変化の激しい時代に打ち勝っていくためには、社員一人ひとりの意思決定スピードを上げていかなければならない。そこで注目されているのが、「自律型人材」の育成だ。「自律型人材」とは、自分自身の価値観や信条・意思に基づいて、何をすべきかを考え判断・行動して、業務を主体的に遂行していける人材を意味する。本記事では「自律型人材」の育成に向けた具体的なアクションやポイントを解説していきたい。
「自律型人材」の育成方法の具体的なアクション、目標設定のポイントに迫る

「自律型人材」はどのような方法で育成していくべきか

「自律型人材」とは、託された仕事に対して自らの価値観や信条、経営者の意図に沿って臨機応変に考え、判断し、成果を導いていける人材を意味する。ただ単に自らの意思を貫くだけではない。会社から期待されていること、求められていることをしっかりと共有した上で行動していくことが重要となってくる。

そもそもなぜ、日本企業において「自律型人材」が注目されているのか。その背景としては、テクノロジーの発達や少子高齢化による労働力人口の減少、働き方の多様化、雇用スタイルの変化などといった要因が挙げられる。こうした時代の急激な変化に対応していくには、社員一人ひとりの意思決定スピードを上げていかなければならない。従来多くの企業で見られた、上司の指示を待ってから業務を遂行するような状況では、もはや通用しないという危機感があると言えるだろう。

●「自律型人材」の育成方法

では実際に、「自律型人材」をどのように育成していけば良いのか。ここでは、5つの方法を紹介したい。

(1)自律型人材の定義化
「自律型人材」の一般的な定義を示したが、実は具体的な定義は企業ごとに変わってくる。企業によって理念もビジョンも違い、育成すべき人材像、社員に求められる能力も同じではないからだ。そこで、最初にすべきことは、自社に合致した「自律型人材」を明確に定義することである。その際には、自社の経営戦略を踏まえて求められる人材像や期待する行動を定義することをお勧めしたい。会社が目指す方向に照らして、どのような長期目標を達成しなければならないか。その実現に向けて、どういう行動が求められるのかを明確にすると、自社にとって必要な人材像が思い描きやすくなる。

(2)必要なスキルの洗い出し
自社で育成したい「自律型人材」を定義できたら、そのために必要なスキルを洗い出してみよう。ここで紹介したい手法は、社内で「自律型人材」として評価される社員を選び出し、どのような行動をしているか、どんなスキルを有しているかを紐解いてみることだ。コミュニケーション力、目標達成力、高いモチベーションを維持できる力など、さまざまなスキルが洗い出せるだろう。

(3)目標設定
社員に適切な目標を設定することも、「自律型人材」の育成には肝要だ。ここで掲げている目標とは、業績目標のことではない。「会社として、社員に今後どんな能力を、どんなスパンで身につけてもらいたいと思っているのか」を示した能力開発やスキルアップに向けた行動目標を意味している。

ここでポイントになってくるのは、会社から一方的に目標を提示するのではなく、本人と協議した上で設定することだ。加えて、目標と本人のキャリアプランを擦り合わせることも重要になってくる。その方が、本人も腹落ちしやすく、納得感を持てるからである。

(4)研修と実践
「自律型人材」を育成するには、研修と実践を関連付けることも大切となってくる。インプットとアウトプットの両軸で考えていけるからだ。特に、指示待ちのスタイルが定着している職場では不可欠となってくる。自律的な働き方とは何か、どんなスキルが必要になるのかをしっかりと理解した上で、学んだことを業務で実践できる場を用意しよう。上手くできたこと、できなかったことをフィードバックし、さらなる学びにつなげていきたい。

(5)定期的な目標の見直し
先に目標設定の重要性を述べたが、目標は定期的に見直していく必要がある。最初にどれほどしっかりとした目標を定めたとしても、実際にやってみたら「少し違うな」、「改善しなければいけない」と感じることもあるだろう。何も変更しないままにしてしまったら、目標そのものの意味が薄らいでしまうと言って良い。

「自律型人材」を育成していくうえでの具体的なアクションを一挙紹介

「自律型人材」を育成するために、企業はどんなアクションをしていけば良いのであろうか。

●経営トップがメッセージを発信

まずは、経営トップから社員に向けて経営戦略やビジョン、求める人材像などを発信する必要がある。企業として組織の方向性を明確に掲げると、社員もそれを指針にすることができ、効率的に行動できる。結果的に、それが社員の成長を促すことになるだろう。

●社員の行動指針を決定

「規律」があることも、「自律型人材」の育成にはとても重要だ。組織として何を目指しているのか、何を軸に行動すれば良いかが明確であると、社員が仕事で重要な判断を下す時の確かな基準となるからだ。

●会社の方針を浸透させる

社員に会社のビジョンや理念、方針などを浸透させることも大切だ。単に能動的・主体的に行動できるのが良いわけではない。会社がどんな考えを持って、どのような方向を目指しているのかを理解し、それに見合ったベストな行動を取れるのが「自律型人材」であるからだ。理念と社員をつなぐには、理念浸透研修もおすすめの手法だ。社員が持つ価値観と会社が持つ価値観をすり合わせる良い機会となる。

●難易度の高い業務を任せてみる

「自律型人材」には、優れた判断力も不可欠となってくる。そのためにも、経験から学ぶことが有益だ。問題に向き合う、自分で考える、行動する、改善する。この4つのステップを繰り返していこう。また、少しストレッチしたくらいの業務を経験すると本人の成長につながりやすい。やり遂げることで、自信を持てるからだ。ここで忘れてはいけないのが、挑戦を受け入れる風土であること。万が一失敗したとしても、挑戦した姿勢そのものは否定されない。むしろ、賞賛される環境であってほしい。

●定期的な面談の実施

経験から学ぶには、上司が定期的に面談を行い、部下と一緒に振り返ることも推奨したい。1on1ミーティングを実施するのも良い。「この場面ではどうするべきであったか」と上司から問いかけ、社員に自ら考えてもらうのも有効だ。何か教訓となることを導くことができれば、さらに成長を加速させられるだろう。

●評価制度を見直す

「自律型人材」が活躍しやすいよう、評価制度も見直す必要がある。そもそも人事評価が公正でないと、社員の不信感が高まるだけでなく、モチベーションが下がってしまう。また、減点主義を取っていると、言われたことだけをやるようになり、チャレンジはリスクだと捉えられてしまう。できれば、目に見える成果だけでなく、チャレンジした意欲やプロセスも総合的に評価するようにしたい。さらなる挑戦への励みとなるはずだ。

●柔軟な異動制度の導入

「自律型人材」を育成するためには、自分のキャリアに責任を持つという意識を植え付ける必要がある。これは、会社主導で行うジョブローテーションで身に付くものではない。社員自らの意志でキャリアを自由に選択できる制度を用意すべきだ。最近増えつつある、社内公募制度や社内FA制度はその一例といえる。こうした柔軟な異動制度が用意されていると、社員も自分のキャリアを考えやすいと言って良い。

●自主学習の構築

「自律型人材」は、自らのキャリアに必要なスキルを進んで学んでいく傾向が強い。それだけに、社員の高い研鑽意欲に応えられるよう、多様な学びの機会や学習支援制度を用意する必要がある。自らの意思で学ぶ社員が増えれば、結果として自律型人材の育成につながるはずだ。

●心理的安全性の確保

「自律型人材」を育成するためには、心理的安全性を確保することも重要となってくる。「心理的安全性」とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念だ。これは、分かりやすくいえば、社員が上司や同僚の反応に恐怖や不安、羞恥心を感じたりせず、自然体に発言したり、行動できる状態を言う。挑戦を称える、失敗しても責められないといった職場環境であるからこそ、社員は挑戦を繰り返したり、主体的・能動的に発言・行動したりしていける。チームビルディング研修などを活用して、そうした安全性を確保していきたい。

●キャリア開発やキャリアデザイン研修の活用

人材育成を専門とする企業が提供するキャリア開発研修やキャリアデザイン研修を活用して、「自律型人材」に必要となるスキルや考え、ケーススタディなどを社員に学んでもらうのも効果的だ。社員が自分の強みや適性を理解する場としても有益であると言える。


劇的な変化やさまざまな局面にも耐えうる強いチームを作るためには、まずは強い個人を育成しなければいけない。ビジネスの世界で強い個人とは、自ら考え行動し成果を導いていける「自律型人材」と言い換えられるかもしれない。本記事では、そうした人材を育成するための方法論や具体的なアクションを解説してきた。働き手そのものが減少しているなか、「自律型人材」を採用するのは至難の業だ。現状の社員を「自律型人材」へ育成していくために、今一度仕組みを構築したり、見直してみたりしてみてはいかがだろうか。
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