いま、もっとも大きな注目を浴びているテクノロジーといえば、さまざまなコンテンツを創造する人工知能、すなわち「生成AI」だ。その活用によって大幅な業務効率化を図れることから、ビジネスシーンでも「生成AI」に対する期待は高まっている。人事業務においても活用を検討する企業が増えている。本稿では「生成AI」の基本知識・種類、できること・できないこと、利用する際に注意すべきポイント、実際の活用事例などを紹介する。
「生成AI」の基本概念や種類とは? ビジネスでの使い方や人事業務での活用事例を解説

「生成AI(ジェネレーティブAI)」とは

「生成AI」とは、文章や画像などさまざまなコンテンツを生成することが可能なAIで、「生成系AI」や「ジェネレーティブ AI(Generative AI)」とも呼ばれる。

●従来のAIとの違い

そもそもAIは「Artificial Intelligence(人工的な知性・知能)」の略で、人間の知能を模倣したコンピュータ・プログラムを意味する。これまでAIは主に「多くのデータの中から一定のパターンを抽出する/条件に合致するものを識別する/今後起こることを予測する」といった働きを担ってきた。こうした従来型のAIは「識別系AI(Discriminative AI)」とも呼ばれ、顔認証システム、画像解析/品質チェック、ECサイトにおけるレコメンド、自動運転システムなどに利用されている。

一方、「生成AI」は、学習した大量のデータをもとに新たに何かを創り出す=生成する、という役割を担っている。単に「識別する」のではなく「創作物を生成(アウトプット)する」ことが大きな特徴で、これまで“AIには不向き”とされてきたクリエイティブな分野に活用できる最先端の技術として期待されているのである。

「生成AI」にできること(生成の種類)

「生成AI」の利用法としては、以下のようなものが普及し始めている。

●文章の生成

さまざまな文章からパターンを抽出し、読み取った情報を組み合わせて新しい文章を創り出す。手紙やメール、論文、プレゼン資料・説明文、詩、歌詞、キャッチコピーなどの生成に活用されている。

●画像の生成

さまざまな画像を学習し、パターンや目立った特徴を抽出して、新たな画像を生成する。用語説明のための挿絵、Webサイト用のイラスト、イメージ画、SNS用アイコンなどを作る際に活用される。多くの場合は「疾走しているスポーツカー」といったユーザーからの指示・リクエストに応じて画像を出力する。

●動画の生成

各種の画像や映像から新しく映像・動画を生成する。「夜の京都を歩く」などと指示すれば一編のプロモーション映像のようなものを得られるほか、人物の口の動き・表情をセリフや感情に合わせて再現する、といった活用法も見られる。

●音声の生成

音声やテキストを入力し、新たな音声を生成する。通常の「音声認識・テキスト化」ツールでは話者の発言がそのままテキストとして出力されるが、「生成AI」では全体・前後の文脈から判断した正しい言葉に置き換える、といったことが可能となり、文字起こしの精度向上が期待できる。また、ある人物の話し方や声色を学習させ、特定の文章・原稿を読ませることで、あたかもその人物が実際に話しているような音声を生成できる、といった活用法も考えられる。

「生成AI」活用によって得られるメリット

「生成AI」の活用によって得られるメリットとしては、以下のようなものが考えられる。

●業務の自動化・生産性の向上

各種のレポートやプレゼンテーション用の文書・画像、会議の記録(文字起こし)などを自動生成することによって、それらの作業に割いていた時間を大幅に節約できる。そうして生まれた時間を他の業務に振り分ければ、生産性が向上するはずだ。外部発注コストの削減も期待できる。

またキャッチコピー、イラスト、デザインなど、創造性が必要で制作に時間のかかるものを「生成AI」に出力させることで、各種プロジェクトの初期段階における業務プロセスの効率化や時間短縮が実現し、やはり生産性の向上につながるだろう。

●ヒューマンエラーの削減・品質向上

「生成AI」が人に代わってデータを収集・解析・整理することで、人為的なミスやバイアスのかかった評価・出力を防ぐことができる。またAIによって校正・補完された文章や画像、すなわち品質の高い成果物を得ることも期待できる。

従業員・関係者のタスク管理を「生成AI」が担い、精度の高い進捗予測を実現し、スケジュール調整を自動化できれば、プロジェクト全体の順調な進行につながり、成果物の品質および生産性の向上も図れる。

●新しいアイディアのスピーディーな創出

「生成AI」は商品のキャッチコピー、説明文、プレゼン資料の要約、イラスト、デザイン、映像などを生み出してくれる。もちろんそれらには必要な要素が含まれ、バリエーションも豊富だ。製品開発に携わるメンバーに新たな知見・発見をもたらし、どのような方向で開発やプロモーションを進めるのか、多くの選択肢を手に入れることもできる。

また「生成AI」はリアルタイムでデータを分析し、いま必要な対策や市場の動向に合わせたアイディアをアウトプットしてくれる。クリエイティブな業務にかかる時間を短縮し、目の前にあるビジネスチャンスを逃さなくて済む。

●商品やサービスのパーソナライズ化

「生成AI」は、市場の動向、社会の変化、顧客の嗜好などを学習し、最新で個別最適化された製品アイディアを生成してくれる。消費者や顧客のエンゲージメントにつながるコンテンツ、ヒットしやすい商品・サービスなどが生まれやすくなり、顧客とのコミュニケーション向上、円滑で効果的なマーケティングも実現するだろう。

ビジネスにおける「生成AI」活用法

前項までに述べたことを基に、ビジネスにおいて「生成AI」が力を発揮する具体的なシーンや活用法をまとめておこう。

●文書・資料の作成および作成支援

レポート、メールの件名や本文、商品の説明文・説明イラスト、イベントの案内文、製品発表会の原稿、自社サイトやブログに掲載する記事など、多くのテキスト・画像・映像を「生成AI」によって作り出すことができる。実際には「生成AI」からのアウトプットを人間が修正・補完しなければならないだろうが、すべてゼロから作り上げる作業に比べれば、労力と時間は大幅に削減されるだろう。また「生成AI」はどのような語句・構成・トーンのコンテンツであれば、より正確に、より魅力的に訴えられるかも学習してアウトプットに生かすため、情報の伝達やコミュニケーション、マーケティングなどの効果も高まる。

●文章の要約・翻訳

テキスト作成系の「生成AI」は、膨大な資料や情報から、必要な部分、重要な箇所だけを抜き出し、校正し、わかりやすく整理した要約版・ダイジェスト版をアウトプットしてくれる。新しいプロジェクトや案件に取り組む際の事前の下調べ、発表・プレゼンをおこなう際の要点整理、会議記録のテキスト化といった場面で「生成AI」は大きな助けとなるはずだ。

また「生成AI」の発達によって翻訳のクオリティが飛躍的に向上したといわれる。以前なら直訳にあふれ、日本語として不自然な翻訳文しか得られなかったが、現在では全体の意味を捉えた語句の選択、自然な言い回しが可能となりつつあり、外国語で書かれた情報へのアクセスが容易になってきている。

●顧客の特性や場面に最適化された情報・サービスの提供

顧客からの問い合わせ窓口をWebサイト上に設置し、入力された質問に対して「生成AI」が自動的かつ適切な回答を返す“AIチャットボット”を導入する企業が増えている。これによりカスタマーサポートに関するコスト削減と業務円滑化が実現し、顧客満足度を高める可能性も高まる。

また顧客の特性・属性、過去に利用・購入した商品やサービス、それらに対するアンケート結果などから「生成AI」が顧客の好みを分析し、今後の行動を予測して、個別最適化された商品やサービスの“おすすめリスト”と推薦文を作り出すことで、購買率や顧客満足度の向上がもたらされるだろう。

過去のデータと現在の市場動向から将来の需要や売上げを予測し、その予測に合わせた生産管理と在庫管理のプラン、マーケティング戦略のベースなどを「生成AI」に出力させることも考えられる。

●社内向け情報の管理・提供

企業内には、従業員が受け取れる補助金や福利厚生、各種申請のための書式や申請先、業務に関わる情報、人的情報などが散在しており、これらへのアクセスと入手には多大な労力を要する。さまざまなデータを一元化し、「生成AI」が管理することの効果は絶大だ。たとえば「有給休暇の取得」、「子どもが生まれた際の申請」、「特定の資格を持つ人材に相談したい」など、質問や指示を入力すれば、「生成AI」が必要な情報を自動的に見つけ出し、整理してアウトプットしてくれる。

「生成AI」にできないこと

創造性や精度、使い勝手などが日進月歩で向上している「生成AI」ではあるが、できないこと、不向きなことは、まだまだ多い。

「生成AI」がアウトプットする文章や画像は「学習したデータから一定のパターンを読み取って作り出したもの」であり、もともとのAIの設計思想、分析の能力・特性に左右される。また、あくまでも人間の指示に対する返答であり、「生成AI」が勝手に判断して何かを生成することはない。そのため真に創造的であるかどうかには議論の余地がある。

「生成AI」はデータの学習・分析・出力の機能を持つプログラムであり、人間のように相手の感情を理解する能力はないため、人間特有の情緒や心の機微に訴えかけ、感動させるものを作り出せるとは限らない。人間の倫理観・道徳観も理解していないため、アウトプットされたものが人の心を逆なでしたり、理解されなかったり、拒絶されたりする恐れもある。

いずれにせよ現時点では、「生成AI」のアウトプットに100%頼ることは避けるべきであり、どこかで人間による補正・補完、判断、取捨選択、意思決定が求められるといえる。

「生成AI」活用のデメリットやリスク

「生成AI」の利用には、さまざまなリスクがあることを理解しなければならない。

●低品質・不正確なコンテンツのアウトプット

「生成AI」が生成するコンテンツは、常に正確であるとは限らない。学習したデータに含まれる誤り、情報の分析精度などの影響を受けて、不正確な成果物が出力される可能性はある。

●不適切なコンテンツのアウトプットと人による悪用

「生成AI」が偏った情報だけを学習すると、アウトプットにもその偏りが反映されることになる。場合によってはアウトプットされたコンテンツが偏見に満ち、特定の性別・属性・人種などへの差別を含むものになっている恐れもある。

また有力な政治家が、あたかも本当に発言しているかのような“フェイク動画”が生成され、拡散した事実もある。人間の倫理観に基づいた管理は不可欠といえるだろう。

●著作権に関する問題

「生成AI」は既存の小説や写真・絵画・イラストといった“著作物”を学習し、新たな“著作物”を生成する。こうした流れの中における著作権の考え方について、文化庁が令和5年6月に発表した『AIと著作権』では「著作物が入力される段階と、出力される段階とを分けて検討する必要がある」としている。このうち出力段階については「生成物に、既存の著作物との類似性・依拠性が認められない場合」、「認められる場合」、それぞれのケースにおける著作権の所在や、「AIが自律的に生成したものは著作物に該当しない」といった考え方が記載されている。

このあたりに関しては議論・啓発が進められている途中であり、「生成AI」によるアウトプットをビジネスに用いようとする場合には、AIと著作権の関係を十分に理解し、専門家の見解を得るなどして慎重に進めるべきだといえる。

●情報管理への配慮と漏洩防止

「生成AI」に顧客データや従業員データを分析させる際には、個人情報の保護、個人を特定されない形でのデータ収集と管理、不正アクセスなどによる情報漏洩の防止など、倫理的な運用やセキュリティ対策に配慮しなければならない。

●責任の所在が曖昧になる

「生成AI」によって生成されたものが、誰かの権利を侵害したり、心情を害したり、アウトプットに含まれる誤情報が損害をもたらしたりする可能性もある。こうした際の責任の所在を明確にしておく必要があるだろう。

●人間の仕事を奪う可能性

「生成AI」の活用は業務効率化・コスト削減、人的リソース不足の克服などにつながる反面、人間の仕事を奪ってしまう危険性もある。

人事業務における「生成AI」の活用事例

画像解析や品質チェック、ECサイトのレコメンド機能などで「識別系AI」が活用されているのと同様、「生成AI」もビジネスのさまざまな場面で活用されはじめている。

●AIアシスタント『ConnectAI』の活用~パナソニックコネクト株式会社

「生成AI」ツールの代表格として、AIが膨大な情報をインターネットなどから取得し、ユーザーの質問に答えてくれる『ChatGPT』がある。同社でも『ChatGPT』をベースとしたAIアシスタントを運用していたが、自社固有の情報に関する質問には回答できない、引用元が不明で回答の正確性を確認できないといった課題を抱えていた。そこで自社特化型のAIアシスタント『ConnectAI』を開発。社員に対しては社外秘の情報も回答する、といった形へと機能を進化させている。

●社内アンケートの分析~東京電力エナジーパートナーズ

同社では2,800人もの従業員を対象に、年2回、自由記述形式のアンケートを実施しているが、それらすべてを読み、社内に存在する課題をカテゴリ別に整理・集計し、現場へとフィードバックする作業には膨大な時間と労力を要していた。またフィードバックを受け取った各部門の管理職には課題解決のための対策立案・実行が求められることになるが、その負担も問題となっていた。そこで「生成AI」を活用し、アンケートの要約、課題の分類、対策の提案などを自動化。人事部と現場の負担を大幅に削減することに成功している。

●人事異動AI支援ソリューションの提供~NEC

同社では行政機関向けに、職員の評価・異動に関する業務をAIが支援するサービスを開発・提供している。まずは過去の異動履歴や人事情報をAIが解析し、誰を異動の対象とするか候補者予測モデルを作成。さらに異動対象者の情報と異動先を掛け合わせて分析し、より高いパフォーマンスを発揮できる配属先の選定や、異動原案の最適化を実現している。

まとめ

黎明期の「生成AI」は精度に難があり、必ずしも活用しやすいものではなかった。だがコンピュータの進化、「生成AI」ツールそのものの改善、学習対象となるデータの拡大などによって、分析・出力に要するスピードが上がり、文章や画像の表現は自然なものとなり、ユーザーインターフェースなど使いやすさも向上。いまでは多種多彩なツールやサービスが提供されるようになっている。

アウトプットされるコンテンツの品質、著作権・情報漏洩・倫理的な問題など、依然として注意すべき点は残るものの、使い方次第では大幅な業務効率化につながり、コストの削減や生産性向上に寄与するテクノロジーとして世界的に期待されていることは確かである。

自社の業務に「生成AI」を活用できるかどうか。活用のためには何が障壁となり、どのような課題と向き合わなければならないか。人事部門、DX担当部署、現場、経営層が一体となって、本格的な検討をスタートさせるべき時代になったといえるだろう。

よくある質問

●生成AIのデメリットとリスクは?


ビジネスで生成AIを活用する際に気を付けておきたいデメリットとリスクは以下がある。

・低品質・不正確なコンテンツのアウトプット
・不適切なコンテンツのアウトプットと人による悪用
・著作権に関する問題
・情報管理への配慮と漏洩防止
・責任の所在が曖昧になる
・人間の仕事を奪う可能性

●AIと生成AIの違いは何?


従来のAIは「識別系AI(Discriminative AI)」とも呼ばれ、主に「多くのデータの中から一定のパターンを抽出する/条件に合致するものを識別する/今後起こることを予測する」といった働きを担ってきた。一方で「生成AI」は、単に「識別する」のではなく学習した大量のデータをもとに「創作物を生成(アウトプット)する」という役割を担っている。

●生成AIでできることは?


「生成AI」は大量のデータをもとに、文章、画像、動画、音声なのデータを生成することができる。生成AIを活用することで、業務の自動化や生産性の向上、ヒューマンエラーの削減・品質向上、新しいアイディアのスピーディーな創出、商品やサービスのパーソナライズ化といったさまざまなメリットを得ることができる。具体的な活用場面としては、文書・資料の作成および作成支援、文章の要約・翻訳、顧客の特性や場面に最適化された情報・サービスの提供、社内向け情報の管理・提供などが挙がる。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!