
「RPA」とは
「RPA(Robotic Process Automation)」とは、ソフトウェアロボットを活用して、人間がPC上で行う定型的な作業を自動化するツールのことをいう。例えば、データ入力やファイル操作、システム間のデータ転記などの繰り返し作業を、人間の代わりにロボットが24時間365日ミスなく実行する。「RPA」は「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」とも呼ばれ、人材不足や業務効率化の課題に対する有効な解決策となり得る。●「RPA」の仕組み
「RPA」は主に「記録」と「実行」の2つのステップで動作する。まずはツールを使用して作業手順をシナリオとして記録。この際、実際のPC操作を記録したり、「何を(対象)」、「どうするか(行動)」の作業フローを登録したりする。次に、記録されたシナリオに基づいて、ロボットが自動的にPCを操作していく。ロボットは画面のクリックや文字入力だけでなく、対応アプリケーションの機能を認識して効率的に操作することも可能だ。
これによりPCでのルールベースの作業を自動化し、人間がより創造的な作業に力を注ぐことができる。
●「RPA」が注目されている理由
「RPA」が近年注目されるのは、多くの企業が業務効率化やコスト削減、労働力不足への対応を求められているからだ。特に日本では少子高齢化による人材不足が深刻で、定型業務を自動化することで、人的リソースを戦略的な施策やクリエイティブな業務に集中させることができる。また、ヒューマンエラーを減らし、業務品質を安定させる効果も期待されている。
一方で、日本での普及が進む背景にはITリテラシーの低さもある。ITシステムを構築するよりも運用に高度な専門性を必要としないため、その導入のしやすさが人気を後押ししている面もある。
「RPA」の導入メリット
「RPA」を導入することは、企業に様々なメリットをもたらしてくれる。主な4つについて解説していこう。●生産性の向上
「RPA」によって定型業務の自動化が実現すれば、業務効率が大幅に向上する。人間が手作業で行うよりも圧倒的に早く処理でき、24時間365日稼働できるからだ。従業員は創造的な業務や付加価値の高い仕事に集中できるようになり、企業全体の生産性は向上する。また、業務の品質も安定し、人為的なミスによる手戻りも減るため、さらなる効率化が期待できる。●コストの削減
「RPA」の導入は、人件費をはじめとする様々なコスト削減にもつながる。業務のシステム化により、必要な人員を減らすことができ、人件費や残業代がカットできる。また、「RPA」は人間と違い、いつでも稼働できるため、繁忙期と閑散期の労働力調整も容易になる。長期的に見れば、新規採用や教育にかかるコストも抑えられる。●リソース不足改善
単純作業や繰り返し作業を「RPA」に任せることで、限られたリソースをより戦略的な業務に振り向けることができる。データ入力や請求書処理などに割いていた時間を、顧客対応や商品開発など、より付加価値の高い業務に注ぐことで、組織全体の生産性向上が期待できる。●オペレーションミス防止
「RPA」は人間と異なり、疲労や集中力の低下による作業ミスがない。特に大量のデータ入力や複雑な計算を伴う業務では、人間が行うよりも高い精度で、しかも圧倒的に速く作業を遂行できる。取引処理や製造業での品質管理チェックなど、ミスが許されない重要な業務でも「RPA」を活用することにより、正確にこなすことができる。「RPA」導入のデメリット
「RPA」には多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットもある。導入する際には注意が必要だ。●システム障害のリスク
「RPA」は複雑なシステム環境で動作するため、どうしてもシステム障害のリスクが発生してしまう。例えば、ネットワーク接続の問題やソフトウェアの不具合、ハードウェアの故障などにより、処理が中断される可能性がある。また、システムやアプリケーションのアップデートにより、既定のプロセスが正常に動作しなくなることもある。システム障害のリスクに対応するためには、定期的なメンテナンスや障害時の対応手順の整備が不可欠だ。●業務のブラックボックス化
「RPA」は自動的に処理を行うため、従業員が業務の詳細を把握しにくくなる可能性がある。つまり業務プロセスがブラックボックス化してしまうのだ。これにより、問題が発生した際の原因究明や改善が難しくなったり、業務知識の継承が円滑に進めなかったりする恐れがある。「RPA」の処理内容を可視化し、定期的に人間による確認や監査を行うことが重要になる。●セキュリティ面のリスク
「RPA」はシステムやデータにアクセスする権限を持つため、セキュリティ面での懸念が生まれてしまうことは否めない。「RPA」のアクセス権限が適切に管理されていなければ、機密情報の漏洩や不正アクセスのリスクが高まる。また、「RPA」が悪用される恐れもある。アクセス権限を厳格に管理したり、暗号化技術を活用したり、あるいは定期的なセキュリティ監査を実施するなどの対策が必要だ。「RPA」に向いている業務・向いていない業務
次に「RPA」で代替可能な業務はどんなものか。「RPA」が向いている業務と向いていない業務を紹介していこう。●向いている業務
「RPA」導入が適しているのは、定型的かつ反復的な業務だ。具体的には以下のようなものがある。・データ入力・管理業務:顧客情報の入力や更新、データベースの管理など
・財務・経理業務:請求書処理、経費精算、会計システムへのデータ入力など
・人事関連業務:勤怠管理、給与計算、社会保険手続きなど
・営業支援業務:見積書作成、受注処理、顧客データの分析など
・IT運用業務:システムモニタリング、バックアップ、セキュリティチェックなど
これらの業務は、ルールが明確で判断基準が定量的であり、大量の処理が必要なケースが多いため、「RPA」による自動化の効果が特に高くなる。
●向いていない業務
一方で、「RPA」が不向きな業務もある。例えば、高度な判断や創造性を要する業務、状況に応じて柔軟な対応が必要な業務、人間同士のコミュニケーションが不可欠な業務などだ。・戦略立案
・商品企画
・顧客との交渉
・クリエイティブな制作業務など
つまり、人間の経験や直感、感性が肝となる業務は「RPA」では代替が難しいということである。
「RPA」と混合されやすいもの
「RPA」は、VBA、AI、DXなどの他の技術や概念と混同されることがある。それぞれの特徴や違いを説明していきたい。●「RPA」と従来のITシステム構築との違い
まずは、そもそも「RPA」が従来のITシステム構築とどう違うのかを解説する。一つ目の違いは内製化の実現性だ。従来のITシステム構築は専門的な技術と人員を必要とするため内製化が難しい場合が多いが、それに比べると「RPA」を活用するだけであれば高度な専門性がなくとも可能なため、内製化がしやすい。
二つ目は開発期間とコストだ。「RPA」は短期間かつ低コストでの導入が可能である。プログラミングが不要で作業工数も少なくて済む。そのため従来ではシステム化が難しかった業務にも適用ができる。
三つ目は適用業務の範囲だ。「RPA」は主にPC上で完結する単純作業や繰り返し業務に適しているが、ITのシステム構築では費用次第で複雑な業務も自動化することができる。
●「RPA」とVBAとの違い
VBAとは「Visual Basic for Applications」の略で、Excel、Word、AccessといったMicrosoft Office製のアプリケーションにおける処理を自動化するためのプログラムだ。これは「RPA」と同様に業務の自動化を目的としているが、その適用範囲や使い方に違いがある。「RPA」はPC上で行う幅広い操作を自動化でき、Microsoft Office製品だけでなく、クラウドサービスやチャットツールなど複数のシステムを横断した業務にも対応可能だ。一方で、VBAはOffice製品専用のプログラミング言語であるため、ExcelやWordなどの内部作業に限定される。
なお、コスト面では、既存のOffice環境を活用するVBAは比較的安価だが、「RPA」は導入費用が高くなることもある。
●「RPA」とAIとの違い
AIは、大量のデータを学習し、自ら分析・判断・予測を行う技術であり、高度な意思決定やパターン認識が求められる場面で活用しやすい。一方で「RPA」は定型的なルールに基づき、人間の操作を模倣してPC上の作業を自動化する技術である。例えるなら、RPAは「作業を実行する手段」で、既存の手順通りに動くことに特化しているため、イレギュラー対応が苦手だ。一方でAIは「人工知能」であり、過去のデータから学び、新たな状況にも適応できるよう進化するので、新しい問題にも柔軟に対応していける。
ただし、最近では「RPA」にAIを組み込むことで、単純作業の自動化だけでなく、意思決定を要する複雑な業務など幅広い業務にも対応できるようになってきている。
●「RPA」とDXとの違い
DXとは、企業全体のビジネスモデルやプロセスをデジタル技術によって変革し、新たな価値創造や競争力向上を目指す取り組みをいう。「RPA」は主に既存業務の効率化を目的としたツールであるため、DX推進のための一つの手段として位置づけられる。つまり、「RPA」が既存業務の効率化という局所的な改善にフォーカスしている一方で、DXは企業全体の構造改革という大きな視点で取り組むものだと言える。
「RPA」ツールの選定ポイント
「RPA」ツールを選ぶ際は、自社の業務内容や目的に合わせて検討していく必要がある。以下に重要なポイントをまとめてみた。●種類から選ぶ
「RPA」ツールには大きく分けて、デスクトップ型とサーバー型がある。デスクトップ型は個々のPCで動作し、小規模な業務の自動化に適しているため、導入が比較的簡単だ。一方、サーバー型は複数台のPCで同時に処理を行うことが可能で、大規模な業務の効率化に向いている。また、近年はサーバー型の中でもクラウド型のツールも登場しており、Web上での作業の自動化もできるようになっている。●操作性・作りやすさから選ぶ
「RPA」ツールの使いやすさは、導入後の運用効率に直結する。直感的な操作ができるツールや、ドラッグ&ドロップで簡単にシナリオを構築できるツールは、プログラミングスキルや専門性がない従業員でも扱いやすく、スムーズに導入・運用を進めやすい。また、コネクタやアプリケーションとの連携機能などの種類が豊富なツールも魅力的だ。●機能面、拡張性から選ぶ
企業の成長に合わせて自動化の範囲を広げていけることを考えると、「RPA」ツールの機能性と拡張性も考慮したい。例えば、ボットの同時実行数や、他システムとの連携機能、負荷の増大に対応できるかなどを確認すると良い。特に、サーバー型やクラウド型の「RPA」ツールは、大規模な導入や複数のシステムを跨いだ処理の実行ができるため、拡張性の点においてはデスクトップ型よりも優れている。●コスト感から選ぶ
「RPA」ツールの導入・運用にかかる費用は、機能や導入規模とのバランスを考慮する必要がある。もちろん高額なツールほど機能が充実しているケースが多いが、自社のニーズ以上に高機能なものを選んでも活用できなければコストが無駄にかかるだけである。とはいえ、価格だけで判断してしまえば本来必要な機能が足りない恐れもある。目的や規模に合ったツールを選びたい。●実績やサポート体制から選ぶ
「RPA」ツールを比較する時には、ベンダーの実績やサポート体制も見ておきたい。同業他社の導入事例があれば、自社での活用イメージも沸きやすい。また、導入後のサポート体制が充実しているツールを選ぶことで、運用効率化が図りやすく、またアクシデント発生時に迅速に対応してもらえる。「RPA」の導入の流れ
実際に「RPA」を導入するには、どのような手順を踏んでいけばいいのか。順を追って説明していく。(1)業務範囲の検討
まずは、現在の業務プロセスと業務量を洗い出し、「RPA」の導入に適した業務を選定していく。上述のように、ルールが明確で、繰り返し行われる定型的な作業が最適だ。なお、この段階で、社内の運用体制や担当者の役割についても検討しておきたい。(2)「RPA」ツールの選定・トライアル利用
次に、目的に適した「RPA」ツールを選定する。多くのベンダーが無料トライアル期間を設けているので、これを活用して機能や操作性を確認すると良いだろう。このトライアル期間中に課題や改善点を把握し、本格導入に向けた準備を整えることができる。(3)ロボットの開発・運用ルール作成
シナリオ作成やロボット開発を進める際には、運用ルールを明確化する必要がある。開発する作業の基準や申請方法などを定め、スムーズに運用できるように準備しておく。また、本番稼働前には十分なテストを行い、現場の業務に即したシナリオを作成することが求められる。(4)運用開始
準備とテストが完了したら、実際の業務で「RPA」の運用を開始する。初期段階では小規模な範囲から導入することで、トラブルのリスクを抑えながら運用できる。リスクを確認しながら徐々に範囲を拡大していくのが良いだろう。(5)効果検証・運用保守
「RPA」を導入した後は、その効果を定期的に測定し、必要に応じて改善策を講じていく。ビジネス環境の変化やシステム変更に応じて、「RPA」のシナリオも更新していく必要があるため、継続的に評価とアップデートを繰り返していかなければならない。「RPA」活用の成功事例
最後に「RPA」の活用に成功した企業の事例を紹介していく。●中外製薬
中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進。デジタル技術を活用して業務プロセスを再構築し、医薬品の創出にリソースを集中させる戦略の一環として「RPA」を位置づけている。2018年から「RPA」によるバックオフィス業務の効率化を進め、2021年からは全社的にRPA推進活動を行ってきた。各部署で「RPA活動推進計画書」を作成し、定型業務の自動化を促進。2024年4月時点で約10万時間の業務時間削減に成功している。また、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境が整い、2024年4月時点で700個のアイデアが生まれているという。
中外製薬のRPAの特徴としては、ロボットを開発する以前に、業務手順そのものを見直すことを重視している点だ。「RPA」は「Robotic Process Automation」の略だが、同社では「Reconsider Productive Approach(生産的アプローチの再考)」という言葉に置き換えている。
中外製薬公式note:動画で学ぶ!中外製薬が本気で取り組む「中外流RPAの極意」
中外製薬公式note:「年間10万時間削減」の目標達成が見えてきた中外製薬のRPA。DXユニット ITソリューション部長が語る秘訣とは?
●三井住友フィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、業務の効率化とコスト削減を目指して、2016年に「RPA」の実証実験を開始し、2017年から本格的に導入を進めてきた。具体的には、海外送金に関する書類の処理や金融商品データのダウンロード、顧客営業資料の自動生成、情報収集業務など、多岐にわたる業務プロセスを自動化している。結果的に、2022年度末時点で、グループ全体で導入開始時と比較して600万時間弱の業務時間を削減することに成功した。また、従業員自らがRPAツールを使ってソフトロボを開発し、主体的に業務の効率化や働き方改革に取り組む体制を整えている。
●神奈川県庁
神奈川県庁は、2018年から「RPA」の活用を開始し、職員の通勤手当の認定業務や災害時の職員の配備計画作成業務を自動化。従業員の業務負荷の軽減とミスの防止を進めている。特に、新型コロナウイルスが流行した2020年以降は、感染者管理や支援のためのシステム登録作業などで、RPAが大きな役割を果たした。新型コロナウイルス関連の業務では、年間数千時間の業務時間削減を達成したという。
さらに継続的に「RPA」の導入を拡大しており、2023年度では累計70種の業務で活用している。
まとめ
「RPA」は、業務効率化と生産性向上に寄与するが、その導入には計画と準備が不可欠だ。業務の洗い出しやツールの選定、開発、運用の各段階で慎重な検討が必要となる。また、「RPA」は単なる省力化の手段ではなく、業務プロセスの見直しや従業員の理解・協力を得て、企業全体のDX化の一環として位置づけることが重要と言える。さらに「RPA」の技術は日々進化を続けており、より高度な自動化が見込まれている。最新の動向に注目し、自社の業務に最適なRPA活用方法を模索していただきたい。
●総務省:RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)
●経済産業省:デジタルスキル標準
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よくある質問
●「RPA」とマクロの違いは?
マクロは、特定のアプリケーション内で、ユーザーが事前に定義した一連の操作を自動化する手段を言う。Excelなどのオフィスソフトで使用されることが多い。一方、「RPA」は、複数のアプリケーションやシステム間でデータの入力や操作を自動化することができ、より幅広い業務プロセスに適用できる。- 1