厚生労働省指針において、ハラスメント防止を目的に事業主が行うことを義務とする「雇用管理上講ずべき措置」が定められていますが、その他にも「行うことが望ましい取組(以下、望ましい取組)」というものも定められています。「望ましい取組」は、効率的にハラスメントの防止策を推進する上で大切な内容です。今回は、指針に示されている3つの「望ましい取組」の概要とポイントをご紹介します。
ハラスメント防止は措置義務だけではない! 厚労省指針「事業主が行うことが望ましい取組」の概要とポイントを解説

【望ましい取組:1】各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備

ハラスメントの内容に応じて、事業主の雇用管理上の措置を定めた法律は異なります。

●職場におけるパワーハラスメント(パワハラ):「労働施策総合推進法」
●セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠または出産に関するハラスメント(マタハラ):「男女雇用機会均等法」
●育児休業などの制度利用に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ):「育児・介護休業法」


それぞれのハラスメントについて、雇用管理上の措置が義務化された時期が異なることもあり、相談窓口が一元化されていない場合もあります。ハラスメントが複合的に生じることも想定されていることから、指針では、一元的に応じることができるよう窓口を整備することが望ましいとされています。

<ポイント>ハラスメントに関連する“法改正”とセットで相談体制を整備

セクハラ・マタハラなどは先行して義務化されていますが、中小企業におけるパワハラの雇用管理上措置の義務化は2022年4月からとなっており、時間差が生じています。そのため、社会的にも「パワハラ」に焦点が当たりがちですが、他にも2022年~2023年には次のような法改正が予定されています。

【女性活躍推進法】
一般事業主行動計画の策定や情報公表の義務化が、301人以上の事業主から101人以上の事業主に拡大(2022年4月より)

【育児・介護休業法】
●雇用環境整備や個別の周知及び意向確認の措置の義務化(2022年4月より)
●有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月より)
●産後パパ育休(出生時育児休業)の創設及び育児休業の分割取得(2022年10月より)
●従業員1,000人超企業の育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月より)


これら法改正の遵守は、

●女性の活躍を推進し、人材の多様性を確保することで、セクハラ防止につながる職場風土が醸成できる
●育児休業等の周知をすることで、男性が育児休業を取得しやすい環境が生まれ、パタハラ防止につながる

など、さまざまなハラスメントを防止する上で大きな効果が期待できます。そのことからも、2022年はハラスメント防止の取組を整備する絶好の機会なのです。各種ハラスメントや法改正について、一つひとつの内容を個別に捉えるのではなく、各種ハラスメントの一元的な相談体制を目指すことで現状の対応の見直しを図りつつ、法改正内容を包括的に捉えて効率的にハラスメント防止を推進していきましょう。

【望ましい取組:2】職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取組

指針では、パワハラ防止に関する取組として

●コミュニケーション活性化を図るための「定期的な面談」、「ミーティング」の実施
●「感情をコントロールする手法についての研修」や、「コミュニケーションスキルアップについての研修」の実施
●過剰な長時間労働の是正

マタハラ・パタハラ防止に関する取組として

●制度等の周知
●妊娠した労働者が、自らの体調等に応じて適切に業務遂行する意識を持つことの啓発

等が挙げられています。

<ポイント>新たな取組は“戦略的”に

防止策について積極的に行動へ移し、面談・研修などのさまざまな取組ができれば、それに越したことはありません。しかし、それを実現するには「企画する担当者の労力」や、「従業員が参加するための時間」などが必要となります。そして、ハラスメントに限らず、今後も事業主はさまざまな雇用管理上の措置が求められていくことも予想されます。取組に必要な負担や、それに対する効果などを想定し、会社の実情に応じた対策を考えていきましょう。

また、面談・研修などの新たな取組を導入する際、その事実だけで満足しないことが大切です。肝心なのは“新たな取組を導入した「その後」”です。

例えば『感情をコントロールする手法についての研修』を開催したのであれば、

●研修開催後、従業員アンケートなどにより、職場環境が向上したのかを検証する
●感情に関わる人事評価項目を改正する機会とする
●研修を通じて効果が表れた従業員へインタビューを行い、それを社内報で周知する

といったことが挙げられます。

同時にさまざまな取組を行うより、ひとつの取組に絞って戦略的に次の取組へとつなげることが、効率的なハラスメント防止を推進するポイントです。

【望ましい取組:3】労働者や労働組合等の参画

指針では、雇用管理上の措置を講じる際に、必要に応じて労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めること、とされています。参画を得る方法のひとつとしては、労働安全衛生法に基づく衛生委員会の活用などを挙げています。

<ポイント>望ましい取組は“既存の取組を見直すこと”を大切に

新たな取組については、過度の負担がかからないよう必要なものに絞りましょう。そして、より大切にすべきことは、“既存の取組を見直すこと”です。

例えば、

●衛生委員会が、労働者側の意見を反映する場となっているか
●ハラスメント相談窓口が、形骸化していないか
●人事労務に関する取組が、毎年同じことを繰り返すだけになっていないか

などです。これらを見直すことにより、既存の取組の課題を抽出し、労働者の参画を通じて解決を目指すことが、ハラスメント防止につながる何よりの方法です。

「雇用管理上講ずべき措置」だけでなく、「望ましい取組」も効率的にハラスメント防止策を推進するための大切な手掛かりとして、ぜひ強く意識しましょう。

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