“2ヵ月以内の雇用契約”は更新が見込まれると厚生年金・健康保険の対象に
“2ヵ月以内の雇用契約”で従業員を採用した場合の厚生年金・健康保険の加入の要否は、2022年10月から変更されている。従前は、最初に締結した“2ヵ月以内の雇用契約”では加入対象とならず、当該契約が更新された場合に更新時点から加入することが求められた。しかしながら、2022年10月からは、最初に締結した“2ヵ月以内の雇用契約”についても、「契約の更新が見込まれる場合」に該当するのであれば、従業員を厚生年金・健康保険に加入させなければならない。「契約の更新が見込まれる場合」とは、雇用契約書などに「契約を更新する」、「契約を更新する場合がある」などの記載のあるケースが該当する。また、その企業で同様の雇用契約に基づく採用者の契約を更新した実績があるケースも「契約の更新が見込まれる場合」とされる。
ただし、これらに該当する場合であっても、企業と採用者との間で「契約を更新しない」という明確な合意が書面で行われていれば「契約の更新が見込まれる場合」には当たらず、厚生年金・健康保険に加入することはない。
契約更新の条件を「更新しない」から「更新する」に変更した場合
それでは、現実の企業運営で起こり得るケースを題材に、今回の制度変更の具体的な取扱いを見てみよう。はじめは、「契約更新に関する条件を、契約期間の途中で『更新しない』から『更新する』に変更したケース」である。例えば、4月1日から5月31日までの2ヵ月契約で、「契約を更新しない」という条件で従業員を雇用したとする。この場合、「契約の更新が見込まれる場合」には該当しないので、従業員は厚生年金・健康保険の加入対象にならない。
ところが、従業員の働きぶりに好感を持った企業側が、勤務開始から1ヵ月経過した5月1日に「契約を更新したい」と従業員に打診し、従業員が了承をしたとしよう。つまり、契約更新に関する条件が契約期間の途中で「更新しない」から「更新する」に変更され、「契約の更新が見込まれる場合」に該当したわけである。このようなケースでは、契約の更新が見込まれた日に従業員を厚生年金・健康保険に加入させなければならない。従って、契約の更新について企業と従業員とが合意をした5月1日から、当該従業員は社会保険に加入することになるのである。
契約更新の条件を「更新する場合がある」から「更新しない」に変更した場合
次は、「契約更新に関する条件を、契約期間の途中で『更新する場合がある』から『更新しない』に変更したケース」を考えてみよう。例えば、4月1日から5月31日までの2ヵ月契約で、「契約を更新する場合がある」という条件で従業員を雇用したとする。このケースは「契約の更新が見込まれる場合」に該当するので、採用した従業員は4月1日から厚生年金・健康保険に加入させなければならない。
ところが、従業員の働きぶりを見た企業側が、勤務開始から1ヵ月経過した5月1日に「契約は更新しない」と従業員に打診をし、従業員が了承をしたとする。つまり、契約更新に関する条件が契約期間の途中で「更新する場合がある」から「更新しない」に変更され、「契約の更新が見込まれる場合」に該当しなくなったわけである。
この場合、契約の更新が見込まれなくなった5月1日付で、従業員は社会保険から抜けるようにも思える。しかしながら、勤務開始後に契約の更新が見込まれなくなったとしても、「契約期間の途中で厚生年金・健康保険の被保険者資格は喪失しない」という取扱いが行われる。従って、当該従業員は更新の見込みがなくなった5月1日以降も、厚生年金・健康保険に加入し続けることになるのである。
前後の雇用契約の間が数日空いている場合
最後は、「2つの雇用契約の間が数日空いているケース」を考えてみよう。例えば、4月1日から5月31日までの2ヵ月契約で、「契約を更新しない」という条件で従業員を雇用したとする。しかしながら、契約期間中に会社が従業員と「5月31日の契約期間満了後は、6月5日から8月4日までの2ヵ月契約で再び雇用すること」を約束していたとしよう。この場合、当初の契約は「契約を更新しない」という条件で締結しており、「契約の更新が見込まれる場合」に該当しないので、従業員を厚生年金・健康保険に加入させなくてもよいように思える。
しかしながら、会社と従業員との間では、最初の雇用契約の段階で次の契約が約束されており、加えて両契約の間はわずか4日間しか空いていない。そのため、雇用契約の期間が連続していなくても、実質的には当初の契約が更新された状態と変わりがないといえる。このようなケースは、事実上は会社と従業員の雇用関係が中断していないと判断できるため、最初の契約の初日である4月1日から従業員を社会保険に加入させることが求められる。2つの契約の間隔を数日程度空けて「契約が更新されていない状態」を外形的に装っても、社会保険の加入義務を逃れることはできないわけである。
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