MSCで顧問という立場になって20年ほど経ちます。93歳の今でも、まだ会社に行けるのは幸せです。こうした幸せを噛み締めながら、私はたびたび、自分のこれまでの道筋を振り返るのです。小学校時代に満州事変が起こり、女学校時代に日中戦争、津田塾大学に入ってからは太平洋戦争が起こりました。その津田塾を6ヶ月繰り上げ卒業したのは19歳の時。それから、旧帝国海軍に作業員として勤めだします。私はずっと、戦時下の愛国少女でした。
第18回 93歳になっても、有難いことに働く場がある
敗戦が決まった昭和20年、職場から実家に帰り、ガラス強化のために張っていた紙をはがし、明るい陽の光を入れると、部屋は明るく照らされました。電球に被せてあった黒い覆いも取りましたので、夜もいくらか明るくなりました。その明るさは嬉しくても、暫くは敗戦のショックで、抜け殻のようにボーッとしていました。

やがて、母に迫られて結婚し、そこから子育てに10年を費やし、子供が小学校や幼稚園に通う頃には、家計の厳しさもあったのと、津田の同級生のように働きたくなったこともあり、近くのキャンプ座間で、在日米陸軍司令部に勤めました。

最初は広報部、次いで人事部に移り、やがて、米軍で働く日本人管理者の教育訓練を担当するMTPプログラムのトレーナーになりました。この教育訓練の仕事が、私の生涯の仕事になりました。またここに至るまでに、夫の転勤で日立製作所の車両工場で輸出の仕事や、来日したエジプト国鉄の幹部の秘書など、多様な経験をしました。

しかし、教育訓練の仕事が一番好きだったため、日立工場を辞めて、一人で教育訓練コンサルタント業を始めました。すると、米軍時代の友人からMSCの創業に参加しないかと誘われました。丁度、夫の東京本社への転勤と重なったので、東京でMSCの創業に関わりました。昭和41年(1966年)の事です。

こうして振り返ると、結局、私のビジネスライフは、何時も自分の好きな仕事を追いかけてきたように思います。それが良いかどうか分かりません。しかし、若い人達には私はいつも、「会社に入って、いろいろな仕事を命じられたら、進んでその仕事をやっていると、自分を生かせる仕事、これをやりたいと感じることが見つかる。まずは何事も真剣にやり、自分がやりたい事が見つけなさい」とアドバイスしています。

私がこのように長いビジネスライフを続けられた一因には、早い結婚、早い子育てがあるでしょう。ビジネスライフの初期、旧帝国海軍の作業員をしていた時は独身でしたが、敗戦後、米軍勤務が始まった時は、上の子供は小学校3年生、下の子供は幼稚園の先生が毎日家まで来て、保育所に連れて行ってくれました。米軍広報部では女性上司が「一度、子供を職場に連れてきて母親が働いている所を見せなさい」と言うので、その通りに実行したら、以来、小さい子供も安心して私を仕事に送り出してくれるようになりました。

米軍で管理者訓練講師として働いている時は、女性でも何の問題もなく、管理者教育講師として受け入れられましたが、MSCになって、日本企業では、女性は管理者訓練に使ってくれないことがわかり、愕然としました。

当時、「採用が増えた女性社員の教育を」と皆口々に言うのです。しかしその教育内容は「接遇とマナー教育」だけ。新入社員が対象ならこの内容でも良いでしょうが、中堅女性も、または十分経験を積んだ10年選手でも、企業の期待するものは同じです。こちらから、せめてコミュニケ―ションの理論や後輩の若い女性達を纏めるリーダーシップの教育を、と言ってもなかなか通りません。

米国企業ではどのような女性社員教育テーマがあるのかと疑問に思い、米国の大企業に手紙を出したところ、返事が35社以上から来ました。どこの返事にも「当社は、男女別の教育計画は無いが見に来るなら歓迎します」とあります。ちょうどこの手紙を送った少し前に、米連邦政府が人種差別撤廃の法律を出した関係で、働く女性にも雇用差別撤廃の機運が高まり、各企業では、女性管理者が多数働いていることを広く外へ証明したかったようです。私は本当に運の良い時に手紙を出しました。

この返事に勇気づけられ、社長に話した上で、各社に誘いをかけ、大企業4社の人事担当者とIBMに勤める娘や、旅行会社の人も加え、7人で訪米。バンク・オブ・アメリカ、シカゴ銀行、メーシー百貨店、IBM、アメリカ政府、アメリカ電信電話会社(AT&T)など、計12社を訪問し、女性管理者達との会議や、トップの方から女性活用方針の説明を受けたりしました。中でも最大の幸運だったのは、アメリカ電信電話会社(AT&T)で、ダグラス・W・ブレイ博士とお目に掛かり、博士の女性管理能力調査のプログラム「アセスメント・センター・メソッド」のお話を伺えたことです。

是非この話を日本でして欲しいと、来日をお願いし、翌年、ブレイ博士とその友人のウイリアム・C・バイアム博士の2人が来日し、セミナーを実施。更に、お2人の経営するDDI社と技術提携が出来、以来、今日まで45年間、数多くの商品がDDI社から提供され、お陰様でMSCの商品構成はとても充実しました。

その中で、私は、ひたすら2つのテーマを追いかけ続けています。それは、「女性の能力開発」と「アセスメント・プログラム」です。
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