労働人口の減少や採用手法の多様化などに伴い、人材採用がますます難しくなっている。計画通りに自社とマッチする応募者が集まらず、頭を悩ませる採用担当者も多いだろう。採用における人材確保のカギとなるのが「母集団形成」だ。採用プロセスにおいて非常に重要な工程として位置付けられているが、実際にはどのように行えばよいのだろうか。本稿では、採用における「母集団形成」の意味とメリット、それぞれの手法の特徴、新卒採用と中途採用のポイントの違いなどを解説する。
採用における「母集団形成」の意味や方法とは?  新卒採用と中途採用におけるポイントを解説

「母集団形成」の意味とは?

「母集団形成」とは、採用活動を進めていく上で企業が求める人物像に合致した人材の集団を作り上げることを意味する。もともと、「母集団」とは統計学の用語で、統計対象となる集団全体のことを指す。採用活動においては、自社に応募してくれる人の集団と言い換えられる。「母集団形成」を行う際には、ただ母集団の数を増やせば良いわけではなく、自社に興味を持ってくれていることに加え、自社が求める人物像とマッチする人材を集めることが重要である。つまり、量と質の両面で「母集団形成」を行うことが求められる。

◆「母集団形成」の重要性

「母集団形成」が重要な理由は2点ある。1点目に、少子高齢化の加速による労働者人口の減少があげられる。自ずと企業間での人材獲得競争は熾烈化しており、求職者を集めにくくなっている。そうした状況を打破していくためにも、「母集団形成」の精度を上げていくことが問われている。

2点目は、企業の採用ターゲットが重複しつつあることだ。背景としては、大手企業が新卒採用だけでなく、中途採用も強化している状況がある。被ってしまうと優秀な人材は知名度や安定性から大手企業に流れやすく、中小・中堅企業はますます人材の確保が困難になってくる。

「母集団形成」のメリット

次に、「母集団形成」にはどのようなメリットがあるのかを取り上げたい。

●採用を計画的に進められる

まずは、「母集団形成」を意識することで、採用活動を計画的に進められるというメリットがある。採用の進捗が把握しやすくなるからだ。実際、母集団を形成する際には、最終的な目標採用人数や過去の採用実績をふまえて、それぞれの採用プロセスでどれだけの人数が必要になるかを想定する。

もし、その数に達していなければ目標達成は困難となるだけに、目標値を見直したり、採用戦略を練り直したりといったアクションをしなければいけない。早い段階から行動を起こせば、その分立て直しの可能性が高まるといえる。

●採用コストを適正化できる

「母集団形成」には、採用予算を適正化できるメリットもある。人材ターゲットを定めず、やみくもに内定を出してしまうと想定以上に入社者が増え、採用コストをオーバーするかもしれない。逆に、目標の採用人数に届かず、二次募集、三次募集などと採用活動が長期化してしまう可能性もある。こちらも、採用コストが膨らんでいくことになる。

「母集団形成」を行うことで、このターゲットに合う人材を何名採用するという道筋が明確になるので、それに見合った採用手法も検討しやすくなる。

●採用ミスマッチ防止と定着率向上の効果が期待できる

「母集団形成」を図ることで、採用後のミスマッチ防止や社員の定着率向上も期待できる。自社が求める人材像に合致した人材の母集団を形成した上で採用を行えば、入社後でのギャップはある程度解消される。その結果として定着率が高まるからだ。

逆に、ターゲットを意識した「母集団形成」をせずに採用活動を行ってしまうと、社風や価値観にそぐわない人材を採用してしまう。ひいては、早期離職や採用・育成コスト増に繋がりかねない。

●生産性向上や事業成長につなげられる

活躍する可能性の高い人材を計画的に確保していくことができれば、業務の生産性向上が期待できる。結果的に、企業の成長にもつながる。人的資本の大切さがますます高まっている時代であるだけに、「母集団形成」のノウハウを蓄積していきたいものだ。

「母集団形成」の方法

それでは、実際にどう「母集団形成」をしていけばよいのか、方法をみていこう。

●就職サイト

就職サイトを活用することで、効率的に自社の認知度を高めることができ、興味も持ってもらいやすい。ただ、就職サイトに掲載する企業数は膨大なだけに、特色がないと埋もれてしまう。そのため、興味を持ってもらうためにはいかに他の企業との差別化を図るかがポイントとなる。
最近では、総合型の就職サイトだけでなく、職種やエリアに特化したタイプも登場している。登録者が自社の求める人材とマッチしているのであれば、そうした特化型就職サイトを活用するのも有効だ。

●自社採用サイト

就職サイトと違って、自社採用サイトは独自にデザインやコンテンツを工夫できるので、自社の魅力をアピールしやすい。また、自社サイト・ルートで応募してくれる人は、自社への興味が高いと考えられるため、質の高い「母集団形成」が見込めるといえる。半面、どれほどコンテンツに凝ったとしても、自社採用サイトを見てくれる人が少なければ、応募者数は期待できないというデメリットもある。

●合同説明会

合同説明会は、多くの求職者に向けて企業文化や社風、職場の雰囲気を直接伝えることができる。そのために、効率的に認知度を高められ、親近感を持ってもらいやすいといえる。

ただ、イベントの規模が大きければ、自社の存在が薄れてしまう。また、来場する求職者が少ないとなるとそもそも「母集団形成」は難しくなる。さらには、求職者一人ひとりとじっくりコミュニケーションを図るのが難しいといえる。

●学内セミナー

学内セミナーは、開催校の学生が企業の求める人材像に近い場合には、メリットが多い。セミナーに気軽に参加できるし、応募へのハードルを下げられるからだ。

その半面、1回のセミナーで大きな母集団を形成するのは難しい。参加者が想定以上に少ないといったリスクもあり得る。

●SNS

TwitterやInstagramなどのSNSも、「母集団形成」に活用できる方法だ。メリットとして挙げられるのは、カジュアルな内容を発信することで潜在層に対して自社への興味・関心を高めることや、親近感を持ってもらえることが期待できる。また、自社サイトへの誘導を図れることが挙げられる。

ただ、SNSによってユーザー層は違ってくるため、自社のターゲットが多く利用しているものを選ばないと効果が少ない。さらに、1回の発信で惹きつけるのは困難であるため、継続的な情報発信が求められる。

●人材紹介

人材紹介では、自社が求める人物像に合致する人材を紹介してもらうという採用方法だ。企業が提示する条件・項目にあてはまる人材だけを紹介してもらえるので、質が担保される。しかも、採用が確定しない限りコストは生じない。

ただ、採用が確定した場合には当然ながら紹介会社に仲介手数料を支払う必要がある。特にハイキャリア人材の場合には高額な費用がかかる場合があるので、活用する際にはコストとのバランスを考えなければいけない。

●ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングには、企業側からすれば、求める人物像にマッチした人材に直接アプローチできるメリットがある。ただ、選んでもらうためにはそれ相当のノウハウが採用担当者に求められる。

なかには、全く興味を示してくれない候補者もいると想定される。目的や目標を持って行わないと、手間がかかるだけで終わってしまうリスクもあり得る。

●リファラル採用

リファラル採用は、主に中途採用で用いられている。ミスマッチが少なく入社後の定着率もかなり高い。また、仲介手数料などのコストも不要となる。そうしたメリットが注目され、近年多くの企業で導入されている。

ただ、そもそも会社へのエンゲージメントが高くないと社員は人材を紹介してくれない。また、社員の紹介であっても、全員が採用されるわけではないため、不採用となった場合にどう対応するか考慮しておく必要がある。

新卒採用と中途採用における「母集団形成」のポイント

最後に、新卒採用と中途採用それぞれにおける「母集団形成」でのポイントをあげていきたい。

【新卒採用】

・学事日程をふまえてスケジュールを設定する
経団連が「就活ルール」の廃止を発表したことにより、就職戦線はかなり流動的になっている。ただ、新卒採用では学生を対象としているため、基本的には学事日程を踏まえた形で進めていかなければいけない。それを把握した上で内定開始時期から、面接開始時期、応募開始時期を逆算していく必要がある。

・より多くの学生と接点を作る
新卒採用の場合、業務経験やスキルの要件ではなく、人柄や意欲などを重視するポテンシャル採用となるため、まずはより多くの学生と接点を作り、自社にマッチする人物を見極めていくことが重要だ。

【中途採用】

・採用要件や求める人物像を明確にする
中途採用では、募集するポジションに合わせたピンポイントな採用となるため、経験やスキル、知識などの採用要件を固めることが欠かせない。ただ、それだけで採用してしまうのも問題だ。職場になじめず早期離職してしまうケースが良く見られるからだ。そのためにも、「母集団形成」の段階で自社が求める人物像をはっきりと打ち出し、フィットしているかどうかも判断材料とするようにしたい。

【共通】

・ターゲットを具体化する
「求めていた人物像と違った」とならないよう、人事や当該部門と事前に情報をすり合わせ募集ポジションの採用ターゲットを具体化することだ。それによって、的はずれの応募が減少し母集団を効率的に形成していけるだけでなく、ターゲット像を社内で共有することでより納得度の高い採用活動を実現できる。

・ターゲットに対して訴求力のあるメッセージを発信する
自社のターゲットを具体化したら、その層をいかに惹きつけるかがポイントとなってくる。そのためにも訴求力のあるメッセージを発信することが重要だ。採用担当者が一人で思いを巡らすのではなく、社員にヒアリングを行うことで、社内で共通の認識となっている自社の強みが明確になりやすいだろう。

・複数の方法で母集団形成を行う
「母集団形成」にはさまざまな方法があるが、それぞれにメリットとデメリットが存在する。それを踏まえた上で、お互いに補完しあえるよう複数の方法を組み合わせることが重要だ。採用スケジュールや募集人数なども考慮して最適なポートフォリオを組むようにしたい。

・データを収集・分析する
データを収集・整理・分析する重要性を改めて提示したい。例えば、チャネル毎やサービス提供企業毎の成果がどうかという切り口もあるだろう。それぞれでの応募人数や工程毎の通過人数、辞退者数、内定者数、コストなど把握できるデータは数多い。それらを収集し、分析するだけでも採用活動はかなり効率的になる。

・広く情報収集する
働き方や価値観の多様化が進み、採用トレンドはどんどん変化しているといえる。それだけに、採用動向や応募者の意識、競合企業の動向なども含めて幅広くアンテナを張り巡らし、情報を収集していく必要がある。その際には、外部の人材サービス会社などとも積極的に情報交換を図るのも有用だ。


今回は「母集団形成」を行うことで、計画的かつ戦略的な採用活動が進められることを解説した。良質な母集団を形成できれば優秀な人材、自社のターゲットにマッチした人材を確保しやすくなる。

特に中途採用の場合では、従来のような経験やスキル偏重でターゲットを設定し続けていくと、ますます大手企業や有名企業に人材が流れてしまう。改めて、自社に合った母集団とは何か、どのような人材を求めているのかを明確にした上で採用活動に取り組むことが必要である。適切な「母集団形成」は地道な作業の積み重ねとなるため、まずは自社の現状を把握することからスタートし、じっくりと取り組みたい。
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