといえそうです。働く人を尊重し、従業員の「ウェルビーイング」に配慮した働き方を目指すことで、日本においても、仕事も休みも大切にして生きていくことができるかもしれません。
このように、「ウェルビーイング」を実現するためのひとつの方法として、多様で柔軟な働き方を実現できる「遠隔地勤務制度」を検討する価値はあるでしょう。「遠隔地勤務制度」というテレワークを活用した新しい働き方を推進することで、誰もがいきいきと自分らしく働くことができる職場環境の実現を目指してみませんか。
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