就活にも「蛙化現象」が蔓延中
こちらも【佳作】の中から6作品を抜粋して紹介します。採用川柳でも見られた今年の流行語「蛙化現象」。「蛙化現象」とは、好きな人が振り向いた途端に冷めてしまう現象を指しますが、恋愛だけでなく、応募学生と応募を受けた企業との間でも多数発生しているようです。
自身の第一志望として内定を目指して選考を受けてきた企業から、ついに念願の内定を告げる電話がかかってきたにもかかわらず、その場で承諾をすることを迷ってしまった自分自身に驚いたという作品です。ただ、最終的には「迷って当然だよ」という採用担当者の言葉もあり、悩んだ末に、数日後には承諾の返事をしたとのこと。作者にとって、その企業がすてきな王子であることを祈るばかりです。
この作品も「蛙化現象」をテーマにしています。長年憧れてきた企業にもかかわらず、その企業の採用向けSNSで、新入社員が音楽に合わせて踊りながら自社PRする姿を目の当たりにし、「うわっ、こんな風に踊らされる会社に入りたくない!」と一気に熱が冷めてしまったとのこと。企業から内定が出ていたわけではないので、「蛙化」といえるのかという点はさておき、気持ちは十分に理解できます。
企業は、こういったSNSを通して、堅苦しくない社風や新しいものも積極的に取り入れる姿勢をアピールしたいと考えているのでしょう。ただ、受け手である学生がそのSNSを見てどう思うのか、さらには出演してくれる新入社員は嫌々仕方なく協力してくれているだけではないのか、その意向も確認する必要があるかもしれませんね。
採用面接でよく聞かれる質問に「当社は第何志望ですか?」というものがあります。「はい、第三志望です!」と答える学生なんているものでしょうか。取りあえず内定が欲しい学生からすれば、面接を受けたすべての企業に対して「はい、第一志望です!」と答えざるを得ないでしょう。
「第一志望群」という、「第一志望」は1社ではないことを暗に含めた表現をすることもありますが、大して変わりはありません。1社で複数回の面接があることを考慮しなければ、面接が10社目であれば「10回目」、20社目であれば「20回目」となります。果たして作者は、「何回目」で本当の第一志望の企業と巡り会うことができたのでしょうか。
今年の就活生(大学4年生)は、新型コロナウイルス感染症が騒がれ始めた直後に入学式を迎え、拡大防止のために発出された緊急事態宣言により対面での入学式が実施されなかった世代です。当然、入学式出席用のスーツを用意する必要もありませんでした。時がたち、スーツを一着も持っていない状況で、早くも就職活動を迎えてしまったという悲哀を端的に表現しています。
ただ、スーツを持っていなかったことで、今の自分にピッタリ合ったスーツで就職活動に臨めたことはかえってよかったかもしれませんよ。来年の春、ピシッとスーツで決めて出社する作者の姿を想像して応援しています。
エントリーシート作成にも生成AI「ChatGPT」を活用する動きが徐々に広がり始めています。学生個人で使いこなしているケースもありますが、ChatGPTと連携して、キーワードからエントリーシート(自己PRなど)を自動生成してくれるサービスを提供している就職サイトまであります。学生はChatGPTのことをまるで理解していなくてもエントリーシートが出来上がってしまうわけです。
そんな中、ChatGPTの便利さは理解しつつも、それに頼ることなく、自身の経験は自分の言葉で表現しようとする就職活動に対する真摯(しんし)な姿勢が伝わってくる作品です。学生自身が考え抜いて選んだ言葉以上には、志望企業への「熱い思い」はAIなんかでは表現できないと信じたいものです。
就職活動で自己分析や企業選びに悩み、エントリーシートや面接で落とされる経験を通じて、就職するってこんなに大変なことなのかと初めて実感した作者。それまで見てきた、楽しそうに働く両親の姿について、そこに至るまでにきっと同じような苦労を乗り越えていることを理解し、さらにはやりがいを持って働く両親の背中に「凄み」を感じたことを見事に表現しています。
「4年春」には、4月1日現在で5割前後、5月1日現在では65%以上と就職内定率が高まる中、まだ内定のめどが立っていないもどかしさも含まれているのでしょう。焦りを感じるかもしれませんが、両親のようにやりがいを持って働くことの大切さを気づいたことは価値ある経験です。きっとすてきな企業と出会えることを祈ります。
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