これまで45年間、辿ってきたアセスメント・プログラムは、突き詰めれば突き詰めるほど、その難しさがわかってくるとともに、その研究はとても楽しいものです。最初に私を興奮させたのは、ブレイ博士がアメリカ電信電話会社(AT&T)で行った、マネジメント・プログラム・スタディ(MPS)の話と、同じくブレイ博士がアメリカに3ヵ所作った、女性の管理能力調査センターの話でした。
第19回 アセスメント・プログラムについて
特に後者の、女性の管理能力調査の話は私の心に大きな衝撃をもたらしました。ブレイ博士が、大学卒の男女同数を管理者候補としてAT&T社に採用し、その後、数年経ってから、実際に管理者に任命された男女の数を調べたところ、男性の昇進者が遥かに多く、女性の昇進者は男性の半分以下だったのです。

博士は、女性の管理者候補が、果たして本当に管理能力が無いのか、男性よりも劣っているのかを明確に調査するため、アセスメント・センターを全米に3ヵ所設け、未昇進の女性管理者候補2,000名ほどを対象に、管理能力調査のアセスメントを実施しました。

その結果、対象者の半数以上は、充分管理能力があると認められました。はじめにこの話を私が伺ったとき、調査はまだ継続中で、博士は楽しそうに「全部終わったら結果を知らせてあげる」とおっしゃいました。

たまたま私はその翌年の訪問で、この調査の場を見学することが出来ました。管理者候補の女性たちは、熱心にアセスメント調査の演習に取り組んでいました。この調査で「能力あり」と判定されれば、本来なら昇進するべき時期まで遡って給料を追加給付されるとのことだったので、熱心になるのも当然でしょう。同じ女性である私は、この話を是非、日本の人事部の方々に聞かせたく、博士に来日をお願いしました。そして1972年に、博士はご友人のバイアム博士と一緒に来日し、日本企業の人事関係の方たちに、アセスメント・センター・メソッドを紹介する運びになったのです。

その翌年、ブレイ、バイアム両博士の経営するDDI社と技術提携が出来て、この人材アセスメント・プログラムを、MSCの商品として日本各社に勧め始めることとなりました。しかし、当時国内では、年功序列、終身雇用の考え方が一般的で、個々人の能力特性を、アセスメント技法で評価して昇進に繋げるという考え方は、容易には受け入れらませんでした。各社に導入できる迄には、6〜7年ほどかかりました。各社に広く理解して貰えるようになったのは1980年頃からです。

時代の動きもこのプログラムの導入の助けになったとともに、日本企業の海外進出も一層の追い風となりました。また、DDI社の両博士はじめ、多くのDDI社スタッフの方々の訪日とPR活動のご支援が、大きな推進力となったことも忘れてはなりません。

1973年にアセスメント技法が日本に初めて導入されて以来、45年(2017年現在)が経過しました。その間の、日本各社における活用状況の推移を見ますと、初期は、主任や係長を対象とした課長への昇進可能性を見るための、若手管理者対象のアセスメント技法採用が中心でした。その後、課長から部長への選抜や、部長職から経営陣に入る人の選抜など、アセスメント技法は、徐々にその活用範囲を拡げていきました。

導入から2〜3年経った頃に、一度大きな波が訪れました。それはこの技法を、MSCアセッサーによる評価ではなく、同じ会社の若手管理者の人たちが、相互に能力特性を評価し、自己啓発に役立てるための「相互啓発プログラム」として活用し始めたからです。この場合、MSCスタッフは支援者として、そのプログラムに参加します。

これを聞いたDDIのバイアム博士は、大変驚かれました。「同僚や同階層の人は、自分のライバルのはずなのに、その人たちの長所、短所を見てアドバイスするなんて。そんなやり方が出来る日本人は凄い」と言っていました。

各社がそれぞれ、自社内でアセッサーを養成することも、次第に浸透していきました。各社とも、社内に働く個々人の持つ能力特性をどのように生かし、組織の強化に役立てるかに目を向け始め、そのような適材適所を叶えるためには、各人の持つ能力特性を早期に把握すべきことが重要だと強く認識されるようになったためです。この場合も、多くはMSCスタッフが支援者として協力します。

日本におけるアセスメント技法の歴史をデータで見ると、時代とともに各社が選択し重点を置く評価項目、つまり、ディメンション・コンピテンシーが、少しずつ変化してきたことがわかります。これまでのデータを5年毎、10年毎、20年毎にみると、時代の動きの速さと、グローバル化の広がりの影響などで、中間管理者や上級管理者に求める能力要件や評価項目が、著しく変化してきたことが明白です。時代の流れとともに強力に求められるようになってきたのは、「決断力」、「創造力」、「変革対応力」などです。

この3つを詳しく述べますと、「スピーディな時代の動きに合わせて、明快で納得性のある意思決定を述べる決断力」、「着実な仕事ぶりながらもイノべーティブな発想を持った創造力」、そして「革新や変化行動を躊躇わないで企業の求める変革に進んで行動力」です。これらが、今の時代の管理者に期待されているのです。

また、計画組織力も厳しく問われます。計画するだけでなく、それを実現できる組織をつくり、実行し、成果を出すことが、急務なのでしょう。企業に働く個々人が自己のキャリア拡大を求め、組織もまたそれを支援しようと考える時代になってきています。

MSCとしては、アセスメント技法の普及・推進に勤めながら専門性を磨き続けることはもちろん、常に時代の要請とお客様の要望に敏感に応えられるよう、努力を怠らないようにと自戒しています。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!