生成AIは様々な場面でバブルを生成しているように思う。例えばアメリカ株式市場におけるエヌビディアの急成長だ。エヌビディアは1993年に台湾系米国人のジェンスン・フアン最高経営責任者らが設立した半導体大手企業で、カリフォルニア州シリコンバレーに本社を置いている。自社工場を持たないファブレス企業で、高性能の半導体の開発に特化したことで他の追随を許さない技術力を実現している。
「生成AIバブル」の時代に求められる従業員リテラシーと組織での対策

ITバブルを彷彿とさせる「生成AIバブル」

そのエヌビディアの株式の時価総額が2024年6月に約3兆3,400億ドルとなり、初の世界首位となった。生成AIブームを追い風に、マイクロソフトやアップルを一気に抜き去った。かつての「ITバブル」を彷彿させる勢いだ。

2022年11月にオープンAIが生成AI「ChatGPT」を公開して以降、エヌビディアの株価は約8倍となり、同期間のマイクロソフト(1.7倍)やアップル(1.4倍)を大きく上回る。時価総額も急拡大し、2023年5月に1兆ドル、2024年2月に2兆ドル、6月には3兆ドルを突破した。

成長の原動力は、生成AIの開発やデータ処理に使われる先端半導体だ。ゲーム向けの画像処理に使われる半導体の開発で知られていたが、大量の演算を同時に処理できる特徴がAIのデータ処理に適していたことで、一気に注目を集めるようになった。エヌビディアの世界シェアは約8割に上るとみられる。「エヌビディアはAIブームの最大の勝者だ」米ブルームバーグはエヌビディアの躍進ぶりをこう表現している。

米国市場に上場している企業等の時価総額上位(日本経済新聞):2024年8月17日現在

米国市場に上場している企業等の時価総額上位(日本経済新聞):2024年8月17日現在
このように、株価がバブル化しているのは、生成AIブームの賜物なのだが、これはインターネット環境やスマホが世界を席巻した時代と酷似している。まだまだ緒に就いたばかりだと言えなくもないが、我々自身が生成Aに使われる日もそう遠くないのかもしれない。

人間がこれまで培ってきた能力が失われていく

筆者自身も、様々な場面で生成AIを活用することが多くなってきた。AIの進化と自身の使い方の熟練により、今では生成AIなしの仕事は考えられないほどになっている。時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、ふとした瞬間に「自分は大丈夫か? 衰えていないか?」と我が身(脳)を案ずる心持になったりもする。もちろん、我が身にとどまらず「人間は大丈夫か?」と余計な心配もしたりする。

日々の業務の中でも、企画・デザイン・ナラティブといった構想力を要する分野は人間しか持ちえない専売特許だと思い込んでいた。それは事業の企画を言語化したり、方向性が複雑なエモーショナルな内面を使うプロセスだったりするから、それらを機械化するなどまだまだ先のことだろうと思っていた。コンピュータが担う仕事はあくまで人間の犯したミスを修正したり、添削したりといった補助的な役割であり、クリエイティブな仕事こそ人間のみに許されたフロンティアだと信じていた。

ところが、いざ生成AIを利活用してみると、とんでもないことに気づいてしまった。例えばChatGPTでは、プロンプトの作成・入力に慣れてしまうと、想像を超えてクリエイティブな領域までをも浸食されてしまったのである。これは、さっさと生成AIに任せてしまう方が全体としてのパフォーマンスは向上するな、と思わせてしまうのだ。まさか……の心境である。

筆者の場合、ある特定の分野に限定して利用しているのだが、利用しながら感じるのは「使わない脳は衰える」ということである。生成AIに任せてしまっている仕事を、最近では「面倒くさい。AIに任せてしまおう」との思考回路が脳内に芽生えつつあるようなのだ。これはちょっと不味いことになってきたぞ、と内心怯えている自分がいる。一度立ち止まって考え直した方がよさそうだ。

人間は使わなくなった機能や能力は衰えると述べたが、読む・聞く・見るといったインプットならまだしも、考える・書く・話すなどのアウトプットの分野では顕著だ。生成AIが人間の脳の代替をしてくれるとはいえ、人間がこれまで培ってきた能力を失くすのは人間社会にとってマイナス効果が大きすぎる。自身が生成AIを今後数年間使い続けた結果を勝手に予測してみた。

●コミュニケーション能力が低下する
●かみ砕いた話を人前ですることができなくなる
●ナラティブ思考ができなくなる
●人心掌握ができなくなる


こうならないことを念じながら生成AIと共存していくことにしよう。

組織として生成AIの利活用は必然。どうリスク対策を行う?

一方、組織として考えたとき、生成AIが人間とは比べものにならないくらい生産性を高めてくれるのも紛れもない事実である。従って、組織として生成AIを利活用することは必然となる。ただし、生成AIの利活用にあたっては、様々なリスクを抱えることを覚悟しておかねばならない。例えば、下記のようなリスクは予め認識しておくべきだろう。

(1)誤った情報(ハルシネーション)が生成されてしまうリスク
(2)最新のデータに基づかない情報が生成されてしまうリスク
(3)情報漏洩(個人情報や機密情報)や著作権等の知的財産権を侵害してしまうリスク
(4)倫理的にクリアーできない情報が生成されてしまうリスク


個々のリスクの詳細については別の機会に譲るが、これらのリスクは生成AIを組織として利活用する場合には避けて通れない。少なくとも、生成AI利活用のルールをガイドラインとして定めたり、従業員のリテラシーを高める措置を講じていく必要があるだろう。さらには、組織として発展途上の生成AIの進化をウォッチしていく仕組を構築しておくことも必須となる。
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