「ヒューマンスキル」がマネジメント層に必要な理由とは
「ヒューマンスキル」とは、良好な対人関係を構築するためのスキルを意味する。他者と良い関係を構築、維持し仕事を円滑に遂行していく能力とも言い換えられる。ヒューマンスキルは、「他者の意思や考えを正確に引き出す、理解する技術」と「自分の考えを他者に正確かつ簡潔に伝える技術」の二つに分解して捉えると、より効果的に能力を磨いていけるだろう。●「ヒューマンスキル」とカッツモデルの関係性
「ヒューマンスキル」という用語を提唱したのは、米国ハーバード大学のロバート・カッツ教授だ。同教授は、マネジメント層には「ヒューマンスキル」を含めて3つのビジネススキルが必要であると説いている。(1)ヒューマンスキル
他者と良い関係を構築、維持し仕事を円滑に遂行していく能力。
(2)テクニカルスキル
実務を進めるために必要な技術的な能力。業務遂行能力とも言い換えられ、汎用的なスキルと職種に応じた専門的スキルに大別される。
(3)コンセプチュアルスキル
物事の本質を捉え定義し、個人や組織として対応する能力。日本では概念化能力と訳されている。
この3つのビジネススキルの比重が、マネジメントの階層によって変わってくることを示したものが、カッツモデルだ。これによると、いずれの階層でも「ヒューマンスキル」の比重は変わらないが、階層が高くなるに連れてテクニカルスキルよりもコンセプチュアルスキルの比重が高まっていくとされている。
●「ヒューマンスキル」は、なぜマネジメント層に必要なのか
「ヒューマンスキル」は、ポジションに関わらず誰もが持ち合わせるべきスキルだが、特にマネジメント層には必要とされている。なぜなら、マネジメント層は自分の部下はもちろん、経営層や他の部署のマネージャーなど多様な人と接点を持ちながら、意思決定や調整を行うとともに人材を育成していかなければいけないからだ。しかも、現代はビジネス環境が日々刻々と変化しているため、多種多様な情報をキャッチアップし、迅速かつ的確に対応していくことが求められる。また、ビジネスにおけるグローバル化やダイバーシティの推進などを背景に、多様な人材へのマネジメントが欠かせなくなってきている。様々な価値観を持った従業員と円滑なコミュニケーションを取っていくためにも、「ヒューマンスキル」はマネジメント層にとってこれまで以上に必須の能力となるだろう。「ヒューマンスキル」のメリットとデメリット
次に、「ヒューマンスキル」にはどのようなメリットとデメリットがあるのかを整理しておこう。【メリット】
●風通しが良くなる「ヒューマンスキル」の高いメンバーが働く組織では、コミュニケーションが円滑であり、お互いの信頼関係も強い。自ずと風通しが良く、一緒に協力しあってより良いサービス・商品を創り上げていこうという機運が生まれる。結果として、会社の業績を拡大させていくことができると言えよう。
●顧客と良好な関係を構築できる
顧客との良好な関係を構築できるのも「ヒューマンスキル」のメリットだ。特に求められるのは、交渉力やプレゼンテーション能力であろう。もし、そうしたスキルが備わっていなければ、顧客や取引先が何を意図しているのかを理解できないばかりか、自分たちの考えを的確に伝えることができなくなってしまう。
【デメリット】
●客観的な評価が難しい「ヒューマンスキル」のデメリットは、客観的な評価が難しいことだ。例えば、お互いに信頼関係を構築するために「ヒューマンスキル」を発揮していたとしても、それをどう数値化して評価したら良いのかは悩んでしまう。採用面接においても同様だ。ヒューマンスキルを持ち合わせた人材を採用したいと思っても、限られた面接時間のなかでそのスキルがあるかないかを見極めるには、かなり的確な質問をしなければならない。面接官自身に優れた「ヒューマンスキル」がなければ難しいと言えるだろう。「ヒューマンスキル」の8つの構成要素
「ヒューマンスキル」は、8つの要素から構成されている。それら一つひとつを紹介していこう。(1)ネゴシエーション能力
対話やプレゼンテーションなどを通じて、当事者同士が納得・合意しあえるように物事をまとめていく能力を意味する。日本語では、「交渉力」と表現される。前提となるのは、自分の立場だけに固執するのではなく、相手の立場でも考えられることだ。例えば、取引先とやりとりする際、お互いの要求が相対するケースも少なくない。そうした場合に、自社と相手がどこまで許容できるかという落としどころを見つけ、合意を得る必要がある。(2)ヒアリング能力
相手の発言内容や表情、しぐさに気を遣い、その真意・意図を深く理解する能力を言う。コミュニケーション能力の一つに定義されるが、特にビジネスでは相手が何を考えているのかを引き出すのは重要とされている。そのため、「ヒューマンスキル」を構成する要素として位置づけられている。(3)リーダーシップ
一緒に働く仲間のモチベーションを高め、定めた目標に向けて取り組み、成果を導いていく能力だ。そのため、経営者やマネジメント層だけではなく、すべてのビジネスパースンが兼ね備えていなければいけない能力と言えるだろう。(4)プレゼンテーション能力
自分の意思や考えを相手に的確に伝え、理解を得るために必要な能力を言う。論理的な組み立てが必要なのは言うまでもないが、文章や言葉だけでなく、図表やグラフ、スケッチなども活用して伝えていくことも大切になってくる。(5)コーチング能力
相手に気付きや自発的な行動の促しをもたらしながら、目標の達成や成果の創出に向けてパートナーシップを発揮する能力を意味する。単に相手に指示をしてやらせるのでは意味がない。本人が自分で気づき、考え、納得した上で行動するよう導いていくことが、成果を最大化させるうえで重要になってくる。(6)コミュニケーション能力
自分の意思や考え、感情を相手に伝え、表現できるだけでなく、相手の意思や感情も共有しあう能力だ。仕事は自分一人で完結するものではない。誰かと一緒に進めなければならないだけに、スムーズにコミュニケーションが図れるかどうかがポイントになってくる。「ヒューマンスキル」を構成する要素のなかでも、重要な能力と言って良いだろう。(7)ファシリテーション
会議が円滑に進むようサポートするスキルだ。ネゴシエーション、ヒアリング、リーダーシップ、プレゼンテーションなどを、それぞれの場面に合わせて使いこなす総合的な能力といえる。(8)向上心
自ら高い目標を設定して、その実現に向けて必要なスキルや知識を磨き続けていく能力を言う。向上心が強ければ、成長スピードを高めていくことができ、周囲にも良い影響を与えられるだろう。「ヒューマンスキル」の活用事例
「ヒューマンスキル」は、誰であってもさまざまなシーンで活用できる。ここでは、マネジメント層やIT人材にフォーカスして活用事例を紹介しよう。●マネージャーやリーダー
マネージャーやリーダーは、経営層からの指示を部下に伝達したり、現場の状況を経営層に伝えたりする必要がある。また、時には他のチームとの連携を図らなければならない。コミュニケーションを図る相手は様々であり、階層も違ってくるので、それぞれに合わせた接し方、対応が求められる。その際に役立つのが、「ヒューマンスキル」と言える。●IT人材
IT人材にも高い「ヒューマンスキル」が要求される。特に、プロジェクトの上流工程を担う人材には不可欠となってくる。こうしたポジションはクライアントとやりとりしながら、プロジェクトの全体像を組み立て、動かしていかなければならないからだ。コミュニケーション能力とネゴシエーション能力、リーダーシップは必須の要素と言えるだろう。「ヒューマンスキル」を向上させるために、何を意識してトレーニングをすればよいか
「ヒューマンスキル」を高めることは、企業全体にとってもメリットが大きい。最後に、「ヒューマンスキル」を向上させる方法について紹介しよう。●聞く力を磨く
対人関係力を鍛えていくうえでは、伝える力だけでなく聞く力の向上も欠かせない。聞く力を磨くには、相手の話を積極的に聞くように意識すること大切だ。なんとなく聞くのではなく、疑問に思ったことはどんどん質問していこう。質問することで、相手も新たな気づきや発見が得られる可能性が出てくるからだ。一方通行のコミュニケーションでは、お互い信頼関係を深めていくことはできないだろう。気をつけなければならないのは、質問する際の言葉の使い方や抑揚など。良好な関係構築に向けては、相手を不快にさせることだけは避けたい。●伝える力を鍛える
「ヒューマンスキル」を高めるには、自分の想いを相手に伝える力も鍛えなければいけない。ポイントになってくるのは、自分の発言を相手がどう捉えるかを常に意識することだ。自分の意図と異なる解釈をされてしまうと取り返しのつかない結果になってしまう。そのためにも、語彙をできるだけ増やし的確に使えるようにしておきたい。交渉力やコミュニケーション能力などに代表される「ヒューマンスキル」は、より良い対人関係を構築し仕事を円滑に進めていく上で不可欠なスキルだ。新入社員からマネジメント層、経営層に至るまで、どのビジネスパースンにも必要なスキルである。特に、現代は変化が激しい上に人々のニーズや志向も様々であり、組織としての着地点をどこに置くべきかが判断しにくくなっている。それだけに、「ヒューマンスキル」の高い人材を一人でも多く増やし、組織として目指すベクトルをスピーディーかつ的確に定めていかなければいけない。本記事を参考に、「ヒューマンスキル」の重要性を再認識し、人材の育成につなげていただきたい。
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