男性の育児休業取得など、近年、仕事と家庭(育児など)の両立が推進されています。しかし、ただ画一的に制度利用を推進すれば良いというわけではなく、個々の家庭の事情や子どもの年齢に応じた取り組みが求められます。今回は、これらの取り組みのスタートともいえる「妊娠中(産前休業前)」にスポットを当て、法制度とその運用ポイントを解説します。
「妊娠中(産前休業前)」に関わる労働法制度をチェック! 運用ポイントも解説

妊娠中の労働者に関する「労働法制度」

妊娠中に関わる制度を定めているのは、主に「労働基準法」「男女雇用機会均等法」となります。
【労働基準法】 ※働く上でのルール
妊婦(妊娠中)、または妊産婦(妊娠中及び産後1年未満)に関わる定めは、次のとおりとなります。

●妊婦の軽易業務転換(第65条第3月項)
妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければなりません。

●妊産婦等の危険有害業務の就業制限(法第64条の3)
妊産婦等を妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせることはできません。重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所での業務などで、具体的には女性労働基準規則第2条で定められています。なお、女性の妊娠・出産機能に有害な業務については、妊産婦以外の女性についても就業が禁止されています。

●妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限(第66条第1項)
変形労働時間制がとられている場合であっても、妊産婦が請求したときは1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることはできません。

●妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限(法第66条第2項及び第3項)
妊産婦が請求した場合には、時間外労働、休日労働または深夜業をさせることはできません。

【男女雇用機会均等法】 ※「母性健康管理」に関するもの

●保健指導または健康診査を受けるための時間の確保(法第12条)
事業主は、女性労働者が妊産婦のための保健指導または健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければなりません。

(妊娠中)
・妊娠23週まで⇒4週間に1回
・妊娠24週から35週まで⇒2週間に1回
・妊娠36週以後出産まで⇒1週間に1回

(出産後1年以内)
医師等の指示に従って必要な時間を確保する

●指導事項を守ることができるようにするための措置(法第13条)
妊娠中及び出産後の女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、その女性労働者が受けた指導を守ることができるようにするために、事業主は勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければなりません。

「母性健康管理」を円滑に進めるために

なぜ「母性健康管理」が必要なのか?

妊娠中には、つわり、動悸、貧血、立ちくらみなど、さまざまな症状が起こりやすくなります。健康診査などを受けることは、妊娠中の従業員が能力を十分に発揮するためだけでなく、何よりも無事に出産を迎えるために健康状態を定期的に確認する必要があります。

まずは、会社として男女雇用機会均等法第12条に定める「健康診査などを受けるための時間の確保」を遵守することが必要です。

「母健連絡カード」を活用しよう!

一方で、男女雇用機会均等法第13条に定める「必要な措置」は、従業員によって症状等が異なりますので、どのような措置を講じたらよいのかということ考えなければなりません。措置の内容は医師等の指導に基づいたものとなりますが、会社が的確に情報を把握することが必要となります。

そこで活用いただきたいのが「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」です。厚生労働省サイト「女性にやさしい職場づくりナビ」よりダウンロードでき、勤務時間の短縮・作業の制限などの指導事項を医師が的確に伝える様式になっています。受診などの際に妊婦本人が「母健連絡カード」を医療機関に持参し、医師に指導事項などを記載してもらったものを会社へ提出することで、会社は必要な措置を講じることができる仕組みです。

「母性健康管理」に関する取り組みを会社の強みに

会社へ「妊娠を伝えること」は負担になる場合も

従業員は、会社の実情や職場などにも配慮し、「どのタイミングで、会社へ妊娠を報告したらよいのか」と悩みを抱えるものです。しかし、令和2年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」では、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを受けた女性労働者が、ハラスメントを受けた要因となった理由で最も多かったものは「妊娠・出産したこと(57%)」、続いて「産前・産後休業(28.9%)」です。育児休業などの制度利用だけでなく、妊娠・出産した事実がハラスメントの要因となることも多いのが実態です。

「両親学級」の参加促進など、妊娠中から男性が積極的になる取り組みも1つの方法

過去の慣習や日々の忙しさなどが影響し、妊娠を喜ばしいことと受け止める職場風土が醸成されていない場合もあります。そのような職場環境の中で仕事を続けることは、母体に良い影響を与えるものではありませんし、そもそも男女雇用機会均等法の目的にも相反するものです。会社として、妊娠中の従業員を大切にすることが、長年にわたり会社で活躍を続けることにもつながっていきます。

職場風土づくりの方法を考える上で、ぜひ男性にもスポットを当ててみましょう。近年、男性の育児休業取得が推進されていますが、さらに先んじて、男性にも妊娠中から出産・育児へ積極的に関わるように取り組みを推進することも1つの方法です。

例えば、「行政などが開催する両親学級(父親学級)に参加を促進するための休暇制度を設ける」、「会社が独自の両親学級を開催する」などの取り組みは、会社として従業員の出産や育児を応援する大きなメッセージにもなりますし、優秀な人材を採用する上での効果的な戦略にもなります。

妊娠中を大切にすることで、計画的な「育児休業制度」利用につながる!

令和4年4月からの「育児・介護休業法」改正により、本人または配偶者が妊娠・出産等を会社へ申し出た際には、個別に育児休業制度などを周知しなければなりません。つまり、育児休業などの制度利用に関わる最初の面談・書面交付などの多くは妊娠中に行われます。

育児休業に関する制度は複雑なものが多く、その概要を伝えただけでは従業員が効果的に制度を利用することが難しい場合もあるかもしれません。そのような時に、男女雇用機会均等法の内容や「母性健康管理」に関わる会社の取り組みを併せて伝えることで、会社として従業員の体調への気遣いに対するメッセージとなり、従業員の安心感につながります。

そして、その安心感は「効果的な制度の利用方法を、会社と一緒に考えることができる」、「会社の実情もふまえ、より良い復帰時期を考える」など、会社・従業員が互いの立場を尊重しながら、計画的に「育児休業制度」を利用することにつながるでしょう。


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