
「レジリエンス」とは
「レジリエンス(resilience)」とは、日本語では「回復力」、「復元力」、「跳ね返り」、「弾性」、「耐久力」、「再起力」などと訳され、ビジネスでは「逆境や困難を乗り越え回復する力(精神的回復力)」を表す言葉だ。昨今は、時代環境が大きく変わっており、組織や個人に困難を乗り越え回復する力がますます必要になって来た。そうした理由もあって、ビジネスの世界でも注目されている。実は、「レジリエンス」のルーツは物理学にある。その分野では「外力によって生まれた歪みを撥ね返す力」を表す言葉であった。それが、心理学の分野においても応用され、逆境や困難から回復・適応する力を指す「精神的回復力」を意味する言葉として話題を集めている。ちなみに「レジリエンス」と相対する概念が「脆弱性(vulnerability)」だ。

●「組織レジリエンス」とは
「組織レジリエンス」とは、予測困難な環境変化や危機的状況に直面した際に、それらを予測し、準備し、対応し、そして適応していく組織の総合的な力を指す。過去数十年を振り返ると、2001年の米国同時多発テロ、2007年のリーマンショックによる世界金融危機、2011年の東日本大震災、そして2020年に世界を一変させた新型コロナウイルスのパンデミックなど、企業の存続を脅かす重大な危機が次々と発生してきた。これらは、組織レジリエンスの重要性を企業経営者に強く認識させる転機となった。
高いレジリエンスを持つ組織は、こうした危機的状況においても迅速に回復し、むしろその経験から学びを得て、より強固な体制へと進化することができる。
●「レジリエンス」が注目されている背景
ビジネスの世界で、「レジリエンス」という言葉が注目されている背景には、「VUCAの時代」に象徴されるように、近年の時代環境や社会情勢の変化が多分に影響している。大きな変化が続く中で企業が持続的に成長していくためには、どんな危機や困難に遭遇したとしても、柔軟に対応して乗り越えていく力が欠かせないからだ。また、「健康経営」の観点からも、「レジリエンス」の強化が叫ばれている。従業員のメンタルヘルス対策として有効だからだ。こうした要因から、「レジリエンス」に対する組織や個人の興味・関心が高まっている。●「レジリエンス」の言い換え
「レジリエンス」の言い換えとしては、以下の言葉が挙がる。・復元力
・再起性
・精神回復力
・逆境力
・忍耐力
・頑強性
「レジリエンス」の構成要素
「レジリエンス」には、さまざまな構成要素がある。それらを取り上げていきたい。●危険因子と保護因子
危険因子と保護因子は、いずれも医療現場で主に使用されている用語だ。まず、危険因子とは困難な状況やストレスをもたらす原因を指す。例えば、戦争や災害、病気、貧困、離婚、虐待などが該当する。一方、保護因子とは困難な状況やストレスを克服する力、乗り越える力を指す。具体的には、先天的な個人内因子や後天的な能力因子、環境因子などが挙げられる。●資質的要因と獲得的要因
資質的要因と獲得的要因は、いずれもお茶の水女子大学准教授の平野真理氏が「レジリエンス」を促す要因として挙げた用語だ。まず、資質的レジリエンス要因(資質的要因)は、本人が生まれつき持った気質と関連が強い要因をいう。例えば、「社交性」「行動力「楽観性」「統御力」」などをいう。それとは異なり、後天的に身につけやすい要因が獲得的レジリエンス要因(獲得的要因)だ。「自己理解」「他者心理の理解」「問題解決志向」などが該当する。前者は変えにくいので、後者に着目する方が「レジリエンス」の成果を得やすいと言える。●精神的回復力
精神的回復力は、心理学者の小塩真司氏らが「レジリエンス」を導く個人内因子として提唱している用語だ。以下の3つの因子で構成されている。まず、一つ目が新奇性追求だ。新たな物事・人などへの興味やチャレンジする姿勢、行動などを指す。二つ目が感情調整だ。喜怒哀楽の「怒」や「哀」のようなマイナス感情を調整・自己管理することを言う。三つ目が肯定的な未来志向。未来に対する期待感を持って、具体的なプランを描き実践していくことを意味する。「レジリエンス」と類義語との違い
「レジリエンス」の考察を進めていくにあたって、類する言葉との違いも整理しておきたい。「レジリエンス」と関連が深く、混同しやすい言葉はいくつかある。代表的なのが、メンタルヘルス、ストレス耐性、ストレスコーピング、ハーディネスだ。「レジリエンス」とそれぞれの言葉がどう違うのか解説しよう。●メンタルヘルスとの違い
メンタルヘルスとは、「心の健康」、「精神的健康」を意味する言葉で、ストレスや悩みを軽減・緩和して心の健康状態を維持している状態や、そのためのサポートを意味する。一方、「レジリエンス」は問題が起きた時にどう適応するか、いかに上手く回復できるかを意味する。●ストレス耐性との違い
ストレス耐性(stress tolerance)は、個人が肉体的・精神的・心理的に受けたストレスにどの程度耐えられるかを表す力だ。ストレス耐性が高ければストレスに対する耐久性を持ち合わせていることになる。「レジリエンス」は単に耐えるだけでなく、回復する力も含んでいて、ストレス耐性はレジリエンスを構成する要素の一つとして位置づけられる。●ストレスコーピングとの違い
ストレスコーピングとは、ストレスに対して意図的に行う対処行動を指す。具体的には、問題焦点コーピングや情動焦点コーピングなどがあり、ストレスの原因に働きかける方法や、ストレスに対する考え方や感じ方を変化させる方法がある。一方、「レジリエンス」は問題やストレスに対する回復力を示し、個人が持つ内在的な力として捉えられる。●ハーディネスとの違い
ハーディネス(hardiness)は、ストレスを受けても傷つきにくい頑強さを表す言葉だ。頑健性とも呼ばれる。これも「レジリエンス」の構成要素の一つだが、「レジリエンス」は傷ついても回復できる、傷つきながらも前進できるという特性を有している。つまり、ハーディネスは防御力、レジリエンスは回復力と言い換えることができる。「レジリエンス」を向上させるメリット
「レジリエンス」を向上させることでどのようなメリットがあるのか。企業と従業員個人の双方の視点で解説していく。【企業におけるメリット】
●ダイバーシティ・マネジメントの推進
グローバル化が進む中、日本企業も深刻な人材不足を背景に、外国人労働者の採用や女性活躍推進などが急務となっている。さまざまな年齢、性別、国籍、人種の人材が集まることで、社内の思考や価値観は必然的に多様化する。この多様性を強みに変えるカギが「組織レジリエンス」だ。欧米企業ではレジリエンス理論を基盤とした人材育成・組織開発が広く実践されており、日本企業もレジリエンス研修の積極導入が求められている。●企業評価指標の活用
変化の激しい現代において、企業の適応力や逆境からの回復力は、その存在価値と直結する。投資家もこの点に注目しており、「組織レジリエンス」は企業評価の重要指標となっている。つまり、高いレジリエンスを持つ企業は、投資家からの信頼を得やすい環境にあるのだ。●不確実性への対応
日本でもベストセラーとなった『ワークシフト』の著者、リンダ・グラットン氏は『未来企業』にて、レジリエンスを「不確実性が増す世界で最も重要な能力」と位置づけている。先行き不透明な時代だからこそ、社内・地域・グローバルの各領域でレジリエンスを強化することが、企業の生存戦略となるという。不確実性への対応力が、未来に生き残る企業の条件と言える。●イノベーションの創出
「レジリエンス」の高い組織は、イノベーションも生み出しやすい傾向がある。変化に強い組織文化では、失敗を学びの機会として捉える姿勢が根付いている。そのため、過去の経験から教訓を引き出し、新たなアイデアやソリューションを創造する力が育まれるのだ。●従業員満足度の向上
「レジリエンス」の向上は、従業員のストレスや不満の軽減と密接に関連している。企業が従業員のレジリエンスをサポートする体制を整えることで、困難な状況でも社員は前向きに業務に取り組み、高いパフォーマンスを発揮できるようになる。レジリエンスと従業員満足度は表裏一体の関係にあると言える。【従業員のメリット】
●ストレスが成長につながる
米国スタンフォード大学のケリー・マクゴニガル教授は「ストレスこそが強さと成功の源泉」と指摘する。一般的にネガティブに捉えられがちなストレスも、適切に向き合うことで「レジリエンス」を育み、個人の成長を促進する貴重な機会となり得るのだ。●ストレス耐性が高まる
「レジリエンス」が高まると、ストレスを感じた際に素早くポジティブな思考へ切り替える能力が身につく。これにより、ストレス社会の中でも困難や逆境を乗り越え、安定したパフォーマンスを維持できるようになる。●適応力が身につく
「レジリエンス」を高め、課題に積極的に向き合うことで、論理的な問題解決能力が培われる。その結果、環境変化や未経験の業務に直面しても、成果につながる道筋を自ら見出し、実践できる適応力が身につく。●人間関係の改善
現代社会の大きなストレス源である対人関係において、「レジリエンス」の向上は精神的な柔軟性をもたらし、周囲との関係をより前向きに捉えることができるようになる。問題が生じても解決志向で対応できる力が育まれるのだ。●自己評価力の強化
人は往々にして自分を客観視することが難しく、過大評価や過小評価に陥りがちだ。「レジリエンス」は自分を客観視から始まる。正しく自己評価ができるようになると、自信を持ちつつ、自分の弱点にも冷静に向き合えるようになる。これが継続的な自己研鑽と成長につながる。「レジリエンス」を高める6つのコンピテンシー
「レジリエンス」を高めるためには、6つのコンピテンシー(要素)があると言われている。それらは、「レジリエンス・コンピテンシー」と呼ばれている。提唱したのは、「レジリエンス」研究の第一人者である米国ペンシルバニア大学のカレン・ライビッチ博士だ。6つのコンピテンシーをそれぞれ説明していく。
(1)自己認識
思考や感情、価値観、行動、長所・短所などを認識する能力だ。危機や困難に陥ったときに、自分が現在置かれている状況を客観的に把握し、そこから回復するためのスタートラインとなり得る。(2)自制心
目指すべき成果が得られるように、自分の思考や感情、行動などを変化させる能力を言う。セルフコントロールとも称される。自己認識をした上で、自らの思考や感情を制御していくことが重要となる。(3)精神的柔軟性
物事や状況をさまざまな角度・視点から捉え、対処していく能力を意味する。とかく、人間は厳しい場面や苦難に陥ると、感情的になり視野も狭くなりがちだ。精神的柔軟性を持つことで、現状を客観的に認識でき柔軟かつ的確に対応できる。(4)現実的楽観性
単に楽観的に捉えるだけではなく、未来に向けて希望を持って行動できる能力を指す。これがあれば、どんな困難に直面しても前向きに捉えて乗り越えていける。(5)自己効力感
「自分ならできる」という自信・確信を持つことだ。どんな厳しい状況であっても乗り越えられる、難しい問題を解決できる自信があれば、勇気を持って行動を起こすことができる。(6)つながり
他者と信頼関係を構築する能力をいう。円滑な人間関係を築けていれば、困難に直面した際にサポートしてもらえるはずだ。信頼できる仲間と一緒に取り組んだ方が、乗り越えていきやすくなる。組織の「レジリエンス」を強化する方法
「レジリエンス」は個人の問題だけに限らない。組織としても「レジリエンス」を高めるための取り組みが求められる。そのための方法について解説したい。●社員の「レジリエンス」向上
まずは、組織を構成する社員一人ひとりの「レジリエンス」向上が欠かせない。そのためにも、「レジリエンス」に対する社員の理解を促す施策が必要となる。例えば、「レジリエンス」に関する知識を深める研修やマニュアルの作成、定期的なトレーニングなども有効だ。●挑戦を評価する風土の醸成
今日のように社会環境や市場が目まぐるしく変化する状況下において、それらに対応していくためには、新たなチャレンジが欠かせない。ただ、減点方式での評価をしている組織だと、失敗を恐れて誰もチャレンジしようとしなくなってしまう。当然、「レジリエンス」も高められない。それだけに、積極的なチャレンジを推奨・評価する組織風土を醸成する必要がある。●BCPへの取り組み
BCP(事業継続計画)に取り組むことも重要となる。BCPとはBusiness Continuity Planningの略称だ。有事に備えて、企業や組織がどう行動するかを示した「事業継続計画」を指す。具体的には、事業の継続に必要な制度や仕組み、ガイドラインの整備、さらに、近年ではサイバー攻撃に向けたセキュリティ対策などについても準備しておきたい。●企業理念の浸透
自社の企業理念を策定し、社員に浸透させることも有効だ。企業と社員の目指す方向を一致させることができれば、業績も上向きになるし、社員も自分の仕事ぶりに自信を持つことができる。組織が一致団結し、目標を実現しようという気概も高まるに違いない。●心理的安全性の醸成
「レジリエンス」の高い職場づくりには、心理的安全性の醸成も欠かせない。心理的安全性とは、社員が組織において自分らしく伸び伸びと行動できる状態を言う。そうした組織では、情報共有・意見交換が活発である、前向きな失敗であれば受け入れてもらえる、困ったときにサポートを得られる、仲間の成功を共有できるなどの特徴が見られる。人事担当者やリーダーだけでなく、部下の視点から見ても「心理的安全性の高い職場を構築できているか」「問題があるとしたら何か」を常日頃から確認するようにしよう。個人が「レジリエンス」を高める方法
次に、個人が「レジリンス」を高める方法について説明したい。●ABCDE理論による思考の柔軟化
ABCDE理論とは、1955年にアルバート・エリス氏が提唱した心理療法だ。この理論を用いることで、自分の感情をコントロールしやすくなる。具体的には、A=状況・出来事、B=考え方・受け取り方・ものの見方、C=感情・行動、D=非合理的なBに対する反論、E=Dによる効果を指す。このうち、Dが最も重要となる。●信頼関係の構築
同じ困難や苦難であっても、自分一人よりも仲間がいた方が乗り越えられる可能性が高まる。それだけに、孤立させないことが「レジリエンス」を維持・向上させる上では極めて重要となってくる。日頃から自分を理解してくれる人との信頼関係を構築しておくことで、困難をはね返す力が高まると言える。●目標設定によるビジョンの明確化
目指すべきゴールや目標が設定されていると、自尊心を育みやすい。また、それらに向けてどのようなビジョンを描いて行動していけば良いかが決めやすい。具体的には、「自分が今後どうありたいのか」「どんな状態になりたいのか」を問いかけてみるのが有益だ。また、目標を実現した際にも振り返りを忘れないようにしたい。次のアクションに向けたヒントが得られることだろう。●自己効力感の向上
自己効力感とは、困難や苦難に遭遇しても乗り越えられる」という自信を指す。これが高いと、前向きに挑戦しチャンスを見出していける。また、周囲からの信頼も得られやすい。自己効力感を高めるには、成功体験を積み重ねることがポイントとなる。それが成長を実感できる原動力となる。有益なのがモデリング(代理体験)だ。自分にとってのロールモデルを決めて、真似ることで成果を得るプロセスを理解していける。「レジリエンス」を高める方法とは? 人と組織それぞれの観点から向上させるポイントを解説
まとめ
今後ますます予測不可能な時代が加速するのは間違いない。当然ながら、組織にも個人にも、さまざまな苦難やリスクが起こり得るはずだ。そうした状況を乗り越えていくには、「レジリエンス」を理解し、強化する取り組みが欠かせない。どんな施策から着手すべきか、改めて考えていきたい。「レジリエンス」に関するニュース・サービス・セミナー・資料請求などの最新情報はコチラ
よくある質問
●レジリエントな人の特徴は?
「レジリエンス」が高い人=「レジリエントな人」に共通する特徴は以下のようなものがある。・思考が柔軟
・感情をコントロールできる
・変化を恐れない
・現実を直視できる
・楽観的
・自己認識ができる
・挑戦し続ける
●「レジリエント」とはどういう意味?
レジリエント(resilient)とは、「回復力」、「弾性」を意味し、困難や逆境、ストレスなどに直面しても、それを乗り越えて回復する力や適応能力を指す。心理学では「精神的な回復力」として使われる。レジリエントな人は、挫折や失敗を経験しても立ち直りが早く、その経験から学び、成長することができる。- 1