障がい者の採用も基本は一般の採用面接のポイントと同じ
障がいの有無にかかわらず、基本の採用面接のポイントは同じだと私は考えています。つまり、採用して、会社が求めている仕事や役割を果たせるかどうかということです。今までの経歴や実績から、もしくは、これまで仕事をしたことがないのであれば学生時代の経験や仕事に対する考え方や適性などから、自社にとって求めている人材かどうかを判断することになるでしょう。加えて、障がい者雇用では、企業側に障がい者への「合理的配慮」を示すことが求められています。合理的配慮とは、障がいがある人とない人の就労機会や待遇を平等に確保し、障がい者が能力を発揮するために支障となっている状況を改善したり、調整したりすることです。
この合理的配慮は、障がい者から事業主である企業に対して、職場で示してほしい配慮を申し出ることにより、企業側が対応策を検討、実行する流れとなります。多くの場合、このような申し出は採用のタイミングで行われるので、面接時に、企業に対応してほしい合理的配慮があるかを、応募者から聞くとよいでしょう。
合理的配慮については、こちらの記事を参考にしてください。
障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは」
「基本は一般の採用面接のポイントとほぼ同じである」ということを前提としたうえで、障がい者雇用ならではの採用事情についても、少し触れておきたいと思います。障がい者の採用が一般の採用と異なる点は、就労をサポートする機関のスタッフや障がい者の家族の意見が、彼らの就労にかなり大きく影響しているということです。
例えば、就職に対して、本人が「働きたい」という意欲をもっていない場合でも、就労機関や保護者、家族が「就職させたい」という気持ちをもっていると、応募して、採用が決まってしまうことが少なくありません。うまく適応するケースもあるのですが、本人の意欲があまりない状態で働き始めると、思い描いていた状況と違うことが目の前で起こったり、ちょっとした問題や課題が出てきたりすると、すぐに離職してしまうことがあります。
「就職面接に来たのだから、ウチの会社で働きたいのだろう」と考えるのではなく、そもそも働く意欲はもっているのかどうかを、本人に確認することが大切です。
そして、「就労準備性」が整っているのかを確認することも大切です。就労準備性は5つの能力に分類されます。それは「健康管理」、「日常生活管理」、「対人スキル」、「基本的労働習慣」、「職業適性」です。
普段はほとんど意識されないと思いますが、実は、働き続けるためには、さまざまな力を身につけていないと難しいのです。例えば、毎日体調を崩さず通勤すること、薬を医療機関に指示された通りにしっかり服薬できることなどです。こうした「就労するために必要なこと」は「就労準備性」と表現され、働くことについての理解・生活習慣・作業遂行能力や対人関係スキルなどの基礎的な能力を指します。これは、職種や障がいの有無を問わず、働くうえで必要とされるものです。
この就労準備性をピラミッド図で表したものが「職業準備性ピラミッド」といわれるものです。
ピラミッドの上の2つは、採用後に社内で訓練、育成することもできますが、下の3つ「対人スキル」、「日常生活管理」、「健康管理」ができていないと、社内でフォローするのは非常に大変です。
引用:「障がい者の採用面接で必ず確認しておきたい就労準備性ピラミッドとは?」(障がい者雇用ドットコム)
ここまで面接で確認しておきたい点についてお伝えしてきました。ポイントをまとめると下記のようになります。
障がい者の採用において、面接で確認しておきたいポイント
(1)本人の就職に対する意欲の確認
本人が就職する意思や意欲を持っているのかを確認する。周囲(保護者や就労支援機関のスタッフ、学校の教員など)から誘導されている場合も少なくない。
(2)就労準備ができているかの確認
健康管理や安全管理、基本的な生活のリズムが整っているか、社会生活ができるか、などについて確認する。
(3)求めている業務内容ができるかどうかの確認
業務内容について理解しているか、また、できることと障がい特性として難しいこと、配慮してほしいことについて確認する。
面接時に、障がいに関することをどのように聞けばよいのか
それでは次に、面接で障がいに関することをどのように聞けばよいのかを見ていきたいと思います。「合理的配慮」では、前述の通り、障がい者本人から事業主である企業に対して、職場で示してほしい配慮を申し出ることになっていますが、企業側にも合理的配慮を示すことが求められていますし、雇用すれば企業での責任やリスク管理も必要になってきます。雇用した後に何か問題が起きてはじめて知った、聞いたということがないように、ネガティブな情報であっても採用する前にできるだけ聞いておきたいものです。
特に次のようなことについては、職種などによっても異なりますが、事前に知っておきたい事柄です。
・障がいの状況
障がい手帳の確認:障がいの部位、障がいの等級、障がいの発症原因、治療・服薬・通院の必要性、および更新手続きの有無など
・職務関連機能
住居、転勤・異動、通勤方法・手段、コミュニケーション手段、筆記速度、読解速度、計算能力、電話使用の可否、PC使用の可否、研修受講の可否、単独出張の可否など
・生活関連機能
歩行の状況、歩行バランス、階段・段差の昇降、荷物の運搬、緊急時のサポートの必要性、会話の速度・明瞭度、トイレその他の生活面の介助など
障がいに関して踏み込んだことを聞くので、「そこまで聞いてしまってよいのだろうか……」と思われるかもしれません。もちろん聞き方は大事です。しかし、会社という組織の中で障がい者を雇用するにあたり、必要なことは聞いておいたほうがよいと私は考えています。
2011年3月11日の東日本大震災のとき、私は特例子会社に在籍していました。交通機関がすべてストップし、多くの社員は会社で宿泊することになりました。しかしこのとき、服薬が必要だとこちらが把握していた以上に、夜服薬が必要な社員がいることが判明したのです。このような経験もあり、それ以降、何か非常事態が起こった時に備えて、確認しておくことをおすすめしています。
今までの私の経験では、踏み込んだ質問をする理由を、「会社として、万が一の時に備えて、どのような配慮や対応をすればよいか準備や検討しておきたい」といった言葉で伝え、その後に尋ねると、断られたことは一度もありません。興味本位で聞いているのではなく、会社としても真摯に対応したいという姿勢を示せば、理解してもらえると感じています。
とはいえ、もちろんすべての場合に通用するわけではないと思います。もし、質問に対して答えにためらっているようなときには、話題を変えたり、必要以上の質問はしないようにしたりする配慮も大切でしょう。
最後に、障がい者雇用で成功している企業が面接で確認している点をまとめました。
障がい者雇用を成功させるためには、障がいについて尋ねることをためらうのではなく、どのような困難さがあり、配慮が必要なのかをしっかり聞くことが大切です。さらに、企業ではどのように対応できるのか、どのようなことに対応できないのか、代案なども含めて、雇用する企業側と採用される本人がお互いに率直に話し合い、確認することが必要です。
参考文献:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは」
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