今回は「困った部下」について考えてみる。やる気や能力のない部下は論外として、ふだん最も困るのは、反抗的な部下ではないだろうか。
反抗的な部下というものは、一般に上司にとって「かわいくない部下」であることが多い。日々のいらだちのタネだったり、心臓の上にのしかかる重石だったりするものだ。ときには自分の立場を危うくすることもあるため、率先してローテーションのリストに載せようとすることもある。
しかし、いずれ大きな芽を出す可能性を秘めている人材は、こうした部下の中にいる。少なくとも「かわいい部下」より「かわいくない部下」のほうに、磨けば光る原石がころがっているものだ。これは多くの企業で実証されてきた人材の法則である。
その不満分子は
「玉」か「石」か

もちろん反抗的だから有能であるというわけではなく、玉石混交なのは言うまでもない。ただ、かわいい部下のめんどうをみるより、かわいくない部下の活かし方を考えるほうが、はるかに重要な管理職の仕事であることは断言できるだろう。
では、玉石混交の「玉」と「石」には、どのような差があるのか。

「石」のほうは、人の言うことには何であれ反対しなくては気が済まない「天の邪鬼タイプ」だ。多くは有言不実行の社内評論家、ただの文句言いにすぎない。
「玉」のほうは、現在の仕事の内容やシステム、ときには上司の方針にまで異を唱える。煙たさは「石」と変わらないものの、それなりの代替案なり仮説なりを提示できる者だ。上司のやり方に疑念を呈するという点では「反抗分子」だが、新しい視点があるなら、まずそれを珍重してやればよい。何であれ、今のやり方、今の常識に「ゆさぶり」をかけてくる者については、いったん受け入れてみる柔軟な姿勢が欠かせない。なぜなら、新しいやり方、新しい常識はすべて、初めは「異端」として登場してくるからである。その革新性が高ければ高いほど非常識と思われ、排除されがちだからだ。とりあえずは真正面から受け止め、相手が「石」なのか「玉」なのかをゆっくり検証してみればよい。

「玉」に属する反抗的な部下にも、理屈から実践まで自力でやってしまう特上の玉もあれば、実践する力は弱い玉もある。前者はなかなかお目にかかることのできない真のリーダータイプといえる。大方は後者の部類に属する、悪く言えば「理屈屋」だ。それでも、「真面目でおとなしく、上司に従順なだけの部下」よりずっと見どころのある人材である。

人材募集の有名なキャッチコピーに、次のようなものがある。
「夢見る人、あぶのように口うるさい人、異端者を求む」―ずいぶん昔の話だが、アメリカのIBMが使用したものだ。優秀だが手堅い官僚タイプばかりが増え、業績が悪化した時代に、IBMは異端者を求めようとした。「あぶのように口うるさい人」というのが、また奮っているではないか。要するに、組織に対しても上司に対しても「ゆさぶり」をかけるような人材(場合によっては問題児)を求めたのである。
組織にゆさぶりをかける人材とは、言葉を換えれば、新風を吹き込む人材である。それを活かせるかどうかに、管理職の手腕が問われる。

まずは相手の立場に
降りて話を聴く

「部下にかわいいもかわいくないも、あったもんじゃない。うちの場合はダメな人材ばかりだ」。よくこんなふうに嘆く管理職がいる。こういう方には「人を育てる名人」といわれた、ある会社の人事担当役員の言葉を紹介したい。

「ダメな部下の原因のほとんどは、その上司にあると考えて間違いない」
なぜなら、遅刻には遅刻の、怠慢には怠慢の、反抗には反抗の、「本人にとっては正当な理由」が何かしらあるはずであり、その心理的障害を自然なかたちで取り除いてやるのが、上に立つ者の役目だからである。相手にとっての正当な理由というものに一度思いをかけるのが「思いやり」であって、叱責や矯正はそのあとの問題だ。思いやりのプロセスが抜けているから、相手は上司の言葉に心を開こうとしないのではないだろうか。まずはそう考えてみる。

例えば、欠勤が多い人間にはどんな心理が働いているのか。たいていは「欠勤オーライ」の、どうということもない仕事を担当しているから、あるいは職場での疎外感に傷ついているから、である。「おまえは怠慢だ」「そういうやつはいらない!」と罵声を浴びせても、何ら問題解決にはつながらない。腹立たしいのはやまやまだが、ここはワンクッションおいて、とりあえず相手の立場になってみる。

「ダメな人材」か否かは
上司の接し方次第

心理的障害を取り除くとは、具体的にどうすることか。欠勤したくなくなるような「しかけ」を考えることだ。あるいは、欠勤できなくなるような「アイデア」である。問題社員にこそ一度、重要な仕事を預けてしまう。そして自分もパートナーとして一緒に取り組んでみせる。大事な会議の出席メンバーにして責任を与えるのもよいだろう。それでもなお態度に変化が表れなければ、そのときこそ「そういうやつはいらない!」と宣告すればよい。

このプロセスを飛ばしておきながら、すぐ部下に見切りをつけてしまうマネジャーが少なくないように思える。早々と「ダメな人材」の烙印を押し、ダメだからきちんと面倒をみない。面倒をみないから相手のモチベーションはますます下がる。それを見てマネジャーの怒りばかりが募り、職場の雰囲気はいっそう暗くなる。悪循環の見本である。
上司の接し方次第で「ダメな人材」の8割は何かしら光を発するようになる。まずはそう信じてみることが大切ではないか。その姿勢はかならず周囲にも伝わって、「ダメな人材」が生まれにくい雰囲気の形成に役立つに違いない。

提言。
「かわいい部下」と「かわいくない部下」と、それぞれの仕事量や重要度を一度しっかり測定してみよう。前者にはおいしいところを回し、後者にはつまらないものばかり。そんなふうになっているケースが現実には多い。
それを逆にすることは無理にしても、少しウェートを変えてみる。それだけで変化の兆しは確実に生まれるはずである。

(2011.07.19掲載)

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