ビジネスとデジタルをつなぐ「ブリッジパーソン」を定義
東急不動産ホールディングスでは、2021年5月に発表した長期ビジョン「GROUP VISION 2030」にて、「DX」を全社方針の一つに掲げた。その上で、「ビジネスプロセス」、「CX(カスタマーエクスペリエンス)」、「イノベーション」の3つの取組方針にもとづいてDXを推進することで、新たな価値創造に取り組んでいる。そこで東急不動産ホールディングスグループは、DXによる価値創造を加速するため、2022年4月にDX機能会社としてTFHD digitalの事業を開始した。同社は、不動産業界のDXをリードするエキスパート集団として同グループのDX推進を支援しており、その一環として、ビジネスとデジタルをつなぐ人材を「ブリッジパーソン」と位置づけ、育成活動に注力してきたとのことだ。
今後、デジタル技術のさらなる進歩が予測されている中で、同社は「ソーシャルネイティブ世代が経済や消費の主役となる時代が到来すれば、顧客やビジネスパートナーとの関係性は、リアルとデジタルは掛け合わせたものになる」という。そのうえで、「オンラインが主体となることで、いかにシームレスであり、かつパーソナライズされたサービスを提供できるかが競争力のカギである」との見解を示している。
さらに同社は、「不動産とデジタルの融合は、不動産事業領域の競争力や利益性を高める好機である」として、「業界の中で優位性を発揮するには、IT基盤の強化やデジタル人材の育成に戦略的に取り組むことで、グループ内にDXの成功体験を着実に拡げていくことが必要」と考えている。
これらにより、同グループではデジタルをビジネスに落とし込み、プロジェクトを主体的に推進する人材を「ブリッジパーソン」と定義したうえで、育成施策の一つとして本プログラムの始動に至ったという。
10回の講義とディスカッションを通じて生産性や付加価値を創出
ブリッジパーソンには複合的な能力が求められるため、本プログラムの設計は座学の習得に限らず、即座に業務で活用できる実践的な内容となっている。具体的には、参加者である「トレーニー」が全10回の講義を通じて、「プロジェクト計画書」をアウトプットとして作成し、最終回にその計画書を所属元上長に発表する。トレーニー自身が担当業務の周辺領域で実際に抱える課題をテーマとし、本プロジェクトを通じて講師・チューターとディスカッションを行う。アサインされた講師、およびチューターは、DXプロジェクトの立ち上げ・推進経験や、最先端のスキル・ノウハウ・実績を有する外部人材だ。この講師やチューターの支援をもと、改善点を洗い出すことで、これまでの業務フローでは実現できなかった生産性や付加価値を生み出していくことを可能にするという。
本プログラムの内容については、講師・チューターとトレーニーのインタラクティブなセッションにより、トレーニーが活きた経験を身につけられる設計となるようこだわったとのことだ。全10回の講義以外にも、講師やチューターとの1on1を設けるなど、一人ひとりの理解度や習熟度に寄り添うことで実行力を高め、ブリッジパーソンとしての自信も得られるようなサポートを取り入れているという。また、プロジェクトを実践するうえで生じる課題・軋轢も解決することができる、実効性のある内容となっている。
なお、本プログラムは、DX領域における戦略策定から人材紹介・派遣までを行うPlus W株式会社のサポートのもと開発したという。Plus Wの、企業のDX推進領域でフロントランナーとして活躍する副業人材を多数有している強みを活かし、Web事業会社の最前線で活躍する副業人材を中心に講師・チューターをアサインすることで、トレーニーの実業務における課題や、組織が直面する問題に寄り添い、DXが推進される環境を仕組み化する独自のプログラムに設計しているとのことだ。
プログラムを経て計19名のブリッジパーソンを育成。新たな価値の創造へ
実際に、2022年10月~2023年7月の期間に計4回にわたって東急不動産ホールディングスグループより候補人材を募り、実践型トレーニープログラムを実施することで、ビジネスとデジタルをつなぐ「ブリッジパーソン」を計19名育成しているという。また、プログラム終了後の2023年7月より、プログラムで得た経験に基づき、DXの最新事例に関する講義や各トレーニーのPDCAの実践を通じて研鑽の蓄積をサポートするフォロープログラムも実施している。これにより、会社の業務効率化に貢献した事例や、社内の業績功労賞を獲得した事例もあるとのことだ。同グループは本プログラムの実施により、グループ内で実践する機会を創出することで、今後さらにブリッジパーソンの育成や活躍に向けた取り組みを行っていきたいとしている。あわせて、今後もさらにDX推進人材の育成に注力することで、新たな価値を創造していく考えだ。
同社はDXについて、「取り組む」から「成果を出す」のフェーズへ移行しているとの見解を示し、「ブリッジパーソン」が架け橋となってDX強化を図っている。昨今はDX推進を図る企業も多い反面、専門知識を持つ人材や取り組み時間の確保に難航する企業も多いと考えられる。今後、DX推進を図る企業ではこうした先行事例を参考に、自社にデジタルを落とし込み、さらに成果を生み出す方法を考えていく必要があるだろう。