「ジョブ・クラフティング」という言葉をご存知でしょうか。ジョブ・クラフティングとは、自分の仕事について、各人が「仕事のやり方への工夫」、「周りの人への工夫」、「考え方への工夫」などを行うことによって、労働生産性やワークエンゲージメントの向上、および労働者の健康につなげるという考え方です。これに対し、余暇の過ごし方を工夫する「オフジョブ・クラフティング」も効果があることがわかってきており、現在まさに研究が進んでいる分野です。今回は、オフジョブ・クラフティングについてお話しします。
人事・労務部門が考えるべき「オフジョブ・クラフティング」とは。余暇の“6つの要素”で従業員のメンタルヘルスケアを

「オフジョブ・クラフティング」で重要な“6つの要素”

仕事のやり方を工夫する「ジョブ・クラフティング」だけでなく、余暇の過ごし方を工夫する「オフジョブ・クラフティング」も、良好な職業生活を送るために有効であることが知られてきています。中でも有名なのは「DRAMMAモデル」と呼ばれ、ウィリアム・アンド・メアリー大学の心理学者Newman氏が、2010年代に提唱し始めたものです。このモデルでは、仕事のストレスからの解放には、余暇における「Detachment(仕事からの離脱)」、「Relaxation(リラックス)」、「Autonomy(自律)」、「Mastery(習熟)」、「Meaning(自分の価値観)」、「Affiliation(人間関係)」の6つの要素が必要だとされています。

1)Detachment(仕事からの離脱)

これは「仕事と余暇の間を明確にすること」です。コロナ禍に広がった在宅勤務では自宅が職場になるため、どうしてもこの区別があいまいになり、勤務時間が終わってもストレスが取れない人が極めて多くいます。余暇の間は、意識的に完全に仕事から離れるのがポイントです。

2)Relaxation(リラックス)

これは「心身ともに休息すること」です。例えば、「自然の中を散歩する」、「ゆっくりと入浴する」、「アロマをたく」などの行為が当たります。

3)Autonomy(自律)

これは「余暇を自律的に過ごすこと」です。どのような余暇の過ごし方が自分にとって最も心地よいかは、人それぞれです。例えば、ある人にとっては仲間と一緒にパーティーに行くことが楽しみかもしれません。あるいは、恋人とゆっくりドライブを楽しむのが好きな人もいるでしょう。このように、自分の余暇の過ごし方を自分で決められるのがAutonomyです。

4)Mastery(習熟)

これは「新しいことへの挑戦や学習をすること」、あるいは「自分が打ち込んでいる趣味が上達することで達成感を得られたり、他人から評価されたりすること」です。そして、それが良い余暇の過ごし方につながるという考え方です。サッカーやテニス、筋トレなど体に疲労感が溜まるものでも、例えば「先週より重いバーベルを挙げられたことで達成感が得られた」といった効果を望むことができます。

5)Meaning(自分の価値観)

これは「それぞれの労働者が持つ価値観に沿った余暇を過ごすこと」です。例えばボランティアなどで他人のために時間を使ったり、家族サービスに努めたりといった過ごし方が考えられます。

6)Affiliation(人間関係)

これは「同じ余暇でも仲の良い人や一体感を感じられる人と過ごすことが大切である」ということです。

「オフジョブ・クラフティング」のために人事・労務部門ができること

実際に近年、上記の6つの要素がストレス軽減や仕事での燃え尽き防止につながるという結果が、多くの研究で確かめられています。そのため労働者は、自分の休日がこの6つの要素に沿ったものになっているかを、時々自問してみるとよいでしょう。それにより、「仕事から完全に離れられているか」、「十分に心身を休めているか」、「本当に余暇の使い方を自分で決められているか」といったことを確認することができます。

また会社の人事・労務部門としても、従業員のオフジョブ・クラフティングのためにやるべきことがあります。とりわけ大事なのは「Detachment」、つまり終業時間を過ぎたら労働者を仕事から完全に切り離すということです。例えば、就業時間外における仕事関係の連絡は緊急の場合を除いて禁止し、労働者に“就業時間外に連絡をとらなくてよい権利”を保障するといったことです。例に挙げたこの考えは、「つながらない権利」としてEU諸国で広がりつつあります。

また、半ば強制参加のような上司主催のパーティーなど、「Autonomy」を侵害するようなイベントの廃止も重要です。労働者がよりよく働けるよう、人事・労務部門でも労働者の余暇にきちんと目を向けましょう。
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