先行きが不透明な時代では、目まぐるしい環境変化に対して、いかに迅速かつ柔軟に対応していくかが企業に問われている。拍車を掛けているのが、働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大だ。テレワークが浸透してきており、社員が自主的に判断・行動していかなくてはならない場面が増えている。こうしたなか、注目されているのが「自律型人材」の育成だ。そこで、本記事では「自律型人材」の定義や特徴、育成のポイント、企業事例などを解説していきたい。
「自律型人材」の定義や特徴とは? 育成のポイントやリコーの事例なども紹介

「自律型人材」の定義や特徴

「自律型人材」とは、自分自身の価値観や信条・意思に基づいて、何をすべきかを考え判断・行動して、業務を主体的に遂行していける人材を意味する。上司からの細かな指示を待つのではなく、自主的に取り組み、成果を導くことができるのが特徴だ。当然ながら、こうした「自律型人材」が多い企業は、組織としての動きも非常に速く、成長を遂げやすいと言える。

●「自律型人材」が注目されている3つの背景

なぜ、今「自律型人材」の必要性が高まっているのであろうか。その理由として、3つの観点を紹介しよう。

(1)世の中の大きな変化に対して、柔軟な対応が求められている
激化する国際競争、顧客ニーズの多様化・複雑化、IT技術の急速な発展など、世の中は大きく変化しつつある。そのなかでも、企業は時代の流れに迅速かつ的確に対応していかなければ、永続的に成長していけなくなっている。「自律的人材」は、環境の変化に応じて自ら判断・行動していける。そうした人材が多く揃っていることが、存続への条件となってくると言って良いだろう。

(2)「ジョブ型雇用」への変化
「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への雇用スタイルの変化も、「自律型人材」が注目される大きな要因だ。従来、日本では「メンバーシップ型」が主流であった。つまり、社員に幅広いスキルを身に付けさせることに主眼が置かれていたのだ。だが、今日では「ジョブ型」にシフトしつつある。この雇用スタイルだと、より専門的なスキルが求められるので、自己研さんが非常に重要となる。「自律型人材」は、自らのリソースを活かして学び、成長していけるとあって、ここでも存在感をますます高めている。

(3)働き方の多様化
フレックス制や時短勤務、テレワークなど、働き方が多様化していることも、「自律型人材」が注目される背景の一つと言える。その分、管理職のマネジメントが難しくなってきているため、自分で考え判断しながら業務を遂行していける「自律型人材」の必要性が高まっている。

●「自律型人材」の特徴

「自律型人材」には、共通してみられる特徴がある。ここで3点を紹介したい。

(1)指示待ちではなく、自分から行動できる
「自律型人材」は、企業活動に貢献するために、何をしたら良いのかを考え率先して行動できる特徴を有している。自分に課せられた使命や役割、期待をしっかりと理解しているので、それに応えられるようチャレンジングな目標を設定し、成果を導いていける。

(2)責任感が強い
責任感が強いことも、「自律型人材」の特徴と言える。それだけに、設定した目標を達成するために、何をすべきかを自分で考え最後まで全力で取り組んでいける。また、自分が決断したという意識が強いので、ミスや失敗に対しても真摯だ。結果をしっかりと受け止めて、何が問題であったのか、状況を改善するために何をすべきかを自分から進んで考え行動することができる。

(3)自分の意志や価値観を持ちながら仕事ができる
周囲の意見や場の雰囲気に惑わされず、自分の意志や価値観を持って仕事ができるのも「自律型人材」ならではの特徴だ。納得できる答えを導けるよう、組織のメンバーと意見を交わしていけるので、結果的に自分らしさを活かした独創的な仕事ができる。

「自律型人材」が活きる組織とは

「自律型人材」が活躍するためには、組織のあり方がポイントになってくる。望ましい2つの組織像について触れよう。

●ホラクラシー型組織

ホラクラシー型組織とは、役職や階級のないフラットな組織を言う。意思決定の権限が組織内に分散されるのが大きな特徴だ。そのため、社員それぞれが大きな裁量を持って主体的、自主的に動けるため「自律型人材」を活かしやすいといえる。対義語は、階級や組織があるヒエラルキー型組織だ。意思決定やマネジメントは、管理職やリーダーがすべて担うことになる。従来の日本企業は、ほとんどがこちらのタイプであった。

●ティール組織

ティール組織は、マッキンゼーなどで長らく組織変革コンサルタントとして活躍したフレデリック・ラルー氏が提唱した次世代型の組織モデルだ。組織の目的実現に向けて個々の社員が意思決定権を持つティール組織では、セルフマネジメントとホールネス(個人としての全体性の発揮)、進化する目的の3要素が重視される。

「自律型人材」を育成することで、どのようなメリットとデメリットが生まれるか

「自律型人材」を育成すると、どのようなメリットとデメリットがあるのか。ここで整理してみよう。

【メリット】

●管理職の負荷が軽減される
「自律型人材」を育成すると管理職の負担が軽減できる。例えば、何か問題が発生したとしても、「自律型人材」は自分が何をしたら良いのか、どうしたらこの状況を打破できるのかを考えて行動していける。あれこれと指示を出さなくても良いので、その分を社員のマネジメントや成長をサポートする時間に回せる。

●独自性のあるアイデアが生まれやすい
単に指示されたことしかしないとなると、アウトプットも想定内のものしか期待できない。やはり、自らあれこれと思いを巡らし、試行錯誤を繰り返すなかで独自性のあるアイデアが生まれてくる。また「自律型人材」は、前例や既存の発想・手法に捉われない柔軟さも持ち合わせているので、イノベーションをもたらす可能性が高いと言える。

●業務の効率化につながる
「自律的人材」は、自らの業務に責任を持っているので、上司に言われる前にどうしたらもっとより良くできるかを考え、改善策を実行していける。自ずと、業務を効率化できるし、生産性も高くなってくる。

●組織課題に対するコミットメントが向上する
「自律型人材」は、組織課題に対するコミットメントが高い。「どうすれば解決できるのか」、「自分には何ができるのか」と常に考え、責任感を持って判断・行動していける。

●テレワークに向いている
コロナ禍により、テレワークがかなり拡大してきているが、「自律型人材」はこうした働き方に非常に適している。テレワーク下であれば、社員はオフィス以外の場所で働くことになる。「自律型人材」は、管理職の目が届かない場所であっても計画的に業務を遂行していけるので、組織運営に支障を生じないのは会社にとって有難い話だ。

【デメリット】

●育成に時間や手間がかかる
「自律型人材」の育成は、一朝一夕には行かない。さまざまな能力や資質を身に付けなければならないので、どうしても時間や手間がかかってしまう。研修プログラムを活用する手もないわけではないが、これだと準備に手間がかかる上に費用もそれなりに必要になってくる。

「自律型人材」を育成するうえでの5つのポイント

では、「自律型人材」を育成するにはどうしたら良いのだろうか。ポイントを5つ列挙しよう。

(1)挑戦を受け入れる風土づくり

「挑戦を受け入れる」、「たとえ失敗しても否定しない」。自律性を養うためにも、そうした風土を醸成していくことが大事だ。そのためにも、職場における心理的安全性を確保していかなくてはいけない。自然体の自分をさらけ出せる環境を創り出していければ、社員は気兼ねなく自分の思ったことを発言、行動できるようになるからだ。

(2)経験学習サイクルを意識

経験学習サイクルは、組織行動学者のデービッド・A・コルブが提唱した、学習プロセスに関する理論だ。「経験→内省→持論化→実践」という4つのステップを踏むことで経験から学びを得ることができると説いている。この経験学習サイクルを社員に日頃から意識させておくと、経験をよりスムーズに成長へとつなぐことができる。

(3)管理職のスキル向上

意外に思えるかもしれないが、「自律型人材」の育成には管理職のマネジメントスキルの向上も不可欠となってくる。部下に対して的確なアドバイスができれば、本人の成長につながりやすい。特に問われるのは、何かに挑戦したものの失敗してしまった時にどうフォローアップするかだ。管理職に部下をコーチングするスキルがあるか、ないかで育成の成果は大きく変わってくると言えよう。

(4)会社への深い理解

会社のビジョンや理念、戦略などを深く理解させることも大切となる。会社がどこに向かっているのか、何を目指しているのかを分かっていなければ、自社にとって何が良いのか、どんな行動が求められているのかが判断できないからだ。ただ単に主体的・能動的に行動できれば良いのではなく、企業にとって最良・最適な選択とは何かを考え、行動していけるのが「自律型人材」と言える。

(5)自発的に学ぶ環境づくり

「自律型人材」には、自分にとって必要だと思えるスキルであれば積極的に習得しようとする特徴がある。それだけに、社員の自己研さん意欲に応え、自発的に学べる環境を創り上げていくことが重要になってくる。具体的には、e-ラーニングなどの学習プラットフォームの活用や研修・セミナーの受講費免除、参考図書の購入費用負担、社員同士の勉強会開催サポートなどが考えられる。

「自律型人材」育成の企業事例

「自律型人材」の育成に向けた企業事例も紹介しよう。今回は、リコーを取り上げたい。

●方針/基本的な考え方

リコーはデジタルサービスの会社への事業構造の転換を図るだけでなく、2021年4月にはカンパニー制を導入するなど変革を遂げつつある。これに合わせて進めているのが、リコーグループの基本理念である「リコーウェイ」を指針とした、「自律型人材」の育成だ。社員一人ひとりが、仕事に、キャリアに自律し、変化に強い企業風土を醸成していこうとしている。

●キャリア支援制度

リコーは、「社員本人が自らのキャリアオーナーである」と考え、社員一人ひとりの自律的キャリア形成を支援している。具体的には、個人の成長と能力の向上を目的とした上司との目標面談制度や業務のフィードバック、社内キャリアカウンセリング、キャリアデザイン研修などを行っている。

●社内公募・社内副業制度

社員が新たなポジションにチャレンジできる社内公募制度や勤務時間の一部を活用して、社内でやってみたい仕事やテーマ、活動にチャレンジできる社内副業制度も構築されている。いずれも、自らの将来をデザインする社員を支援していくという社風の醸成を目的としている。

●社員の学位・認証取得サポート制度

リコーでは、社員一人ひとりの「スキルの見える化と自己成長の支援」を進めるために、社員の学位・認証取得サポート制度も構築している。例えば、学位取得を希望し留学したい社員にはスキルアップ支援の観点から特別長期休暇を許可したり、プロフェッショナルな資格や認証を得たい社員向けの研修も年間を通じて行ったりしている。


日進月歩だ、秒進分歩だと称されるほど時代の変化は速く、かつダイナミックだ。その流れに臨機応変に対応していくためにも、企業は今、自ら考え、判断し、行動できる「自律型人材」の育成を進めていかなければならない。業務の効率化、生産性の向上、新規アイデアの創出、管理職の負担軽減、テレワークへの適応など、メリットは数多いだけにぜひ取り組んでみてほしい。自律型人材の育成は、将来に向けた価値ある投資につながると言って良いだろう。
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