新卒入社後30年スパンの長期雇用を前提に、経験を積ませ経営幹部へと昇進させていくのが従来の日本企業の育成パターンである。一方、欧米では、幹部候補人材に必要な経験を短期間に積ませていく「ファストトラック」を導入している企業もある。そのような中で注目したいのが、ファストトラックと呼べるNTTグループの人事改革だ。同グループは、2023年に最短6年目で管理職になれる新制度の導入を予定しているという。
「若手優秀人材に成長機会を与える」――NTTの新たな“ジョブ型”人事制度に見る、欧米式・早期抜擢キャリアパスのすすめ

20代で管理職になれる新人事制度

NTTがグループ全体の人事改革を進めている。自社およびNTT東日本、NTT西日本、NTTドコモといった主要グループ会社の大半で、2020年7月から部長級以上にジョブ型の人事制度を導入、21年10月から課長級以上の管理職全体に対象範囲を広げた(※1)。

※1:NTT「新たな経営スタイルの変革について」(2021年9月28日公表)

入社年次に基づく年功的人事を廃し、職務の内容に応じて従業員を処遇していく。一般社員についても、ジョブ型の対象外ではあるが、専門性を重視した評価制度に改めることでプロフェッショナル人材の育成を推進していく計画だ。

従来の一般社員向けの人事制度では新卒が管理職になれるのは早くでも30代半ばだが、2023年度にも導入予定の新制度では最短6年目で管理職になれるという(※2)。

※2:20代で管理職に、NTTが導入する新人事制度の全容(日刊工業新聞・ニュースイッチ)

就職先人気企業の変遷が物語ること

NTTといえば、かつては東大生の就職先No.1の会社であった。1989年(平成元年)の東大生の就職先トップ3は、NTT、第一勧業銀行、日本興業銀行(大学通信調べ)。昭和の終わりに日本電信電話公社から民営化されたNTTは、大量採用していたこともあり、人気の就職先であった。

時代は令和になり、人気企業も様変わりしている。最近の東大生にとって憧れの就職先は、マッキンゼー、ボストン コンサルティング、ベインといった外資系コンサルだ。少数精鋭の狭き門なので実際の採用数は必ずしも多くないが、人気は高い。金融やIT大手企業は滑り止め、官僚人気は下落、ベンチャー志望者が増えている。

滅私奉公的な働き方を強いられる職場は敬遠され、徹底した実力主義で仕事はハードだが、やりたいことができ専門性も磨けるところを求める傾向が高まっている。根底には、立教大学経営学部の中原淳教授が“経験獲得競争”と呼ぶように、優秀な人材の中で、社会への貢献実感と自己の成長実感の持てる経験の機会を競って獲り合う構図がありそうだ。

“ファストトラック”人事の難所

新卒入社後30年スパンの長期雇用を前提に、ローテーションで複数部門の経験を積ませ経営幹部へと昇進させていくのが従来の日本企業の育成パターンだが、欧米企業では目星をつけた幹部候補人材に必要な経験を短期間に積ませていく“ファストトラック”がある。日本企業の中にも、これにならった早期の抜擢キャリアパスを導入する事例が出てきているが、制度を導入したからといって必ずしも上手く機能するとは限らない。

たとえばパナソニックに吸収される前の三洋電機には「ADVANCE21」という経営幹部育成制度があった。入社時から幹部候補生としてファストトラックでキャリアを磨けるとの期待から新卒・中途で100人以上が経営職枠で入社したが、その大半が数年で退職してしまった。

原因は、採用時の謳い文句と入社後の実態のギャップが大きかったことだ。幹部候補生として鳴り物入りで採用した人材に対し、配属された職場で彼らの期待した経験の機会が与えられなかっただけでなく、特別扱いに対する周囲からのやっかみに悩まされたという。採用、配置、評価、報酬という人事システムは本来連動していないと機能しないのに、採用だけが先走ってしまい、変化をもたらすはずの外部からの異分子が変化を好まない内部との軋轢の中で淘汰されてしまった格好だ。

このように斬新な制度をつくっても運用が旧態依然のままで実態は変わらないことは珍しくない。NTTの最高人事責任者(CHRO)である島田明副社長が「この制度の肝は、運用だ」と言っている通り、さまざまな軋轢を乗り越えて、若手社員にもコンサルやベンチャーに匹敵する経験の機会をつくれるか、NTTの変革の挑戦に注目していきたい。

(執筆者:竹内 秀太郎)

※本記事は『GLOBIS 知見録』に掲載された記事の転載です。
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