労務担当者など、社会保険の事務手続きをしている方であれば、「産前産後期間」と「(産後休業終了後の)育児休業期間」の違いを意識する場面があると思いますが、明確な違いを理解できている人は多くないかもしれません。そもそも、なぜそのように分けられているのでしょうか。今回は、「出産に関わる労働法制度」についてポイントを整理するとともに、法律上「産前産後期間」がどのように位置づけられ、また会社経営の面で「産前産後期間」をどのように捉えるべきかを考えていきます。
「出産(産前産後期間)」に関わる労働法制度をチェック。「産前産後期間」と「育児休業期間」の違いは?

出産した労働者に関する「労働法制度」

出産に関わる制度を定めている主な法律は、「労働基準法」と「健康保険法」です。

【労働基準法】 ※働く上でのルール

●産前休業
6週間以内(多胎妊娠は14週間以内)に出産を予定する女性が休業を請求した場合は、業務に就かせることはできません

●産後休業
産後8週間を経過しない女性を就業させることはできません。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合は、医師より「支障がない」と認めた業務に就かせることは、差し支えないとしています。

「労働基準法」には、その他に「妊婦の軽易業務転換」、「妊産婦等の危険有害業務の就業制限」、「妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限」などのルールがあります。


【健康保険法】 ※出産に関する給付など

●出産育児一時金
●家族出産育児一時金
健康保険被保険者(女性労働者)が出産した場合は、政令で定める金額が支給されます。また、健康保険被扶養者(扶養されている配偶者など)が出産した場合も、「家族出産育児一時金」として支給されます。具体的には、妊娠4ヵ月(85日)以上の女性が出産したときは、一児につき42万円が支給となります。ただし、産科医療補償制度の対象外となる出産の場合は40万8千円です(2021年12月31日以前の出産は40万4千円)。なお、2023度より、42万円から50万円に増額される予定です。

●出産手当金
健康保険被保険者(女性労働者)が出産した場合は、出産日(または出産予定日)以前42日間から出産後56日までの間において、出産のため会社を休み、給与の支払いを受けなかった期間に支給されます。なお、多胎妊娠の場合は、出産日(または出産予定日)以前98日間からとなります。つまり、労働基準法で定める「産前産後休業」を取得し、給与の支払いを受けなかった場合に支給されます。

具体的には、休業した1日について、1日あたりの賃金おおよそ3分の2が支給となります。なお、「出産手当金」は、出産育児一時金のように被扶養者(扶養されている配偶者など)の出産には支給されることはありません。また、国民健康保険加入者(パートなどで会社の健康保険に未加入の人)には、原則「出産手当金」の支給はありません。

●社会保険料免除など
産前産後休業をした場合は、その間の健康保険・厚生年金保険の保険料は、被保険者が事業主に申し出て、さらに事業主が年金事務所に申し出ることにより、被保険者・事業主の両方の負担が免除されます。

また、産前産後休業終了後に、その休業に係る子を養育している被保険者が、以前の賃金より一定以上の差が生じた場合(労働時間が少なくなったことなどで賃金が一定以上下がった場合)などの条件を満たせば、被保険者が事業主に申し出て、さらに事業主が年金事務所に申し出ることで、休業後(休業終了日翌日の月から4ヵ月目)の保険料を改定することができます(産前産後休業終了時報酬月額変更)。

なお、保険料免除・報酬月額変更については、産前差後休業だけでなく、育児・介護休業法の育児休業も対象となります。

パパの産前産後期間にあたる休業「産後パパ育休(出生時育児休業)」

夫婦間における「休業」、「給付」の違い

ここまでお伝えした労働基準法・健康保険法は、“出産した女性の健康や出産に対する給付を目的としたもの”が中心となっています。したがって、仮に1歳になるまで休業をした場合、夫婦間では次のように「休業」、「給付」の違いがあります。

【出産をした女性労働者】
●出産から産後8週間まで
⇒休業:労働基準法「産後休業」/保険給付:健康保険法「出産手当金」
●産後休業後から1歳になるまで
⇒休業:育児・介護休業法「育児休業」/保険給付:雇用保険法「育児休業給付金」

【労働基準法で「産後休業」にあたらない労働者) ※男性、養子を育てる女性など
●出産から産後8週間まで
⇒育児・介護休業法「育児休業」、「産後パパ育休」/保険給付:雇用保険法「育児休業給付金」、「出生時育児休業給付金」
●産後休業後から1歳になるまで
⇒休業:育児・介護休業法「育児休業」/保険給付:雇用保険法「育児休業給付金」


「産後パパ育休」の概要

男性労働者の場合、仮に出産から1歳になるまでの期間で休業すると、基本的に「育児休業」となります。しかし「育児休業」は、日々の状況により休業を取得する性質のものではなく“ひとまとまりの期間の休業”であり、1歳になるまで取得できるのは2回までです。保育園に入所できないなど、1歳を超えて休業する事由がある場合を除けば、3回以上の「育児休業」を取得することはできません。3回以上の“ひとまとまりの期間の休業”を取得したい場合、産後8週間において、男性や養子を育てる女性などは「産後パパ育休(出生時育児休業)」を最大2回まで取得できます。

つまり、産後8週間まで「産後パパ育休」を2回、その後1歳になるまで「育児休業」を2回取得すれば、1歳になるまで“ひとまとまりの期間の休業”を合計4回まで取得できることになります。

「夫婦で交互に育児休業を取得したい」、「必要な時期には育児休業を取得したいが、経済的な理由などで仕事もしなければならない」などの場合は、夫婦でどのタイミングで育児休業を取得するかを考えなければなりませんので、「産後パパ育休」は休業の選択肢を広げるものと言えるでしょう。

産前産後期間は「家族で時間を共有できる」配慮を

妊娠・出産した女性に関していえば、「産後8週間まで」と「産後休業後から1歳になるまで」は法律上では別々の扱いとなり、産後8週間までは「母親の健康」が重視され、産後休業後は「仕事と育児の両立」が重視されていると捉えることができます。

それらを踏まえ、会社が従業員に対して「仕事と育児の両立」だけでなく、「母親の健康」の必要性も伝えることが大切です。近年、男性の育児休業の取得促進・夫婦間による育児の分担などがクローズアップされていますが、産前産後期間は家事・育児などを分担するだけでなく「出産前後の心身における健康面を支えること」に大きな意義があるということです。

つまり、産前は「夫婦や家族で、時間を共有すること」、産後は「夫婦や親子で、時間を共有すること」に意義があり、それは“子どもの健やかな成長”にも大きく関わります。育児休業だけでなく、「産後パパ育休」の活用も含めた産前産後期間の意義を会社として伝えることは、『会社として、子どもの健やかな成長を願っている』メッセージとなり、それが間接的に『従業員の仕事と育児の両立を応援する』というスタンスにもつながっていくのです。

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