実際に起きた年休トラブル~人の振り見て我が振り直せ~
以下、全8問でお届けする。あなたは何問正解できるだろうか。【問題1】年休の年5日取得の義務は、労働基準法41条で定めるいわゆる「管理監督者」には適用されない
【答え】誤り管理監督者は労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定は適用除外となっているが、年休に関する規定は適用除外になっていない。他の労働者と同様に年5日の取得義務がある。取得促進の観点からも、管理監督者が率先して取得したいところである。
【問題2】定年退職して再雇用された場合、勤続年数はリセットされ、年休の付与日数も初めの少ない日数になる
【答え】誤り勤続年数は実態で判断される。定年再雇用の場合は「実態として継続勤務とされ勤続年数も通算される」ので、年休の付与日数が減ることはない。ただし、定年退職と再雇用の間の期間が長期間に及ぶような場合はこの限りではない(行政解釈 昭和63年3月14日基発150号)。もちろん、未消化の年休も繰り越される。
【問題3】会社の休職命令により休職中の労働者から年休の申請があった場合、会社はこれに応じなければならない
【答え】誤り休職中は労働義務がないので“年休を取得する余地がない”という考え方で、育児・介護休業などの期間も同様である。ただし、事前に年休の計画付与や時期指定(申請)が行われていた場合は、当初の予定通り年休を取得することになる(行政解釈 昭和31年2月13日基収489号)。
【問題4】派遣労働者からの年休請求に対して、派遣先の事業の正常な運営を妨げるような場合は、派遣先の会社は時季変更権(年休を他の日にしてもらうこと)を行使できる
【答え】誤り派遣労働者の場合は、あくまでも「派遣元」の事業の正常な運営が妨げられるかどうかで判断される。また、時季変更権も「派遣元」の会社が有し、「派遣先」にはない。そのため、年休取得時季が「派遣先」の業務に支障をきたす可能性があるなどの場合では、「派遣先」企業と「派遣元」が相談しながら、「派遣元」の時季変更権を行使することもある(行政解釈 昭和61年6月6日基発333号)。
【問題5】当日の朝になって突然年休申請をしてきた場合、会社は無理に応じる必要はない
【答え】正しい会社は時季変更権を行使できる。ただし、その労働者が休んでも特段の問題が無いような場合は時季変更権が認められず、年休申請に応じなければならいといったケースも考えられる。また、病気や介護などの理由による場合などは柔軟に対応するべきだろう。
【問題6】就業規則で『年休申請は〇日前まで』と定めることは違法である
【答え】誤り違法ではない。その期間が代替要員の調整等の観点から合理的なものであるならば、職場のルールとして定めることは可能である(此花電報電話局事件 昭和57年3月18日最高裁判決)。
【問題7】会社には「年次有給休暇管理簿」の作成・保管義務がある
【答え】正しい「取得日」、「取得日数」、「年休の発生した日」を労働者ごとに明らかにした管理簿を作成し保管(5年間保存。ただし当面は3年間)することは法令上の義務である(労働基準法施行規則24条の7)。なお、できれば管理簿の作成・保管に留まらず、毎月の給与明細書に記載するなど、年休の取得状況を各労働者に周知するような状態にしたい。そこが透明化されるだけで、かなりの年休トラブルを防止できると実感している。
【問題8】年休の取得を我慢して頑張ってくれた労働者に対して、賞与を増額した
【答え】適切ではない直ちに違法とまでは言えないが、この場合は以下の2つの問題がある。
●年休取得者に対して賞与の減額などの不利益取扱いをすることは禁じられているが(労働基準法附則136条)、年休未取得者の賞与を増額する行為は、間接的にこの不利益取扱いをしていると捉えることもできる。
●禁止されている年休の買い上げ予約に事実上該当しかねない(昭和30年11月30日基収4718号)。よほど合理的な内容でない限りは止めておくべきだろう。なお、2年を経過して時効消滅した分の年休買い上げは適法であるので、「労働者の士気を下げたくない」などの事情がある場合はそちらを検討してみるのも一考である。
「人の振り見て我が振り直せ」と言うが、他社の失敗と同じ轍を踏まないよう、正しい知識を身につけたい。労務トラブルの発生は、ルールに対する知識不足や誤解などによるところも大きいので、社内研修などを行うことも有効だろう。コロナ過でうつ状態になる人や、実際にうつ病を発症してしまう人が倍増しているというニュースも耳にする昨今、心身のリフレッシュを制度趣旨とする年休の重要性は増してきている。社員が気持ちよく年休を取得できる、働きやすい職場づくりを目指していきたいものだ。
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