会社の成長が一定の売上や社員数で止まってしまう理由の一つに、労務、財務、法務などの「バックオフィス(管理部門)の体制が成長スピードに追いついていない」ということがあります。管理部門は、「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」を集約し、本来であれば経営者に最も近い立場で、“会社を動かす基幹部門”であるはずです。この管理部門の重要性を軽視した組織づくりをしてしまうのは何故なのでしょうか? いくつかの企業を見て気がついた点を3つにまとめてみました。
中小・ベンチャー企業の経営者が「管理部門の人員を軽視してしまいがち」な3つの理由

経営者が「管理実務」に関わっているうちは成長が遠のく

目をつぶって想像してみてください。新しいビジネスが持ちかけられた時など、それらを進めるにあたり、諸手続きの実務を経営者自身が行っている会社というのは、どのくらいの規模を想像するでしょうか。

5人でしょうか、それとも10人、20人、50人でしょうか。いずれにしても経営者自身がそのような実務をいつまでもやっていては組織の成長スピードは速くなりようがありません。

社員数が30人に至るまでには総務と経理それぞれ実務を一人で回せるスキルの社員を入れて、彼らを中心に弁護士や税理士、社労士など士業の先生方とやりとりをし、ビジネスにおける様々な契約や手配などの諸手続きを行うような体制作りができていなければ、30人の壁、50人の壁を超えるのは難しいことでしょう。

経営者が管理部門への関心度を高めれば、会社の成長度合も高まる

経営者が管理部門への関心度を高めれば、会社の成長度合も高まる

経営者が「管理部門の本来の役割」を理解できない3つの理由

しかし、なぜ多くの経営者がバックオフィスに対する人件費を出し惜しみしてしまうのでしょうか? 思いつく限りでは、以下のような理由が挙げられます。

(1)現場部門出身の経営者のため、管理部門に対する関心が低い
多くの経営者、特に起業する方は現場部門出身の方が中心です。そのため、現場部門の実務については詳しいですが、管理部門は「単に処理をするだけの部門」という認識の人が多いのが実情です。

既に会社が成熟期や衰退期に入っている場合はそうなっている場合もあるでしょう。しかし、黎明期、成長期においては、新規事業の展開に向けた準備や体制などを迅速に整える必要があり、優秀な管理部門のスタッフが欠かせません。また株式上場などを目指す会社であれば、審査対応のほとんどは管理部門のスタッフで行う必要があります。膨大なチェック項目や社内外のステイクホルダーの質問に対しては完璧かつタイムリーに回答していかなければなりません。

勢いやノリだけでは不可能なのです。頭だけ良くても無理、実務だけできても無理、両方できてさらにコミュニケーション能力も長けたスタッフ集団でないと無理なのです。

ただ、そのような人材は、そう簡単に見つかるはずもないですから、かなり前段階から常時探しておく必要があります。そういった人員がいないため「上場を目指すぞ!」という掛け声のまま、3年、5年、10年…と時が経過してしまう……という会社は非常に多く見られます。

(2)大企業出身の経営者ため、管理部門の必要性を実感した経験が少ない
大企業では、会社そのものが「一つの国」のようなものです。たとえば給与なども、誰がどのような処理をして自分の口座に振り込んでくれているのか社員は全く知らない、ということも当たり前の世界です。大企業では、同じフロアに100人同じ職種といったように、他の職種との交流が物理的に少ない分、他部署の人の職務内容など気にする機会も少ないでしょうし、具体的に何をしているのかも知ることもできないでしょう。
他方で、中小企業・ベンチャー企業の場合は、ワンフロアに社長、営業、総務、経理など全員がひとかたまりにいる会社が一般的です。そのため、どの職種の人が会社でどういった役割を担っているかは常時視界に入ってきます。

大企業と中小・ベンチャー企業では、社内の見え方もこのように大きく異なります。こういった違いを踏まえないまま、大企業の現場部門出身の方が独立をして起業をすると、管理部門というのは「処理係」で、それ以外には特に仕事がないと勘違いしてしまいがちです。採用は現場優先で、管理部門を後回しにして、人を雇わずに流行りのソフトウェアで無人化できるのでは?、と安易に発想してしまったりします。

このような事情から、大企業出身の経営者が起こした会社では、管理部門をはじめ、他部署・他職種の役割の重要性に気付くのが遅れる傾向があります。問題が起きないうちは良いのですが、資金繰りが回らないなど、経営危機に陥った時に初めて経営管理ができていないことに気がつきます。そうならないためにも、優秀な管理部門のスタッフを早めに確保をして、管理部門の実務に加え、現場部門をサポートしてもらう必要があるのです。

(3)スキルの高い管理部門の社員に出会ったことがない
管理部門は業務内容自体が内向き、受け身の仕事も多いですから、管理部門の社員の性格や行動なども同じ属性なのではないか、というバイアス(偏見)が経営者にかかっているというケースもよく見受けられます。そのため、管理部門にお金をかけるのは「もったいない」という意識が垣間見えることが非常に多いです。
しかし、実際に伸びている会社、株式上場など達成している会社などは、外向きで積極的な優秀な管理部門のスタッフが必ずいますし、上場を果たした管理部門の現役役員の方が登壇している無料セミナーなども今は数多くあります。どの職種でも優秀な人は会社の成功に大きく寄与します。職種にバイアスを持たず、成功者が語る管理部門の重要な役割を理解するように努めることが求められます。

「ビジネスチャンスを逃し、人が定着しない」という経営課題に直結することも

本記事の冒頭の話に戻りますが、管理部門が強化できているか・いないのかを判断する目安になるのは、外部から「協業で新規ビジネスをやりませんか」など、売上につながるような新しいビジネスを持ちかけられた時です。この際に、「いいですね」と言った後に「あ、うちではとてもこれをサポートできるスタッフがいない」ということが頭をよぎり、その話を流してしまうようでしたら、それは社内の管理体制が足りていません。そして、それはスタッフのせいではなく、経営者の責任です。売上につながるビジネスを社内の体制不足で落とさないというのは、経営者の重要な仕事です。

また、ベンチャー企業などを定点観測しているとよくわかりますが、社員の退職の原因は、特に初期の頃は、社長と社員の対立、社員同士の対立など、人間関係の問題が非常に多いです。社員をいくら大量に採用しても10人、30人、50人を過ぎると採用した同じ数だけ辞めてしまい一向に社員数が増えない会社というのは、“プロフェッショナルな管理社員が居ない組織”である場合がほとんどです。

その体制では社員が「辞めようか悩んでいる」というときに、相談に乗り、仲裁に入れる人が誰もいません。しかし、プロフェッショナルな管理部門の社員を採用すれば、そうした人達のケアに手が回るのです。実際に、退職を思い留まらせたり、人間関係のトラブルを仲裁したり、バックアップしてくれます。そういう管理体制が確立した会社であれば、「数十人の壁」に立ち止まることなく、100人まではすぐ到達するでしょう。組織図上は売上を持たない部門へも必要な投資をし続けることが、結果的には売上や利益を伸ばせる組織力構築のための近道です。
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