連載コラム「障がい者雇用&戦力化の教科書」をお読みいただきありがとうございます。この7回目は最終回となります。今までのコラムでは、障がい者雇用は組織で取り組むべき必要があることや、社内の理解を引き出す方法、障がい者の業務の切り出し方や、採用面接で確認しておきたい点などについて見てきました。これらに取り組むことによって、職場の環境はかなり整えることができると思います。今回は、その職場で「どのように障がい者に戦力となってもらうか、ステップアップの場を作ることができるのか」について考えていきたいと思います。
第7回(最終回):障がい者に戦力となってもらうために考えておきたい点とは

障がい者雇用で働く当事者のホンネ

障がい者雇用に、人事を担当している立場としてかかわっていると、「社内の調整もしなければ」、「業務の環境も整える必要がある」、「合理的配慮もあるし……」と、やることが次から次へと出てきます。

もちろん、障がい者雇用を達成すること、障がい者に無理しないように仕事し続けてもらうための環境づくりに力を入れることはとても大切です。しかし、それと同じくらい、いやそれ以上に重要視すべきことは、「障がい者本人の気持ちやホンネを聞くこと」です。

「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」を合言葉に、世界中の障がい当事者が参加して作成された「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」は、2006 年に国連で採択をされ、2014 年 1 月に日本政府が批准しました。この権利条約は、障がい者に対して下記を認めており、画期的なものとされています。

・教育
・健康
・労働および雇用
・十分な生活水準
・移動の自由
・搾取からの自由
・法律の前における平等な承認の権利
・アクセスのニーズ
・自己決定能力


内容もさることながら、長らく当事者の意見が取り入れられずにいろいろなことが決められてきた中で、「当事者が関わったことの意義」は大きなものでした。

障がい者雇用も同じではないかと、私は考えます。もちろん社会的にコンプライアンスを遵守すること、法定雇用率を達成することは大切ですが、それと同じ、いやもしくはそれ以上に、「働いている障がい者の声を聞いていく必要がある」と感じています。

働いている障がい者とお話すると、「職場で配慮してほしい」という意見はもちろんありますが、それと同じくらい「もっと仕事に挑戦したい」という声も聞きます。

もちろん精神障がいをもっている方の場合、企業は「勤務時間や仕事内容に配慮が必要だと言われて対処しているのに、それではどうしたらよいのか……」と思うかもしれません。しかし、「障がい者」と十把ひとからげにしてしまうには、あまりにも個人差は大きなものです。そして、時期や本人の状態によってもまた、変化が大きいこともよくあることです。

ある働く障がい者は、今までに業務経験があり、それを活かして働いています。しかし、今は仕事があるものの、今後その業務がなくなったらと思うと、不安になることがあるそうです。また、忙しい時もあるものの、そうでないときは仕事がまったくない日が何日も続くというケースもあり、そんな時を過ごすと、企業にとっての「障がい者雇用率のカウント」としての役割しか果たせていないのではないかと感じてしまうとのことでした。

かといって、時間があるので、ほかの業務を手伝いたいと伝えると、時には業務が振られることもありますが、多くの場合は対応に困ったような反応が返ってくるといいます。「ほかの人が忙しくしている中で、自分だけがやることがない」という状況は、なかなか辛いものです。では、職場として、どのようなことができるのでしょうか。

厚生労働省では定期的に「障害者雇用実態調査」(※1)をしており、この中には、障がい者当事者が職場で改善してほしい点についても触れられています。この項目を見ると、以下のようなことが上位にあげられています。

・能力に応じた評価や、昇進・昇格
・調子の悪いときに休みを取りやすくする
・コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置


この調査結果を参考に、障がい者を戦力化するために必要なポイントについて考えていきましょう。

※1:厚生労働省「平成25年度障害者雇用実態調査結果」

障がい者を戦力化するために必要なポイント

障がい者を戦力化するために必要なポイントには、下記の3点があげられます。

【人事制度を導入する】
障がい者を雇用する企業の多くでは、「キャリアアップ」や「モチベーションアップ」を意識した人事制度を取り入れています。

例えば、「平成28年度職場改善好事例」の最優秀賞を受賞したシダックスオフィスパートナー株式会社では「職位制度」を取り入れ、トレーナーやリーダーという職位を設けています。これは、従業員にとっても責任感やモチベーションを向上する機会につながっているようで、実際にリーダー(正社員)に登用されているケースも出てきているそうです。

また、「評価制度」や「社内のキャリア形成」を示すことによって、働く従業員がどのようなことを目指すことができるのかについて理解しやすくなり、人事評価を給与や職位制度に反映する仕組みが取り入れられています。

障がい者雇用の「人事制度の導入」や「モチベーションアップ」については、さまざまな企業において、すでに取り組みが始まっています。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が毎年開催している「障害者雇用職場改善好事例」の中では、シダックスオフィスパートナー株式会社のような事例が多数紹介されていますので、参考にすることができるでしょう(※2)。

【適切なフィードバック】
しかし、人事制度をつくることは難しいという職場もあるでしょう。そのような場合でも、「適切なフィードバック」は、ぜひ取り組んでいただきたい点です。

フィードバックすることは、しっかりとコミュニケーションをはかったり、全体で話していることを本当に理解できているか確認したり、また、動機づけや、今後の成長につながるアドバイスを与えたり、といったことが含まれます。そして、これらを継続的におこなうことで、社員との信頼関係を築くことにもつなげられます。

フィードバックでは、実際の行動や事実、課題点などの評価結果を伝えるだけではなく、そのほかに、できたことやよい点などについても触れ、「従業員の働きを認めること」も必要です。「誰かが自分のことを見ていてくれる」、「自分の仕事を評価している」と感じることができれば、モチベーション維持や向上につながるからです。

【活躍する職域を開発し続ける】
そして、あわせておこないたいのが、「障がい者が活躍できる業務や職域を開発しつづける」ということです。

雇用された障がい者の多くは、仕事をしているうちにスキルやスピードが向上します。入社したときと同じ仕事内容や分量では、物足りなさを感じるかもしれません。

また、仕事の内容は、日々さまざまな機械・システムやサービスの進歩、新しい経営環境への変化があることにより変わりつつあります。

今までは、ある程度の規模の企業では、名刺作成といった印刷関係の仕事を障がい者の業務として切り出すことが多くありました。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症拡大で、仕事の方法やスタイルは大きく変化しつつあります。ペーパーレス化やリモートワークが普及していくときに、今までのような「業務の延長」では、障がい者雇用を維持していくことすら難しくなってくる可能性も否定できません。

「社会のニーズや求められるサービスをいかにビジネスとしていくか」、そして、それを「どのように障がい者雇用の中に落とし込んでいくか」を考えていく必要があるといえるでしょう。


※2:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「平成28年度職場改善好事例集シダックスオフィスパートナー株式会社」
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