「自分に向く仕事」を求めて転職を繰り返す近年の若者
2022年度がスタートした。各社では新入社員を迎え入れたところであろう。ところで、最近は「若年社員の早期離職を削減すること」を経営課題とする企業が少なくない。社会に出て初めて入社した企業に長く留まることなく、早々に見切りをつけて退職する若者が多いためである。そのような若者は少なからず、「この企業の仕事は、自分には向かない」、「自分に合う仕事が、他にあるはずだ」などの思いを持って退職を決意するようだ。
ところが、“自分に向く仕事”を求めて転職したはずの若者は、新しい職場でも「この企業の仕事は、自分には向かない」といった思いを抱きがちである。その結果、「向いた仕事を求め、転職を繰り返す」、「向いた仕事に就くことを諦め、転職先に残る」、「何度転職しても向いた仕事を見つけられず、定職に就かなくなる」などの事態に陥ってしまう。
なぜ、そういった若者は、自分に向く仕事に出会えないのだろうか。
自分に向く仕事は「探して見つけるもの」ではなく「後から気付くもの」
「自分に向く仕事に出会えない」という若者は、大きな勘違いをしている。自分に向く仕事は「探して見つけるもの」だと思い込んでいるのである。残念ながら自分に向く仕事は、求人情報を探して見つけられるようなものではなく、実際にその仕事をしてみた上で“後から気付くもの”だ。「長期間に渡って仕事に携わった結果として、自分の職業適性を認識できるようになる」というのが、自分に向く仕事の現実と言える。
ただし、自分の職業適性は、長く働いていれば必ず認識できるようになるわけではない。自分に向く仕事に「気付ける働き方」と「気付けない働き方」がある。従って、若者が自分に向く仕事に出会うためには、「自分に向くか」という視点で求人情報を検索するよりも、いかにして現在の職場で自分に向く仕事に“気付ける働き方”をできるかがポイントになる。
仕事の「遂行能力」と「実行領域」の拡大が職業適性に気付くカギ
自身の職業適性は、仕事の「遂行能力」と「実行領域」が拡大したときに、認識が可能になる。仕事を進めるさまざまな能力が向上し、実行可能な仕事の領域が広がると、初めて人は特定の仕事に対して「向いている」という感情を抱きやすくなる。例えば、自身の職務遂行能力を活かせる業務や、自分が実行可能な仕事に対して「向いている」と感じるのである。自身が今まさに取り組んでいる仕事に適性を感じることもあれば、そうではない仕事に適性を感じるケースも少なくない。
しかしながら、仕事の「遂行能力」と「実行領域」がともに未発達な段階では、このような現象は発生しない。職務遂行能力が未熟であれば能力を活かせる業務もほとんどなく、実行可能な業務領域が狭小であれば、それらに適性を感じる確率も低いためである。
若年社員は、仕事の「遂行能力」と「実行領域」のいずれも未発達である。言い換えれば、「自身の職業適性に気付く能力」が開発されていないのが、若年社員の特徴と言える。それにもかかわらず、早々に適性の有無を判断しようと試みた結果、「現在の仕事に適性なし」との回答に帰結している点が、早期離職する若者の問題点と言えよう。このような判断で転職を何度繰り返しても、残念ながら自身の職業適性に気付ける日が到来することはない。
今の仕事に全力を尽くすことで「自分に向く仕事」が見えてくる
自分に向く仕事に「気付ける働き方」とは、仕事の「遂行能力」と「実行領域」が拡大できる働き方である。ただし、単に日々の仕事を淡々とこなしているだけでは、仕事の能力や領域が拡大することはない。全力で仕事に取り組む経験を、多数積むことが必要になる。つまり、長期間に渡って仕事に無我夢中で取り組む行為こそが、自分に向く仕事に「気付ける働き方」なのである。
しかしながら、若年社員は仕事に夢中で取り組む前に、「この仕事は自分に向くか?」と考えてしまう。そのため、どの企業に転職しても自身の適性に気付く力を身に付けられず、仕事にやりがいや張り合いを感じることも少ないのである。自身のキャリアプランを明確に持っているが故に、この問題に陥る若者も少なくない。
自分の職業適性に気付くのには、時間が掛かるものである。「社会に出て30年働いた後に、やっと自身の適性らしきものに気付いた」という話も、決して少なくない。それにもかかわらず、十分な職業経験を持たない若者が「この企業の仕事は、自分には向かない」などと判断するのは、あまりにも早計である。
人事部門を所管する皆さんには、自社に入社した若者が“転職の悪循環”に陥ることのないよう、「現在の仕事に全力で取り組み続ける姿勢が、自分の職業適性に気付ける最も効果的な手段であること」をぜひ指導していただきたい。
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