コロナ禍における障がい者雇用の状況
まず、ハローワーク業務統計から、障がい者の職業紹介などの状況について見ていきたいと思います。この統計結果からは、 「解雇者数」、「新規求人数」、「新規求職申込件数」、「就職件数および就職率」のいずれについても、前年同期と比べて悪化している状況が見られます。特に、「新規求人数」と「新規求職申込件数」への影響が大きくなっています。一般労働者と比較すると、障がい者の就職件数や就職率の減少幅は少ないとはいえ、それでも、それなりの影響を受けているといえるでしょう。
障がい者に限らず、一般の雇用にも共通することかと思いますが、「これから検討する(検討していた)新規採用については見合わせる」という方針の企業が増えている傾向が見られます。
※( )内数値は対前年差・前年比
今年の「障害者雇用状況報告」(2020年6月1日現在)は、まだ正式なものは出ていませんが、「労働政策審議会障害者雇用分科会」の資料として出された関係団体・企業の協力による障害者雇用状況報告にあげられている数字から、その傾向を見ていきましょう。
「全国障害者雇用事業所協会(全障協)」と「障害者雇用企業支援協会(SACEC)」を通じ、各会員企業に対して、「障害者雇用状況報告」(2020年6月1日現在)の事前報告を依頼したところ、この資料では、121社(企業全体ベース90社、特例子会社単体ベース31社)からの回答が得られています。
なお、今年度(2020年・令和2年度)の「障害者雇用状況報告」は、新型コロナウイルス感染症の影響のため、例年の7月15日から、8月31日へと報告期限が延期されています。
回答企業の障がい者雇用状況について、2019年6月1日現在と比較すると、「特例子会社単体」ベースでは「実雇用率」が96.44%から5.33ポイント減少しています。しかし、「企業全体」ベースでは、「実雇用率」や「法定雇用率達成企業割合」は増加しています。
※( )内数値は対前年差・前年比
新型コロナ禍での「採用」については、春~夏にかけて影響を受けたことが推察されますが、このアンケート結果では、そこまで大きな影響があったことは見られていません。これは、当アンケートが、障がい者雇用に積極的な企業や大企業が所属している団体を通しておこなわれている背景も考慮する必要があり、「障がい者雇用全体の状況」というより、「あくまでも、障がい者雇用に積極的な企業の状況」と見ることも必要でしょう。
上記を示すように、全国障害者雇用事業所協会(全障協)のアンケート結果では、「障がい者の雇用数(6月頃まで)」に関する回答は、下記のようになっていました。
「増やした」:22.2%(18社)
「維持した」:77.8%(63社)
「減らした」:0.0%(0社)
一方、障がい者の雇用数(今後の見通し)に関する回答は、下記の通りです。
「増やす」:36.0%(31社)
「維持する」:64.0%(55社)
「減らす」:0.0%(0社)
また、「障害者雇用企業支援協会(SACEC)」のアンケート結果からも、今後の雇用拡大や採用の見通しに関する回答は、下記のようになっています。
「計画通り遂行する」:66.7%(46社)
「計画を縮小し遂行する」:10.1%(7社)
「計画を再検討する」:17.4%(12社)
「その他」:5.8%(4社)
このアンケートからは、「計画通り遂行した」または「雇用を増やした」企業が一定数いたことが示されていますが、基本的には「現状維持」が多く、新規採用はストップとなっているようです。
コロナ禍における企業の対応
次に、「コロナ禍において障がい者を雇用している企業」の対応について見ていきたいと思います。障がい者雇用に限ったことではありませんが、企業の対応や様子は、【緊急事態宣言下】と【緊急事態宣言解除後】ではだいぶ異なっています。【緊急事態宣言下】
業種、地域にもよりますが、緊急事態宣言時の関東圏は、休業・時差出勤・交代勤務などで、勤務時間を調整したという企業が多くありました。他の地域では、新型コロナウイルスの感染者数やそれぞれの地域行政の判断にもよりますが、関東圏よりは少し緩めの勤務体制になっていたように感じます。
障がい者(特に知的障がいや、精神障がい)を多く雇用している企業では、休業にしたところが多かったようです。その理由は、障がい者が携わっている仕事はもともと、清掃や事務補助的な業務、印刷関連、メール配達などの職場でおこなう業務が多く、リモートワークに移行できないという状況があるからです。
休業中の障がい者社員との連絡は、障がいのないスタッフ社員が多くのマンパワーを費やしたところもあったようです。社員とオンライン(メールやLINEなど)でのやり取りができる体制が築けていなかったために、電話連絡や郵送でコンタクトを取っていたところも複数ありました。
また、朝礼や終礼はZoomといったオンライン会議システムを活用し、体調やメンタル面の管理をしながら研修を中心とした内容にした職場もありました。
一方で、サービス業などのリモートワークが難しい業種や仕事では、ソーシャルディスタンスを保ちながら通常通りの業務を続けているところや、IT・情報関連の仕事が中心となっている業種や会社では、もともとパソコンを使った仕事が中心だったため、業務に大きな影響がなかったというケースもありました。
特に、IT・情報関連の企業では、社内で仕事をするときにもセキュリティ体制がしっかり構築されて、すでに個人アカウントの管理などができていることから、リモートワークになっても業務遂行には問題はなかったようです。
【緊急事態宣言後】
緊急事態宣言が解除された後は、企業の方針として、リモートワークを継続するところが増えてきています。出勤率の割合を定めている企業では、障がい者をマネジメントする社員の出勤日に合わせて障がい者社員も出勤する体制をとっているところがありました。そのため、出勤日は通常よりも大幅に少なくなってしまったそうです。
この場合も、リモートワークできない理由として、障がい者が担う仕事が、管理部、人事・総務部の事務サポート的な業務や軽作業的なものとなっているために実質的に自宅での勤務ができないことや、業務の確認や指示が必要な場合があることがあげられています。
コロナ禍の障がい者雇用の現状を、今ある資料や、企業の様子を聞いたところから、まとめてみました。
・障がい者雇用の新規採用は見合わせている企業が多いこと
・関東圏の緊急事態宣言下では、出勤できない障がい者(特に知的障がいや精神障がい)がいたこと
・リモートワークに対応できている職場と、そうでない職場で、仕事体制に大きな差がでていること
地域や業種などによる差も大きいと思いますが、コロナ禍の障がい者雇用では、この3点の傾向が見られていることがわかります。
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