コロナ禍を経て、職場でのメンタルの不調を訴える方が増えているようだ。筆者もお客様から相談を受ける機会が多くなった。メンタルの不調を訴える方々に共通しているのは、「真面目で善良に見える人」と筆者は感じている。もちろん全てのケースに当てはまるわけではないが、当たらずといえども遠からず、という印象だ。では、メンタル不調を回避する処方箋はないものか。若干の考察を加えてみる。
「メンタル不調」から遠ざかるために、心を蝕む“アンフェアなトレード”を回避するポイント

「アンフェアなトレード」がメンタル不調の一因に

私たちは日々、様々な「トレード」の中で生きている。家族や知友人とは思いやりや愛情をトレードし、買い物では商品サービスとお金をトレードし、職場では給料と労働時間や仕事の成果などをトレードしている。ただ、これらのトレードを冷静に振り返ると、必ずしもフェアに行われているわけではない。特に、職場ではアンフェアなトレードが横行していることも多い。

例)
●無謀なノルマにより、サービス残業が当たり前になっている
●女性であることを理由に、雑用ばかり強いられる
●クライアントから、無理なリクエストばかりが出される


本来、トレードとは公平であるべきで、職場の人間関係がスムーズであるためには、相互の利益・幸福が最大化するよう、フェアなトレード関係であるべきである。しかしながら、人間の性なのか「自分だけ得すればよい」、「自分の保身が第一だ」、「他人は自分の踏み台だ」といった感覚を平然と醸し出す人間が存在するのも厳然たる事実である。彼らは、真面目で善良、弱い立場の人たちにつけ込み、利用しようとする。その結果、被害者が生まれ、その人生までをも狂わせる。

“アンフェアなトレード”を回避するポイントとは?

このような環境に身を置かざるを得なかった場合、それを回避するにはどうしたらよいだろうか? 被害者となってしまった人たちの多くは性善説を信じ、「自分さえ我慢し大人しくしていれば、良い方向に向かうに違いない」と考えている節がある。しかし、トレードの相手によっては、その関係がフェアに改善されることは少ない。であれば、「トレード関係を営々と続けていくべき相手」と、「その関係を再考すべき相手」とに色分けし、特に後者へは次のような行動を起こして早急に結論を導き出した方がよいのではないだろうか。

●ポイント1:「メタ認知」と「第三者に相談する」ことで客観性を担保

「メタ認知」とは、起こっている事実を客観的に感じることである。また、「第三者に相談する」ということも、起こっている事実を三人称の立場で客観視するための行動だ。まずは、事実を客観視することにより、抱えている問題が自分の独りよがりではないという仮説を立てよう。

●ポイント2:自分の考えや気持ちを相手に的確に伝える

次のステップは、自分の考えや気持ちを相手に伝えることだ。その際に注意すべき点は、「Iメッセージ」で伝えることである。決して「Youメッセージ」を使ってはならない。

下図は、筆者がアンガーマネジメントセミナーなどで使用する資料であるが、ご覧のとおり、「Iメッセージ」と「Youメッセージ」とでは相手に与える印象が大きく異なる。せっかく勇気を出して伝えたのに、相手に曲解されるような伝え方は極力避けるべきである。もちろん、これにより100%上手くいくという保証はない。けれども、伝えるためのベストを尽くしたという経験は自己成長にもつながり、より良い人間関係を築くためのエネルギーとして蓄積されていくだろう。
「メンタル不調」から遠ざかるために、心を蝕む“アンフェアなトレード”を回避するポイント

YouメッセージとIメッセージについて

●ポイント3:トレードの相手が自分にとって「害悪」だと認知することも必要

先述の方法で手を尽くしてみても変化がない場合は、トレードの相手が自分にとって「害悪」であることを正しく受け止めることも必要となる。躊躇なく、心の中でレッテルを貼って「心の迷惑メールフォルダ」にでも入れておけばよい。関係を断ち切ることは困難だったとしても、接触の機会を最小限にしてみよう。自らの心の安定を図る方が、断然プライオリティは高い。決して、関係を改善しようなどと考えないことだ。

「組織の集団催眠」に抗うことこそが必要

人間社会の組織には、多少の違いはあれど「マス・フォーメーション(集団形成)」という社会的病態が出現する。ある種の集団催眠状態である。そこから演繹的に導き出された社会的な「善」と「悪」が、さも真実であるかのように私たちを錯覚させる。アンフェアなトレードは、実はこれらを起点としているのだ。従って、個々人は自分の内面にある「心地よさ」、「心地悪さ」という基準をしっかりと持って、このような社会的病態に抗うことが最も重要なのである。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!