「THP(Total Health Promotion)」を運用するための8つのポイント
労働安全衛生法第69条の1で「事業者は労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない」とされ、さらに第70条の2において「厚生労働大臣は、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表する」と書かれています。この指針が「THP指針」です。特に最近問題となってきているのは、下記の3点ではないでしょうか。
2)労働力の高齢化に従い、特に工場など体力が必要な労働現場での転倒や腰痛が増えていること
3)メンタルヘルス不調者の増加
これらに気を付けながら労働者の健康を増進していくことが、企業の体力向上、ひいては生産性の向上に資すると考えられます。
THPの具体的なやり方は次の通りです。
1)事業者が「健康保持増進にとり組むのだ」という強い決意を表明する
できるだけ大きく社内に周知しましょう。2)社内の体制作り
産業医・保健師・衛生管理者・衛生推進者などの事業場内のスタッフに加え、中央労働災害防止協会(中災防)や健康保険組合、地域産業保健センター(地産保)、保健所などの事業外資源が使えることを頭に入れておきましょう。実際、THPを行っている途中で「彼らの力を借りたほうがいい」と気づくことは多いです。3)課題を把握し目標を設定
ここは各社の腕の見せ所です。例えば「定期健康診断で全国平均にくらべ明らかに数値が悪いもの」の改善や「喫煙率の引き下げ」などです。ただし、あまりたくさん目標を立てると大変ですので、初年度はどれかひとつに絞って行うのもいいでしょう。4)具体的な数値目標を設定
「健康診断結果の改善」などもいいですが、「健康増進活動として行った運動イベントの参加率や満足度」などでもいいでしょう。初年度はあまり高すぎる目標を立てないのがコツです。5)4の目標を満たすために、どのような措置を講じるかを決定
これは、労働者などの意見をきいて事業者が決めます。例えば、「スポーツを定期的にしている人を増やす」という目的で、壁に表とシールを貼り、上位者には小さなインセンティブを与えるなどです。6)いつまでに改善するのか、そのためにどのような措置を取ったか、などを記録に残す
きちんと文書化しておかないと、いわゆるPDCAが回りません。記録を残すことで、計画が成功したか失敗したかをはっきりさせます。評価期間としては1年間がよいでしょう。7)5の実行
ここで大事なのは「継続性」です。やると決めたら1年間やり通します。特に、現場レベルで管理職を巻き込むことは、対策が効果的に行われるために極めて重要です。8)評価と次期の計画策定
3、4で決めた目標が達成できたかを評価します。これは〇か×かです。目標が達成できた場合は、それを全社に大きく伝えます。これにより、従業員に「やればできるんだ」という自己効力感を持たせることができ、サイクルがよい方向に回っていきます。次いで、次年度の計画を立てます。同じタイプの目標でさらに厳しくする(例えば、今期は「喫煙率を引き下げる」をクリアしたので次期は「喫煙者を0にする」を目標にする、など)でもよし、今までの目標のキープ+新たなタイプの健康目標を立てるもよしです。目標を達成できなかった場合は、その原因が何かを分析し、次期も同じ目標にするか、あるいは他のもっと成功しやすい目標に変えるかを決定します。
以降は、1に戻って繰り返します。
「THP(Total Health Promotion)」のコツは「小さな目標」を「長期的にわたって」積み重ねる
最後に、自社におけるTHPを成功させるための重要なポイントを挙げておきましょう。●経営陣、部課長クラスだけでなく、労働者各自の自覚を促す
このシステムをうまく回すためには、全社をあげて取り組むことが重要です。安全衛生委員会などを通じて、労働者の意見の吸い上げに力を注ぎましょう。●地産保を上手に活用する
行っている途中で、迷ったらまずはこちらに相談してみましょう。●目標は会社の大きさや体力に合わせて定める
最初からあまりに大きな目標を立てると、得てして失敗しがちです。従業員の健康保持増進は1年や2年でできるものではありません。少なくとも10年はかかると思ってください。小さな目標から初めてコツコツと、とにかく継続的に行うことが、10年後の会社の環境を確実に良くします。
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