座間キャンプでは、管理者訓練の注文は、私にはあまりきませんでした。1954年当時、重役は男性ばかりという環境で、新米の女コンサルタントはなかなか受け入れられなかったのでしょう。
現場を見ると、女性秘書はパワーがあったのか、上司の部長から大幅に仕事を任され、強力なリーダーシップを発揮して仕事を裁いています。そこで私は、男性の管理者訓練だけが重要ではない、女性職員の教育も必要ではないか、と考えました。
第4回 座間キャンプで、女性職員向けのコースをつくる
多くの女性が秘書業務や事務業務を担当しているのですから、やはりその仕事を効果的に行なうための知識や技術の教育計画があったほうがよいでしょう。調べてみると、米空軍の立川基地に「秘書コース」がありました。私は上司に許可を取ってそこへ資料を貰いに行くと、自らの手で「女性教育コース」を作りました。

少々話が脱線しますが、この時の立川行きで、私は妙な経験をしました。米軍の黒塗りの乗用車で立川に向う途中、米軍の憲兵が乗るオートバイに追い掛けられ、停止させられると、「乗車許可証を出せ」と言われたのです。私が乗車許可証を出して見せると、憲兵はバツの悪そうな顔で「OK」と釈放してくれました。どうやら、ドライバーは黒人、そして乗っているのは若い日本人女性ということで、怪しいと思ったようなのです。たとえ米軍の車に乗っていても、女性だとこのようなことが起こるのかと思いました。

私は立川基地の資料を活用し、座間でも秘書コースを完成させると、それを各部署の人事担当者に勧め、実績を挙げていきました。しかしそんな中でも、上司は私に、管理者訓練講師として働くことを期待していたようです。或る日、突然、新しい仕事を命じられました。それは当時米国から送られてきたばかりだった新しい講師能力養成のテキストの、翻訳と編集をやれ、というものでした。

翻訳を始めてみると、すぐにこれは素晴らしいテキストだと分かりました。MTPは進め方が講義中心ですが、新テキストには多数の新技法が紹介されていたのです。それは、教育ニ―ズの発見、作業分析、OFF・JTとOJTの組み合わせ、リーダーシップ論、グループ討議の仕方、参加者心理や実習指導の仕方などです。

この中にあった、「講師の話し方と心構え・3つのポイント」の名文句は、今でも私の心に残っています。
それは、

「(1)あらすじ、詳しく、締めくくり。(2)凡て生徒を中心に。(3)問題に学習を結び付けて。」

というもの。

(1)は、講師はまず全体像を話し、そのうえで部分を詳しく語り、最後に纏めるということ。(2)は、講師の考えが中心でなく、受講者の考えを主とするということ。(3)は、常に現実問題をテーマとし、それを分析・研究する進め方の技法を教えるということです。

この時つくった新テキストは「インストラクター・コース」と名付けられました。この仕事で私が分かったのは、次のようなことでした。

「コンサルタントは理論や知識だけでなく、伝達技術、プレゼンテ―ション力、参加者心理の把握、教室の雰囲気の理解、その社の社風の把握などを理解して働く必要性がある」

これは、その後の私のキャリア形成の土台となりました。
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