高校生を対象にした「ビジネスアイデア」のコンペティションが示す日本企業の問題点
高校生を対象にした「ビジネスアイデア」のコンペティションでは、複数の協賛企業から、その企業の商品開発やマーケティングなどについてのテーマが提示されます。そのコンペティションに参加する高校は、少人数のチームをたくさん作り、グループワークなど、自主性を重んじる形で、アイデアを作り協賛企業に対して提案します。予選、準決勝というようにふるいにかけられた上で企業テーマごとに優秀チームが決まり、最終的には、企業ごとの優秀チームがプレゼンテーションを審査員の前で行って、年間の優勝チームが決まるのが、コンペティションの仕組みです。コンペティションは、あくまでも高校生の自主的な創意工夫に基づくものです。そのため、筆者が生徒たちにアドバイスする際は、「企業というものは何か? 企業理念とは何か?」、「売上、費用、利益とは何か?」、「商品開発、マーケティングといった企業活動はどういうものか?」、「ビジネスモデルとは何か?」、「課題の発見、課題の解決はどのように行うのか?」など、企業経営に関する基本的な知識を示すことに留め、高校生のアイデア、イノベーションマインドを刺激しています。
実際に指導をしていくうちに気づきが1つありました。それは、今の若者はネットリテラシーが高く、方向性やヒントを出すだけで、ネット上にある情報を編集、考察して、こちらが驚くような発想でアイデアが出てくる点です。
筆者がアドバイスを行っているC高校は、中学までにイジメなどで不登校になった生徒たちが集まる高校であるだけに、学生に寄り添う教育方針によって、生徒たちは皆学校というものに「復帰」して通学出来るようになっている高校です。
こうしたコンペティションは、10年程前から文科省が標榜している「キャリア教育」の効用である「社会や企業を知ることによって勉強の意味や必要性を実感できる」、そんな意義深い学びの機会になっていると感じます。
さて、昨年度のC高校のコンペティションにおける成果、実績はどうだったのでしょう?
結論から言うと、前回の参加から1ランク歩を進め、C高校全部で参加した6チームの内、1チームが準決勝に進出、1チームが準決勝の前段階という輝かしい結果となりました。これまでのC学校法人全体の歴史の中で最高の結果だったと、学校法人全体で評判になったそうです。
筆者は、手取り足取りの指導はかえって生徒たちの自由な発想の邪魔になることから、企業というものや、イノベーションというものなど、生徒には実感の乏しいものについてだけポイントを絞ってアドバイスを行いました。「最初は大胆な発想、思い付きでいいんだよ」という適度な指導は、多少なりとも生徒たちにプラスになったのかもしれないからです。しかし、「良かった、良かった」というばかりではありません。準決勝では、筆者が指導した生徒たちに大きな試練が襲いかかったのです。
準決勝に進出したC高校のOチームが応募した企業テーマは、その企業が販売する夏のアウトドア向けヘルスケア商品について、「日本の高校生に圧倒的に支持されるように、Z世代の価値観を活かした新たなプロモーションを提案せよ」というものでした。
高校生ながら既に起業を視野に入れているメンバーを含んだ男女4人のメンバーが出してきたアイデアは以下のようなものでした。
・その会社の商品の特性を表すキャラクター(アニメの少女のような)をクリエイターに創ってもらう
・そのキャラクターを主人公にした短編アニメを作成し、YouTube、Twitter などで拡散する
・キャラクターをVtuber化し、Live2Dなどの技術を使いカメラを介しリアルタイムに動かし喋らせる(YouTubeで拡散)
・店舗で陣列した商品のパッケージからキャラクターが飛び出るよう、パッケージにAR技術を盛り込み、購入者がキャラクターと写真撮影ができるようにし、その写真をSNS等での拡散を狙う
まさにSNSに染まった今の高校生ならではのアイデアが満載(教えた生徒が「IT専攻」の生徒だったこともあります)。さらにキャラクターをNFT化して販売し、話題性の獲得、そしてアニメクリエイターへの報酬の支払いなどのアイデアも組込んだ「Z世代」そのものであり、「実効性」という面でも素晴らしい内容でした。
準決勝では、チームのリーダーが色やデザインなど凝ったパワーポイントを使用し、アニメーションも活用しながら、自信を持ってプレゼンテーションを行いました。
同じく準決勝に残った他校のプレゼンはというと、現在その企業が行っている「販売」の域を出るものではありませんでした。そのため、筆者としては、Oチームが「ぶっちぎりでの決勝進出」は間違いなしであり、ネット上で公開されていた前年度の決勝大会のビデオ内容と比較しても、かなりの確率で「日本一」になるのではないかと強く感じたのです。
ところがです。決勝進出はOチームではありませんでした。決勝進出がアナウンスされた瞬間その進出チームは、「エ、私たちなの?」という困惑の表情を見せていました。
発表直後に行われた協賛企業による優勝チームの選考理由を聞いて、筆者は「そうか!」と合点が行きました。最終決定者と思える説明者が、プレゼンの中で一応説明がなされていた「NFT」や「Vtuber」が「実感として」到底理解できそうもない相当シニアの取締役だったのです。
因みに、もう一つの協賛企業であるゼネコン企業の「20年後の社会に新たな価値を創出する新たなビジネスアイデア」というお題に対して、C高校の他のチームが出した「火星での都市建設計画」アイデアも書類選考段階で却下されていました。
上記の落選例は、日本の企業、それも特に大企業の社内で繰り広げられている「イノベーションの息の根を止める」ヒエラルキー構造、イノベーション開発体制の縮図としても考えられます。想定されるのが次の2つです。
(1)ワカモノの斬新なアイデアが現場の長に、「出来るわけない」と握りつぶされる
(2)上記はクリアしても役員段階で、「これ、絶対に成功するのか?」という質問の前で撃沈されてしまう
「破壊的イノベーション」を企業内で育てていくには
斬新なアイデア、破壊的イノベーションというものは、年齢が上の「常識人」、「会社エリート」にとっては、自分の知っている知識の範囲で理解でき、「絶対に」成功するものでない限り、やるべきではないと思われているのです。それでは、破壊的イノベーションはいつまでたっても陽の目を見ません。企業の皆さんにお伝えしたいのは、破壊的イノベーションを企業内で育てるのは生半可ではないということです。とてつもなく高い壁が存在します。それをクリアするためには、以下の3つの観点が重要です。
(1)アイデア出しの段階……「ワカモノ」、「バカモノ」、「ヨソモノ」を確保し、自由な発想を提案させる体制、あるいはワークショップ等の仕掛け
(2)新規事業の審査の段階……保守的な社風、経営陣を忖度して中間層、実務層が斬新な提案を潰すことがない体制、共通認識の定着
(3)決定段階……時代遅れの成功体験、市場動向認識、そして、失敗するリスクよりも「まずやってみる」ことを促進する経営陣の存在、あるいはそうしたイノベーションについての(社内ではなく)市場での常識を判断に反映できるような外部戦力からのアドバイス
破壊的イノベーションのアイデアは「失われた30年」の過去にも種はあったはずです。それが育てられなかった背景には、新規事業・イノベーションの企画、検討、決定する各場面に問題があったのではないでしょうか。
「Z世代の高校生に支持される」プロモーションを選出するなら、「ワカモノ」が選ぶ、あるいはそうでなくても選出に大きく関与すべきなのです。
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