「産休」とは?
「産休」とは、従業員が出産のために仕事を休む制度のことである。出産前の準備期間に取得する「産前休業」と、産後に母体を回復させるために取得する「産後休業」の2種類があり、これらを総称して産休と言う。なお産前休業の取得は任意である一方で、産後休業は必ず取得しなければならない義務であるという違いがある。●産休の対象者/取得条件
「産休」の対象となるのは、企業に勤めるすべての出産する女性である。取得するのに特別な条件はなく、雇用形態や就業期間にかかわらない。入社したばかりの社員でもパートや派遣といった非正規社員でも、誰でも取得が可能である。なお産休の対象となる「出産」とは、妊娠4ヵ月目以降の分娩を指し、流産や早産、人工妊娠中絶をした場合も当てはまる。●産休の取得期間の計算方法と給与について
「産休」の取得期間は労働基準法によって定められている。産前休業は出産予定日の6週間前から(双子などの多胎妊娠の場合は14週間前)、産後休業は出産翌日から8週間まで取得できる。2024年4月1日が出産予定日の場合
・産前休業は6週間(42日)前→2024年2月20日~2024年4月1日
・産後休業は出産翌日から8週間(56日)→2024年4月2日~2024年5月27日
ただし取得が義務付けられている産後休業については、産後6週間を経過後、本人の請求があり、かつ医師の許可が下りた場合のみ業務復帰させることができる。
また産休中は給与の支払い義務は発生しない。なかには独自の制度を設け、産休中に給与を支払う企業もあるが、特別な定めがない限り従業員は無給となる。産休中は給与の代わりに出産手当金などの国や自治体の保証制度でまかなうのが一般的だ。ただし公務員の場合は、産休が有給休暇として扱われ、通常通り給与や賞与が支給される(公務員の産休・育休条件/期間については後述)。
●出産予定日がずれたらどうすべき?
出産予定日がずれた場合には、実際の出産日当日までが産前休業となり、その翌日から8週間が産後休業となる。つまり早く産まれた場合にはそのまま前倒しとなり、遅く産まれた場合には実際の出産日までは産前休業に含まれ、申請期間よりも休業が長くなる。産後休業は8週間のまま変更はない。●産休の申請方法
【従業員側】「産休」を取得する際には、企業への申し出とともに「産休申請書(産前産後休業取得者申出書)」を記入して提出する必要がある。前述したとおり産前休業は任意ではあるが、事前に産前休業と産後休業を一緒に申請するのが一般的である。申請期限は出産予定日の6週間前となる。
【企業側】
従業員から「産休申請書」を受理した企業側は、出産予定日、最終出社予定日、復帰の有無(復帰予定日)、育休の取得希望が正しいかを確認する。間違いがなければ「産休申請書」を健康保険組合など、事業所の所在地を管轄する年金事務所に提出する。
「育休」とは?
「育休」は産休とは違い、男女ともに取得することができる。法律上の親子関係であれば、実子、養子を問わない。また、正規社員だけでなく派遣や契約社員、パート、アルバイトなど非正規社員も対象となるが、日雇い社員は対象外となる。ただし、正規社員のような無期雇用契約の場合は、原則として入社1年未満であっても取得できる一方、有期雇用契約の場合は、「子どもが1歳6カ月までの間に、契約が満了することが明らかでないこと」が取得するための条件である。
ただし企業側は、労使協定を締結している場合、以下に当てはまる従業員(有期雇用契約、無期雇用契約を問わない)を対象外とすることができる。
・申し出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らか
・1週間の所定労働日数が2日以下
●「育休」の取得期間・休業給付金の計算方法
「育休」は、子どもが1歳の誕生日を迎える前日までの間、取得することができる(条件を満たせば、最大で2歳まで延長が可能)。女性は産後休業の終了日(産後8週間)の翌日から、男性は子どもが生まれた当日から取得が可能である。2024年4月1日が出産日の場合
・女性の育児休業は産後休業の終了日(産後8週間)の翌日から→2024年5月28日~2025年3月31日
・男性の育児休業は出産当日から→2024年4月1日~2025年3月31日
また、従来は分割取得ができなかったが、2022年10月から2回に分割して取得ができるようになった。子どもが1歳に達するまでなら、1度職場復帰し、申請して再度育休を取得することができる。
・産後パパ育休(出生時育児休業)
2022年10月から「育休」とは別に「産後パパ育休(出生時育児休業)」が実施されている。父親の育児参加を促すもので、子どもの出生から8週間以内(母親の産後休業期間)に、男性は最大4週間まで休業を取得できる制度だ。これも2回に分割して取得できるため、「育休」と合わせれば最大4回に分けて休業を取得することが可能である。
・パパ・ママ育休プラス
父母ともに「育休」を取得する場合に限り、一定要件を満たせば、子どもが1歳2ヵ月になるまで延長することができる。ただし育休の取得可能日数は最大1年間のままであるため、父親と母親がずらして取得する必要があるが、交代で休業を取得するなど柔軟に育児と仕事の両立を図ることができるようになった。
●「育休」はいつまで延長できる?
「育休」の期間は子どもが1歳の誕生日を迎えるまでが原則だが、事情により認可の保育所に入所できない場合や、配偶者が死亡や負傷したほか、婚姻解消などで養育が困難になった場合には、申請すればその期間を1歳6ヵ月まで延長することができる。また1歳6ヵ月になったときに状況が変わっていない場合には、再度申請することで最長で2歳まで延長が可能。なお、育児休業の延長に関しては、育休終了後に復職の見込みがあることが条件となる。●「育休」の申請方法
【従業員側】「育休」を取得する際には、従業員は休業開始予定日の1ヵ月前に企業への申し出とともに、一般的に「育児休業届(育児休業申請書)」をもって申請する。「育児休業届(育児休業申請書)」のフォーマットは企業によって異なる。産休に続けて育休を取得する場合は、産前休業に入る前や産前休業中に申請しなければいけないため注意したい。その際、育児休業給付金を受け取りたい場合には、「育児休業給付金支給申請書」を提出する必要がある。
また育休を延長する場合は状況によって異なる。以下の通りだ。
・本来の育休期間を延長したい場合は、本来の育休が終了する2週間前までに申請が必要となる
・1歳あるいは1歳6カ月経過後に育休を延長したい場合は、1カ月前までに申請が必要となる
【企業側】
「育児休業届(育児休業申請書)」を受理したあと、従業員へ「育児休業取扱通知書」を交付する。育児休業取扱通知書には、育休の申出を受けた旨、育休開始予定日と終了予定日、育休を拒否する場合にはその旨と理由を記載する必要がある。また、育休中の待遇や復職後の配置や賃金などの労働条件も事前に分かる範囲で記載すると良い。
また従業員が育休を取得するときと延長するときには、育休の期間中または育休終了日から起算して1ヵ月以内に「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出しなければいけない。
さらに従業員が育休を当初の予定より早く終了する場合は、日本年金機構か健康保険組合に「育児休業終了届」の提出が必要となる。
産休・育休中と前後のスケジュール
引用:厚生労働省「働きながらお母さんになるあなたへ」パンフレットp,15
「産休」・「育休」期間中の手当・経済的支援
「産休」・「育休」中は、一般的に給与の支払いがない。ただし国や自治体によって補償制度が設けられており、従業員が受け取れる手当がある。主な手当が以下である。対象期間 | 名称 | 支援内容 | 申請先 |
---|---|---|---|
妊娠中 | 妊婦健診費の助成 | 妊婦健診の一部負担 | 地方自治体 |
医療費 | 医療行為が3割負担、高額療養費制度あり | 健康保険組合 | |
妊娠中・出産後 | 出産・子育て応援交付金 | 10万円相当のギフト券など | 地方自治体 |
傷病手当金 | 産休前後の病気やケガで休業した際の給与補助 | 健康保険組合 | |
出産後 | 出産手当金 | 産休時の手当 | 健康保険組合 |
出産育児一時金 | 出産時に受け取れる支給金 | 医療機関・病院、健康保険組合 | |
出生時育児休業給付金 | 育休中の給付金 | ハローワーク | |
育児休業給付金 | 産休パパ育休中の給付金 | ハローワーク | |
医療費控除 | 確定申告による医療費の還付 | 税務署 |
それぞれ詳しく解説していこう。
●出産手当金
出産手当金は、女性が出産のために休業した時に健康保険から受け取れる手当だ。ただし、産休中に出産手当金を上回る給料の支給がある場合には、適用外となる。なお産休中に出産手当金を下回る給与がある場合は、出産手当金から給与を差し引いた額が支給される。【条件】
・勤務先で健康保険に加入している
・産休中に給与の支払いがない
・妊娠4ヵ月以降の出産である
【対象期間】
出産予定日6週間前(多胎の場合は14週間前)+出産予定日から遅れた出産日までの日数+産後8週間
【金額】
支給開始日以前の標準報酬日額の3分の2
※出産が早まった場合は、その日数分を減額して計算する
【申請者】
被保険者または事業者
【申請先】
勤務先、全国健康保険協会(協会けんぽ)
●出産育児一時金
出産育児一時金は、妊娠4ヵ月以上の女性が出産した時に受け取れる助成金だ。【条件】
・健康保険加入者または被扶養者
・国民健康保険加入者
【金額】
子ども1人につき50万円
※産科医療補償制度未加入の医療機関等での出産、妊娠週数22週未満で出産の場合は子ども1人につき48.8万円
【申請者】
健康保険あるいは国民健康保険加入者
【申請先】
医療機関・病院、健康保険組合
●育児休業給付金
育児休業給付金は、育休中の給与に代わって雇用保険から支払われる給付金だ。女性だけでなく男性も対象となる。【条件】
・雇用保険加入者
【対象期間】
原則、産後休業の翌日から子どもが1歳の誕生日を迎えるまでの期間(育休中)
【金額】
休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から6ヵ月経過後は50%)
※上限額は310,143円(育児休業開始から6ヵ月経過後は23万1,450円)
【申請者】
事業主(本人も可能)
【申請先】
ハローワーク
●出生時育児休業給付金
出生時育児休業給付金は、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した際に受け取れる給付金だ。【条件】
・雇用保険加入者
・休業開始日前2年間に、賃金支払い基礎日数が11日以上ある(または就業した時間数が80時間以上の)完全月が12ヵ月以上あること
・休業中の就業日数が最大10日以内あるいは就業時間が80時間以下であること
・有期雇用契約の場合は、子どもの出生日から8週間を経過する日の翌日から6ヵ月を経過する火までに労働契約が満了することが明らかでないこと
【対象期間】
出生日の翌日から8週間のうち最大28日間
【金額】
休業開始時賃金日額×支給日数(上限28日)×67%
※上限額は284,964円
※出生時育児休業給付金が支給される日数は、育児休業給付金の支給率67%の上限日数(180日)に通算される
【申請者】
事業主
【申請先】
ハローワーク
●出産・子育て応援交付金
出産・子育て応援交付金は、市町村が妊婦や子育て家庭を支援するために創設された制度である。出産育児関連用品の購入費助成や子育て支援サービスの利用負担軽減につながる経済的支援を受けることができる。一般的な仕組みは以下だが、市町村によって異なるケースもあるため詳細は各地方自治体の情報を確認してほしい。【条件】
(1)妊娠届出時、(2)妊娠8カ月頃、(3)出産後の3回面談を実施
【金額】
10万円相当のギフト券など
※妊娠届時の面談後に5万円、出産後の面談後に5万円
【申請者】
本人
【申請先】
各地方自治体
●その他
・傷病手当金傷病手当金は病気やケガで休業した時に活用できる制度だが、産休の前後に病気やケガによって仕事を休まざるを得なくなり、給与が支払われないケースにも適用できる。例えば、切迫早産、切迫流産、重度の妊娠悪阻(つわり)などで療養が必要になった場合などだ。ただし産休中には出産手当金が優先される。
・妊婦健診費の助成制度
自治体によって、妊婦健診の金額を一部負担してくれる。妊娠が確定したら住民票のある自治体へ妊娠届出書を提出する。その際に申請をして補助券をもらうのが一般的だ。市町村によって、支援の回数や助成金額は異なる。
・医療費
重度の妊娠悪阻(つわり)や切迫早産、切迫流産など、医療行為が必要になった場合には健康保険が適用され3割負担となる。また高額な医療費を支払ったときには「高額療養費制度」もあるため、事前に高額な医療費がかかることが分かっている場合には、加入の医療保険に申請して「限度額適用認定書」を受け取ることで、病院での支払金額を限度額に抑えることができる。
・医療費控除
年間で10万円(または所得の5%)以上の医療費を支払った人は、確定申告によって控除を受けることができる。医療費妊娠と診断されてからの定期健診や検査の費用、通院費は医療費控除の対象だ。また入院の際に、電車やバスなどの公共交通機関を利用するのが困難のため利用したタクシー代なども控除の対象となる。
「産休」・「育休」中のボーナスや税金、保険料はどうなる?
「産休」・「育休」中のボーナスや、社会保険料や所得税、住民税がどうなるのかは気になるところだろう。●ボーナス
まず、企業がボーナスを支給するかどうかは基本的には事業主の自由だ。しかし男女雇用機会均等法や育児・介護休業法において、出産や育児を理由に従業員に不利益な対応をしてはいけないと定められているため、まったく支給しない場合は法令違反に該当すると考えられる。ただし、ボーナスの支給額は算定期間中の出勤日数によって決められる場合が多く、産休中の場合は減額とするケースが多い。●税金
給与がないため所得税については発生しない。健康保険法62条では「保険給付で支給された金品には課税できない」と定められており、出産手当金や育児休業給付金には所得税はかからない。ただし住民税については発生する。前年の所得によって計算されたものが翌年に反映されるため、産休・育休中の所得により翌年の住民税の支払いが発生する。産休・育休中の期間は振込用紙が届き、自身での支払いが必要となる。
●社会保険料
産休・育休中の健康保険料、厚生年金保険料などの社会保険料は、被保険者が産休期間中に事業主に申し出、事業主が年金事務所に申出書を提出することで、被保険者・事業主ともに納付が免除される(国民年金の場合は加入者自身で申請)。雇用保険料も無給であればかからない。なお将来受け取る年金額についても減額にはならない。産休・育休中の免除期間についても納付記録が残り未納とはならないためである。
「産休」・「育休」前後にやっておくべきこと
次に「産休」・「育休」前後にやっておくべきことを従業員側と企業側の2つの視点で紹介していく。●「産休」・「育休」前にやっておくべきこと
【従業員側】・企業へ妊娠の報告
・手持ち業務の終了
・引継ぎ資料の作成
・産休前後の書類の確認
・出産、育児に関する制度や給付金の確認
・各部署や取引先への挨拶
【企業側】
・個別の周知(面談または書面にて出産、育児に関する制度や給付金、保険料免除についての説明)
・意向確認(制度や給付金などの取得の確認)
・産休前の働き方の確認
・代替要員の確保
・育休の申し出を受理
・住民税の徴収方法の確認
●「産休」・「育休」から復職する際にやっておくべきこと
【従業員側】・企業に復職の旨を伝え、復職日を決める
・復帰後の働き方について希望事項を伝える
・復帰に関する届け出など書類の準備と提出
【企業側】
・復職の報告を受け、復職日やその後の働き方について決める
・「育児休業復職届」を受理
・「育児休業終了時報酬月額変更届」を健康保険組合に提出
・「厚生年金保険 養育期間用純報酬月額特例申出書」を日本年金機構に提出
・従業員が予定よりも早く復職する場合には「育児休業等取得者申出書・終了届」を健康保険組合に提出
公務員の「産休」・「育休」期間や給与について
公務員の場合は、「産休」・「育休」の期間、給与、受け取れる手当などが民間企業の従業員とは異なる。最後に、公務員における産休・育休について解説しておこう。●産休・育休の期間
公務員の産前休業は出産予定日の8週間前から取得が可能で、民間企業より2週間早く休業することができる。また産後休業は民間企業と同じく出産日から8週間までとなっている。一方で公務員の育休は、子どもが3歳になる誕生日の前日まで取得することができる。また1人の子どもにつき2回まで分けて取得が可能だ(特別な事情がある場合は3回以降も可能)。原則1回の延長が可能で、予測不能の事態が起きた場合は再延長もできる。
●産休・育休中の給料やボーナス
公務員は産休期間中でも有給となる。休暇前と同額の給料が支給され、手当やボーナスも支給される。ただし、出産手当金は支給されないため注意が必要だ。一方で育休中は給与が支給されない。その代わりに公務員の共済組合などから、原則子どもが1歳に達するまで育児休業手当金が支給される。
まとめ
産休・育休の手続きは従業員側も企業側も煩雑だが、事前に期間や手続きの方法を知っておけば、突然の妊娠の報告にもスムーズに対応ができる。従業員の生活に関わる手続きが多いだけに、企業側は漏れがないよう手順をマニュアル化するなど対応を社内で共有できるようにしておくと良いだろう。よくある質問
●「産休」は何週目から取れる?
「産休」の取得期間は労働基準法によって定められている。産前休業は出産予定日の6週間前から(双子などの多胎妊娠の場合は14週間前)、産後休業は出産翌日から8週間まで取得できる。●「産休・育休」中にもらえる手当は?
出産や育児に関する手当や経済的支援は主に以下がある・出産手当金
・出産育児一時金
・出生時育児休業給付金
・育児休業給付金
・出産・子育て応援交付金
など
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