協会けんぽが毎年実施している「現金給付受給者状況調査報告」の令和3年度版が公表されました。それによると、「傷病手当金」受給の原因になった傷病の1位が「精神及び行動の障害」で、全体の約3割を占める結果となりました。この数字は年々増えており、今やメンタル不調者への対応は、会社としても欠かすことができない重要な問題となっています。そこで今回は、「休職制度の基礎」と「メンタル疾患による休職対応で気を付けたいポイント」を解説していきます。
「メンタル疾患」が傷病手当金受給者の約3割に。休職制度の基礎や注意すべきポイントを解説

休職制度を設ける場合は「就業規則」に定めておく

「休職」は、就業規則の「相対的必要記載事項」に定められています。「相対的必要記載事項」とは、就業規則に必ずしも記載しなくともよいが、会社として制度を設けるなら記載しなければいけない事項です。つまり、「休職」は必ずしも設けなくともよい制度なのです。とはいえ、休職制度を設けている会社が多いのが現状です。

「労働基準法」にも休職の具体的な定義や休職期間等の定めはありませんので、制度を設ける際には会社独自のルールを決めることとなります。休職と聞くと、私傷病による休職をイメージする方が多いと思いますが、「休職できる条件」も会社が定めることができます。最近では、留学や大学に入り直すような「労働者のスキルアップのための休職制度」を設けている会社もあります。

では、「休職」は「欠勤」と何が違うのでしょうか。

会社は、労働者と雇用契約を締結していますが、この雇用契約は、労働者が会社に対して「労働力を提供する」代わりに、会社が労働者に対して「賃金を支払うこと」を約束したものです。つまり、労働者には、会社に対して業務を遂行する義務が存在しています。労働者が長期間にわたり業務遂行できなくなった場合、本来であれば契約に反しているけれども、会社が特別にその義務を免除するのが「休職」です。一方で「欠勤」は、労働者の義務は免除されず、義務はあるのに契約に反して労働者が労働力を提供していない状況です。

一見、違いが分かりにくい両者ですが、労働者が労働力を免除されているか否かという点で異なることを押さえておきましょう。

休職制度を設けるメリットと対応時に留意すべきポイント

会社が休職制度を設けるメリットは、退職を防げることです。少子高齢化で人口減少の進む現在は、採用難だと言われています。休職制度があると、労働者が何らかの理由で働けなくなった場合でも、退職ではなく、働ける状態に復活するまでの期間を与えることができます。退職も休職も、一時的に人手不足に陥る点ではあまり違いがないように思えますが、長期的に見た場合、「新たに人を採用して教育する」のと「休職した人が復職する」のでは、後者の方が採用・教育にかかるコストを大幅に削減できるのです。

一方、労働者にとっては“雇用されている状態のまま休める”という「安心感」が大きなメリットです。例えば、長期の治療が必要な場合でも、「治癒後の再就職」等の不安を抱えることなく治療に専念できます。安心して働ける職場は、労働者の意欲が向上し、結果的に労働者の定着にも繋がるでしょう。

ここからは、「メンタル疾患による休職対応」で気を付けたい点を解説します。

【ポイントその1】休職開始日は明確にする

休職制度を設ける際、休職期間が満了しても復職できない場合には「自然退職」とする会社が多いのではないでしょうか。ここで問題になりやすいのが、労使間で認識に齟齬があるなどして、“休職開始日が不明であること”です。開始日が不明なら終了日も決まりませんし、開始日の認識が労使で異なっていると、休職期間満了時にトラブルになることは言わずもがなでしょう。

前述の通り、休職とは“会社が”労働者の業務遂行義務を免除する制度です。そのため、以下の2点を実施することをお勧めします。

●就業規則には「会社が休職の命令をすることで開始とする」旨を定めておく
●「休職命令書」を本人に書面で交付する

「休職命令書」には、休職開始日や休職期間といった、認識の齟齬が生まれるとトラブルになりやすい事項を記載しておきます。実際に、会社から明確な休職命令が出ていなかったことを理由に、休職期間満了による退職を認めなかった裁判例もありますので、休職命令はきちん発令しておくことが大切です。

【ポイントその2】労働者本人の希望だけで復職させない

労働者本人からの復職の申し出は嬉しいものですが、本人の希望だけで復職させると、再度の休職や、復職後のトラブルを招くことがあります。トラブル回避のために、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。

●就業規則に「復職の基準」や「復職時の手続き」を定めておき、復職する際の基準や流れを明確にする
●復職時には主治医の診断書を提出するよう義務付け、診断書作成の費用についても労使のどちらが負担するのかを定める

診断書作成にかかる費用は保険適用外のため安くはありません。不要なトラブルを避けるためにも、明確にしておきたい事項です。

また、診断書の提出があったとしても、主治医が必ずしも労働者の仕事内容や職場環境を把握しているとは限らないため、診断書を出されたとしても復職可否の判断に迷うことがあるかもしれません。そのため、会社の状況を把握している産業医の面談を義務付けることを推奨します。

さらに、労働者本人の同意を得れば、会社が主治医からの意見を聞くこともできるので、復職時に予定している業務内容等を伝えた上で、改めて主治医に意見を求めることも有効です。

年々増えているメンタル疾患による休職者。対象者が出たときに慌てず対応できるよう、今一度、自社の就業規則や対応ルールを確認しておきましょう。
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