「ストレスコーピング」の意味とストレスを構成する要素
「ストレスコーピング」とは、人間関係や環境などに起因する、さまざまなストレスに上手く対処することを意味する。コーピングは、「上手く対処する」という意味の英単語「cope(コープ)」が由来だ。人事担当者の重要課題の一つが従業員の「心の健康管理」である。従業員、延いては会社を守るためにもストレスコーピングの重要性は今後ますます高まっていくだろう。まずはストレスコーピングの対象となる「ストレス」を構成する3つの要素を解説していく。
●ストレッサー
ストレッサーとは、「ストレスのもとになる刺激」のことだ。社会人のストレッサーは、長時間労働や人間関係上のトラブル、タバコの煙、花粉、病気、離婚など多岐にわたる。受け手によってもストレッサーは異なり、外部からのあらゆる刺激がストレッサーになり得る。●認知
ここでいう認知とは、ストレスのもとになる刺激「ストレッサー」の捉え方を指す。受け手の価値観や思考、経験などにより、同じストレッサーに対しても捉え方は異なる。例えば、「その言い方は止めた方が良いよ」と言われたことに対し、「怒られた」と認知する人もいれば、「アドバイスをしてもらえた」と認知する人もいる。ストレッサーに対し、対応できない、もしくは好ましくないと認知すると、心身はストレス反応を示すことになる。●ストレス反応
ストレス反応とは、人がストレッサーを認知したあとに、心身に現れる防御反応のこと。ストレス反応は、心理面・身体面・行動面の3つがある。・心理面のストレス反応:不安感、怒り、焦り、憂鬱、落ち込み、イラつきなど
・身体面のストレス反応:疲労、動機、頭痛、不眠、食欲不振、肩こりなど
・行動面のストレス反応:暴飲暴食、遅刻、欠席、引きこもり、自傷行為など
自分自身で対処できるストレス反応もあるが、周りの理解や協力がないと対応できないものもある。
「ストレスコーピング」の種類
「ストレスコーピング」には、どのような種類があるだろうか。ここでは以下3つのストレスコーピングの種類について解説していく。(1)問題焦点型
問題焦点型とは、ストレスの原因であるストレッサーに働きかけることで、ストレス自体を取り除き、解決を目指す対処法のことだ。問題焦点型では、自分の働きかけや周囲と協力することにより、ストレスフルな状況から抜け出すことを目指す。具体的な方法として、以下が挙げられる。・嫌味を言う上司に「嫌味を言うのは止めてほしい」と伝える
・オフィスの冷房が効きすぎるため、温度設定を高くする
・パワハラをする上司がいて、ストレスを感じるため、その上司と仲の良い他の上司に相談する
問題焦点型のストレスコーピングは、実行すれば問題を解決できる可能性は高まる。しかし、現実問題として、実行に移すのが難しいケースもあり、そのこと自体がストレスにつながる可能性もある。
(2)情動焦点型
情動焦点型とは、ストレッサー自体に焦点を当てるのではなく、ストレッサーにより生じた自身の感情や考え方を変化させ、ストレスをコントロールするという対処法のことだ。具体的な方法として、以下が挙げられる。・初めてプレゼンを担当することになり不安だが、「これもスキルを上げるチャンス」と前向きに捉えるようにする
・新しい仕事に慣れずに憂鬱だが、「今は力をつける時期」と割り切り、積極的に動くことにした
・職場の人間関係に疲れたため、プライベートを充実させることに徹する
問題焦点型のストレスコーピングに比べ、情動焦点型は実行しやすいというメリットがある。また、ストレスの緩和にも有効に機能するだろう。一方、デメリットとして、実行したとしても根本的な解決にはならない点もあることは留意しておこう。
(3)ストレス解消型
ストレス解消型とは、ストレッサーを感じたあとに、ストレスを発散させ、少しでもストレスのかかる状態からの改善を試みる対処法のことだ。具体的な方法として、以下が挙げられる。・職場の人間関係に疲れたため、友人と愚痴を言い合いストレス発散する
・旅行に行き、新しい仕事に慣れないストレスを和らげる
・好きなマンガを1日中読んで、明日から仕事という憂鬱な気持ちを和らげる
普段から意識せずにストレス解消型のアプローチをしている人も多いだろう。情動焦点型と同様に、根本的な解決にはならないが、ストレスをコントロールする有効な対処法として活用できる。
「ストレスコーピング」を実践するうえでのポイント
「ストレスコーピング」を実践するうえで、おさえておきたいポイントが4つある。いれずれも重要なポイントのため、どれか一つではなく、4つすべてを意識することが大切だ。(1)まずは人に相談し、問題の全体像を把握する
漠然とストレスを抱えた状態でいるのではなく、まずは人に相談し、問題の全体像を把握することが大切だ。人に相談することで、自分の気持ちや状況を客観的に整理し、問題点や原因を突き詰めることができる。相談する人は、できれば複数人いると良い。異なる視点からアドバイスを受け、問題をより多角的な視点で捉えることができるからだ。誰かに話すだけでも気持ちが楽になる場合もあるため、まずは人に相談することから始めてみよう。(2)問題を解決したいという強い気持ちが大切
ストレスを解決するためには、問題を自分事として捉え、解決しようという強い気持ちを持つことが大切だ。自分が動かなくも、状況が変わり、ストレスの原因であるストレッサーがなくなる可能性はある。しかし、それは状況任せの対応であり、ストレッサーがなくならない限りは、ストレスを抱え続けることを意味する。人間関係、仕事、気候、公害など人は常にストレッサーにさらされ続けている。「ストレスを抱えるのは自然なこと」と考えたうえで、「問題を解決して、なるべくストレスの少ない生活を送ろう」という強い気持ちを持つことが、問題解決の第一歩になる。(3)自分と向き合う時間をつくる
今後のキャリアプランや人生設計、これから何をしていきたいのか、どういう人間になりたいのかなど自分と向き合い考えることで、ストレスに対する向き合い方も変わってくるはずだ。例えば、将来的に独立するというキャリアプランを立てた場合、営業が上手くいかずストレスを抱えていたとしても、「独立後に必要な営業スキルを学べている」と捉えられ、ストレスが軽減するかもしれない。1日5分間で良いので、自分と向き合う時間をつくってみよう。(4)定期的にストレス発散をする
定期的にストレス発散をするように心掛けよう。たしかに、ストレス発散は問題の根本的な解決にはならない。しかし、ストレスを発散させることで、精神的に余裕が出て、ストレスとの向き合い方が良い方向に変わるかもしれない。例えば、仕事のミスが重なり気分が落ち込んでいる際には、旅行や運動などをして、気持ちの切り替えが効果的だ。また、ヨガやアロマセラピーなどで、心身ともにリラックスしてみるのも良いだろう。
自分なりのストレス発散方法が思いつかないという人でも、美味しいご飯を食べ、散歩をして日の光に当たるだけでもストレス発散の効果はあるので、ぜひ試してみよう。
「ストレスコーピング」につながる人事施策
ストレスコーピングにつながる人事施策には何があるだろうか。ここでは以下5つの人事施策について解説する。●ストレスチェック
ストレスチェックとは、従業員がストレスに関する質問票を回答し、その回答を企業が集計・分析を行うことで、従業員のストレス状況を調べられる検査のことだ。回答結果を人事部は閲覧することはできないが、従業員自身が自分のストレス状況を把握することにより、ストレスコーピングに役立てることができる。●社内研修
ストレスへの対処法を学ぶ「ストレスコーピング研修」や「パワハラ・セクハラに関する研修」などの社内研修の実施も方法の一つだ。忙しい日々のなかでは、労働環境や人間関係などに由来するストレッサーへの意識は低下しがちだ。定期的に社内研修を実施することで、ストレスコーピングへの意識を高め、ストレスの対処法も都度確認することができるだろう。●コミュニケーション促進
ストレスコーピングを実施するうえで、人に相談することは大切だ。人に相談することで、問題の全体像を整理することができるからだ。しかし、ストレスに関する相談は、繊細な問題をはらんでいるため、信頼できる相手にしかできない。そこで職場でのコミュニケーションを促進させることで、上司部下、同僚同士の信頼関係が構築され、相談しやすい環境が整備される。●1on1
1on1とは、上司と部下が1対1で行う面談のことだ。1on1は、上司が部下に指導をする場ではなく、上司が部下の悩みや不安、業務の課題などについて話を聴く場である。1on1を定期的に実施することで、関係性が深まり、部下は上司に悩みや相談事を打ち明けやすくなる。その結果、相談しやすい関係性や環境をつくれるだろう。●カウンセリング
カウンセリングでは、カウンセラーが従業員の抱える悩みに耳を傾け、アドバイスをしていく。専門家からストレスへの向き合い方を学べるだけでなく、相談者自身がストレスについての理解を深める機会にもなる。ストレスを抱える従業員がカウンセリングを受け、ストレスコーピングをすることで、生産性の向上や職場環境の改善が期待できる。- 1