
カスハラの「定義」や「企業を守るための法律」について
東京都のカスハラ防止条例では、カスハラとは、「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう(第2条5項)」としています。では、「著しい迷惑行為」は何のことを指すのかというと、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為(同4項)」と規定しています。
もし、企業の従業員が顧客から著しい迷惑行為によりカスハラを受けた場合、従業員の精神的・肉体的な負担が増え、業務の生産性が下がるだけでなく、離職者が続出してしまう事態を招くことになります。そうなるとカスハラ対応にリソースを奪われるだけでなく、売り上げやサービスの維持も難しくなる可能性が出てくることから、カスハラ対策は従業員任せにせず、企業として取り組む必要があるのです。
ただ、ここで気をつけなければ、カスハラと正当なクレームの線引きです。たとえば、商品やサービスに落ち度があり、顧客がその旨を企業側に対して指摘することは、もちろん正当な行為です。正当なクレームに対して真摯に受け止めることは、顧客の権利を守るだけでなく、業務の改善などに結びつくことですので大切なことです。
ただ、商品やサービスに対する落ち度について、顧客が暴言や過度なサービスの要求を載せてきた場合は、従業員を守るために組織として対応する必要が出てきます。
ここで、企業を守るための根拠となる法律についてご紹介します。
カスハラそのものを取り締まる法律ではないのですが、実際に生じた行為や損害に適用するものとして、身体的な暴行や暴言は刑法による処罰の対象となる可能性があります。また、財産的・精神的損害が発生したときは、民法の不法行為責任に基づく損害賠償請求権の発生が想定できます。
したがって、いざという時には警察へ対応を依頼する、弁護士に相談する、ということも視野に入れた対策を考えることが必要になります。
カスハラに対する具体的な対策について
そうはいうものの、実際の現場では、著しい迷惑行為を行う顧客に対して強く出られなかったり、「トラブルを避けたい」と考えたりしてしまうことで、顧客の言いなりになってしまうことも十分考えられます。ここで必要なことは、顧客からの要求に対する対処のルール作りです。
先ほども述べたように、顧客からの要求は、正当なクレームからカスハラまで多種多様で、なかなかその場で従業員自身が判断することは難しいものです。そのため、どのような要求が正当なクレームで、著しい迷惑行為がどのような行為なのかを定義しておくのです。
次に、従業員から顧客への対応について、どのような対応なら可能で、何をしてはならないのかをあらかじめ策定して周知しておきます。そして、現場の従業員だけで対処が難しくなったケースになった場合に備えて、緊急連絡先として対応窓口も合わせて決めておくと良いでしょう(必要とあれば警察の連絡先も明示しておきます)。
このように、あらかじめルールを決めておくことで、従業員が対応できる幅が広がり、経営者への負担も軽減することができるようになります。
これらは、実際にカスハラが起きた時の対応ですが、もう一つ重要なことはカスハラを受けた従業員のケアです。従業員がうまく顧客へ対応したとしても、精神的に疲弊することが多いからです。
従業員からカスハラを受けた場合、企業へ報告するよう指導するようにしておくのはもちろんですが、1人で悩むことがないようフォローをすることで、「安心して働ける職場である」と従業員に認識してもらうことが大切です、それができれば、貴重な戦力を守ることにもつながりますので、労使のコミュニケーションを確保していただきたいところです。
いかがでしょうか。カスハラへの対策は、企業の規模に関わらず向き合わなければならない課題です。企業が、現場の従業員の安全と健康を守ることが、企業自身の更なる成長を支える土台となりますので、更なる取り組みをご検討いただけば幸いです。
もし、今後の対策にアドバイスを求められる場合は、お近くの社会保険労務士にぜひご相談ください。
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