採用時には「適性検査」を実施する企業も多いだろう。適性検査にはいくつかの種類があり、その結果をどう活用するのかは企業側にゆだねられる。適性検査は会社や職務の適性を測る一つの指標にはなるが、検査の点数のみで採用の可否を決定できるような万能なものではない。面接とあわせて選考の際にはどのように利用したらよいのだろうか。採用を成功に導き採用後のミスマッチを減らし、社員の適材適所に役立つ「適性検査」の方法を紹介する。
適性検査

今さら聞けない「適性検査」とは? 新卒と中途採用で使われ方はどう違う?

「適性検査」とは、人材が持つ性質や知的能力を判断するために行う。適性検査にはさまざまな種類があり、「能力適性検査」や「性格適性検査」、「ストレス耐性検査」などがある。適性検査によって、その人材がどのような性格なのか、どの職務に向いているのかを企業側はある程度予測できるようになる。

採用における適性検査では、人材が持つ経験の違いから「新卒採用」と「中途採用」で重視する内容が異なる。特に中途採用時には、環境へのミスマッチを防ぐために性格検査を重視する傾向にあり、性格検査のみを実施する企業が少なくない。

「適性検査」を企業が実施する目的、効果とは?

「適性検査」を行うからには、より効果的な活用方法を考えたい。企業が適性検査を行うのは、採用時の判断材料としてだけでなく、採用後に人材の能力を把握して人事に利用する目的もある。

適性検査の効果を引き出すために、企業側は次の9つの点を踏まえて「適性検査」を導入・活用しよう。

●採用の選考

「適性検査」は主に採用選考に用いられる。新卒採用・中途採用にかかわらず、採用試験の一つとして実施する企業が多い。採用選考における適性検査では、採用後のリスク判断に利用される。点数が低い人材は採用後になんらかのリスクになりえるとして、選考から外すこともある。だからといって、点数が高い応募者から順に採用することはない。適性検査の結果のみで採用の可否を決定すると、人材の能力に偏りが出てしまうためだ。

●選考のふりかえり

採用後に「適性検査」を用いることで、検査データを分析して自社が求めた人材および自社の求人に呼応した人材の傾向がある程度分かるようになる。このデータは、今後の採用や選考方法の見直しにも役立つ。採用の内容や手法を変えその都度振り返れば、必要な人材に届く採用活動につなげられるだろう。

●職務分析の活用

「適性検査」は採用だけでなく、職務分析にも活用できる。人材の持つ能力を最大限発揮し、適材適所をかなえたいのなら適性検査による職務分析を行おう。社員に適性検査を行えば、あらためてそれぞれの人材がどの業務に適しているのかを把握できる。

また、それぞれの職種・業務にはどのような人材が向いているのかを分析することで、採用時に適性検査をもとにして適する職務を与えることも可能だ。

●退職者の分析

社員の定着率に課題がある企業は、どのような人材が早期に退職してしまうのかを「適性検査」の結果をもとに分析できる。適性検査の結果と退職理由を突き合わせて分析すれば、自社のカルチャーにマッチしない人材の特徴も見えてくる。

●人材マネジメント

「適性検査」によって人材それぞれの傾向を可視化できる。傾向を理解すれば、仕事へのやりがいを高める制度を新設するなど人材マネジメントにも活用できるだろう。チャレンジ精神が旺盛な人材が多いのなら、社内ベンチャー制度を導入すれば、社員のやる気を高めつつ自社の利益を追求できる。

●キャリア面談

社員と人事が面談を行い、社員の中長期的なキャリア形成を後押しするキャリア面談にも「適性検査」を利用できる。人事側が適性検査の結果を把握することで、本人がどのようにして働きたいのか、どのような価値観を持っているのかを理解したうえで面談に臨める。これにより、社員本人が望まない方向に導いてしまうような事態を避けられるのだ。

●人事評価

人事評価に「適性検査」を用いれば、社員が反発心を持つようなフィードバックを避けられる。特に社員が多く、一人ひとりを把握するのが難しい場合、適性検査の結果を見て個人の特性を理解したうえでフィードバックや評価を行えば、評価と事実が大きく外れることはないだろう。

●社内コミュニケーション

「適性検査」によって、性格や適性、コミュニケーション能力も可視化できるようになる。上司と部下それぞれがお互いの検査結果を知り、理解することで、社内コミュニケーションの円滑化を図れる。相互理解が進み理解不足による摩擦が減ることで、スムーズなコミュニケーションが可能になるのだ。

●タレントマネジメント

自社にある優秀な人材に成果を出してもらうため、あるいは優秀な人材をさらに増やすために行う取り組みをタレントマネジメントという。

「適性検査」の結果を人事データの一つとして管理すれば、人材が持つ能力やスキルだけでなく特性、傾向、性格を把握できる。タレントマネジメントの目的は、経営目標を人事戦略によって実現することにある。適性検査の結果は人材の分析に役立つのと同時に、タレントマネジメントにおける重要なデータの一つといえるだろう。

おさえておきたい「適性検査」の種類

あらゆる面で活用できる「適性検査」にはいくつかの種類がある。適性検査の種類とその内容について見ていこう。

●形式

「適性検査」のテスト形式には次の4つがある。

(1)筆記試験
筆記試験は、主にマークシートを用いて行う。マークシート式の問題と解答は、「適性検査」の提供会社が用意するのが一般的だ。採点については、社内の人事部が行うこともあるが、問題を提供した会社が行うケースもある。筆記試験による適性検査は、WEBテストよりもコストが高い。また、結果が出るまでにも時間がかかることを理解しよう。

(2)テストセンター
「適性検査」を提供する会社が会場を用意して実施する方法がテストセンター形式だ。大企業では受検会場が全国に設置され、受験者は会場内にあるパソコンから回答を送信する。企業側の作業は受検者の情報を管理システムに登録して案内メールを送るのみ。適性検査にかかる手間を大きく削減できる。

(3)インハウス
インハウス形式では、テストセンターと同じくパソコンを用いて検査を行うが、受験を行う場所や機器は企業自らが用意する。インハウス形式を採用すると、「適性検査」直後でも検査結果を把握できるようになる。

(4)WEBテスト
同じくパソコンを用いるが、受検者の自宅から検査を行えるものをWEBテストと呼ぶ。企業側は会場や機器を用意する手間がなく、受検者は全国どこからでも好きな時間にテストを受けられるのがメリットだ。

●方式

さらに、「適性検査」には次の2つの方式がある。

(1)ノーマティブ方式
ノーマティブ方式は、問題に対して「はい」、「いいえ」、もしくは3~5段階のうちどの段階に位置するかを回答する方式だ。「適性検査」を行う企業では、ノーマティブ方式を採用することが多い。

ノーマティブ方式は回答がシンプルで受検者が回答しやすいという利点がある。しかし、これは企業側にとってデメリットになりうる。深く考えずに回答できるため、受検者の本音が隠されてしまうことがあるのだ。ノーマティブ方式を採用する場合は、このデメリットを理解したうえで適性検査を行う必要がある。

(2)イプサティブ方式
イプサティブ方式は、複数の回答の中からもっとも「当てはまる」、「当てはまらない」と考えるものを回答する方式である。イプサティブ方式では回答数に上限が設けられておらず、該当するものを複数選択できる。そのため、回答をデータとして比較するのが難しいというデメリットがある。

●目的別

「適性検査」を行う目的によって実施する検査の種類や方式を変えることで、より効果的な結果を得らえる。

(1)能力
人材の能力を把握するための適性検査には、SPI3(Synthetic Personality Inventory)がある。リクルートキャリアが開発したこの検査では、「能力検査」と「性格検査」を実施できる。SPI3は、年間1万3,600社、204万人が利用する実績のある検査だ。

SPI3は高校生、大学生、社会人などそれぞれに問題が用意されており、検査にかかる時間は能力検査と性格検査の合計で1~2時間程度となっている。その他にも、GAB、CAB、OABなどさまざまな職務適性を測れる適性検査がある。

(2)性格
新卒採用のほか複数のケースで利用できるSPI3に加え、中途採用試験で重点的に行われる性格検査には、「クレペリン検査」と「YG性格検査」がある。

クレペリン検査では、用紙に書かれた数字を順に足していく単純な試験が行われる。全部で30問あり、1問1分のペースで足し算を繰り返す。すべての答えを線で結び、生まれた曲線を見ることで性格や特徴、行動中の癖、処理能力が分かるという検査だ。

YG性格検査では、12の検査項目に対し質問が10問ずつ用意されている。検査項目には抑うつ性、攻撃性、協調性などがあり、それぞれの質問に対し「はい」、「いいえ」、「どちらでもない」のいずれかで回答する。検査結果はグラフによって可視化され、受検者の気質等が判断できるようになる。

(3)興味、関心
人材が何に興味や関心を向けているのかを測る検査には、「mitsucari適性検査」、「Compass」などがある。

mitsucari適性検査は検査時間わずか10分と短時間で実施できるのが利点だ。興味や関心とあわせて性格やストレス耐性も測れる。

Compassは、ストレス耐性とともに指向や興味も測れる検査だ。検査によって、自社にマッチする人材かを判断できる。

「適性検査」を扱う際に気をつけたい3つのポイントとは

採用・人事に活用できる「適性検査」を実施するのなら、次の3つの点に注意したい。

(1)データをそのまま信じない

「適性検査」の結果をそのまま信じ、それだけが正しいと判断するのは避けよう。特に、点数のみで採用の可否を決めてしまうと、本当に必要な人材を獲得できない可能性もある。採用時には、「適性検査」と「面接」の2つの試験それぞれから評価を行うようにしよう。

面接時には、適性検査の結果を用いて、なぜそのような結果になったのかを確認するとよいだろう。

(2)候補者が対策してきていることを考慮する

多くの企業が利用する「適性検査」では、さまざまな対策方法が拡散されている可能性がある。能力検査では、対策をした人材が高得点を獲得することがあるのだ。また、自宅で検査を受けられるWEBテストではカンニングが行われるかもしれない。

人材の能力を見極めたいのなら、さほど認知されていない検査を用いるなど工夫しよう。

(3)集客目的は避ける

人材を広く集めたいという理由で、「適性検査の結果のフィードバックを行う」として学生の興味を引く手法は避けたほうがいいだろう。

自社のビジョンや魅力を伝え、それに呼応する人材でなければ採用につながりづらい。もしくは、採用できても短期間で退職してしまう可能性がある。
「適性検査」は採用だけでなく、人材マネジメントやタレントマネジメント、キャリア面談などさまざまな場面に役立てられる。適性検査には数多くの種類があるため、実施する際は何が目的なのかを明確化し、どの検査をどのような方式で行うのかを社内でよく検討する必要がある。適切な「適性検査」の実施とデータの活用で、人材という資産を活かす人事業務を目指そう。
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