対面面接のやり方は?

ここからは、【佳作】の中から6作品を抜粋して紹介します。

「質問は?」 「社長の長所 知りたいです」 聞かれてしばし 思い浮かばず (東京都 総務GLさん)


面接官から学生への質問が中心となりがちな面接ですが、面接の最後には面接官から学生に「何か質問はありますか?」と、逆質問の機会を与えることが一般的です。「御社で活躍される社員の方には、どのような共通点がありますか」とか、「入社までに身に着けておく、あるいは覚えておくと役立つことを教えてください」といった質問が多く、「〇〇様が仕事でやりがいを感じられる時はどんな時ですか」など、面接官自身に対して質問を投げかけてくることもあるようです。

ただ、今回のように「社長の長所」を聞いてくる学生はまずいません。想定外の質問に戸惑うとともに、「そもそも、社長のいいところなんてあったけな?」と、自問自答する採用担当者の姿が笑いを誘います。次回以降は即答できるように、社長のいいところをせめて一つくらいは事前に考えておいたほうがよさそうですね。こんな逆質問は愉快です。わが社の面接でも同様なことが起こっていないことを祈るばかりです。

ちなみに、この作者は前回、前々回と2年連続で最優秀賞(前回は最優秀賞が2作品)を受賞した強者(つわもの)です。今回は残念ながら3連覇達成はなりませんでしたが、次回作での最優秀賞返り咲きを期待しています。

久々の リアル面接 どこを見て 話せばいいか 戸惑う二人 (東京都 わっちさん)


コロナ禍では面接のオンライン化が一気に進み、2020年以降、対面での面接は実施したことがないという企業も少なくありません。ただ、今年5月には新型コロナも5類に移行したことや、オンライン面接では学生・企業双方の理解度が浅くなりがちだという反省もあり、2024年卒採用では久しぶりに対面での面接を復活させた企業が多くなっています。作者の企業もその1社なのでしょう。

オンライン面接では、PC横に貼ったメモを見ながら話すこともできますし、目線が合わないことも不自然ではありませんでした。それに対して、対面では手元の資料もすべて見られてしまうばかりか、目線をどこに合わせて話すべきなのか、気恥ずかしさもあり、学生だけでなく、採用担当者までもがハニカミながら向かい合う姿が初々しく感じられます。

ところで、最後の「戸惑う二人」のフレーズから、松山千春のかつてのヒット曲『長い夜』の歌詞をつい連想してしまうのは私だけでしょうか。

第一志望 その上にあるのは なに志望? (静岡県 きゅーちー)


作者によると、面接では「第一志望です! 高校時代に職場見学した時からずっと入社を憧れていました」と力説していた学生が、内定を出したにもかかわらず、後日、内定を辞退して他社へ行ってしまったとのこと。学生が応募したどの企業に対しても「第一志望」と答えることは理解していながらも、ここまでストーリー立てて熱く語っていたら、「本当に第一志望」の学生だと疑うことはなかったのでしょう。毎年、多くの採用担当者が人間不信に陥る瞬間といえます。

多分、「第一志望」の上には、「まじ第一志望」というのがあるのではないでしょうか。

母集団 形成したのに ボツ集団 (島根県 ええかんげんにしてやさん)


新卒採用活動においては、自社に関心を持ってくれる学生を増やし、囲い込むことを「母集団を形成する」と表現することが一般的ですが、中には、正式に応募してくれた学生を「母集団」と呼ぶ企業もあります。作者の会社は後者のようです。半年以上かけて、なんとかかき集めた応募者の書類選考をするのは、人事部門ではなく技術部門の管理職とのこと。ところが、売り手市場の中で中小企業が応募者を集める苦労を知らない他部門の管理職は、面接をすることもなく、「レベルが低い」と書類選考だけでバッサリとすべての応募者を不合格にしてしまい、まさに「ボツ(となった)集団」に。

これまでの作者の苦労はまったく報われることはなく、2024年卒採用は「成果なし」で終わりを迎えてしまったわけです。悔しさと無力感は相当なものだったと推測されますが、作者からの「来年も頑張ります」の前向きな一言に心が洗われます。来年こそ、技術部門の管理職が驚くほどの学生からの応募があることを祈らずにいられません。

採用アカ 実家の猫だけ 「いいね!」つく (新潟県 うさたろうさん)


公式の採用ホームページとは別に、SNSで採用活動用のアカウントを開設している企業も多いようです。社内行事や社員の日常紹介などを頻繁に投稿することで、学生の閲覧機会を増やし、自社に興味関心を持ってもらうとともに、より身近に感じてもらおうとする作戦です。作者の企業もSNSを新規開設したようです。

ただ、閲覧数を伸ばそうと、苦労して試行錯誤しながらいろいろなトピックを投稿しているにもかかわらず、よりによって唯一「いいね!」をつけてもらえた投稿が会社とはまったく関係のない、実家の猫についての何気ない投稿であったことにショックを受ける作者。きっと投稿ネタに困って、苦し紛れの投稿だったのではと推測されます。猫に勝るものなし。とはいえ、意外なところで「いいね!」がついたとしても、学生へのアピールにはならないでしょう。SNSの運用には工夫が必要ですね。

6月に 入ると辞退の 鬼レンチャン (愛知県 ひつまぶしでひまつぶしさん)


【最優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選。選考活動を先行して、早めに内定を出してはいたものの、6月に入り大手企業の内定出しが本格化してくると、それら大手企業から内定を取得した学生からの内定辞退連絡が急増するという話はよく聞きます。その対応に追われるとともに、長期間にわたるこれまでの採用活動の苦労が気泡に帰す無力感に苛(さいな)まれる様子が、「鬼」の文字からじんわりと伝わってきます。

ただ、良いほうに考えれば、大手企業も内定を出す優秀な学生と巡り会い、内定を出すことができていたわけであり、採用担当者の目に狂いはなかったともいえます。こんな言葉は何の慰めにはならないかもしれませんが……。
「2024年卒 採用川柳・短歌」入選作品

「川柳・短歌」に見る売り手市場下の就活事情

ここからは、就活生からの投稿による「2024年卒 就活川柳・短歌」の入選作品を取り上げます。まずは、【最優秀賞】からです。

嬉しくて 何度も開く 合格メール(長崎県 みーさん)


実質的な就職活動は、大学3年の6月頃から始まるインターンシップへの参加申し込みからスタートします。「3年生の3月より採用広報解禁(エントリー・会社説明会解禁)、4年生の6月から面接選考解禁」などという、政府主導の就活ルールなんてまったく関係がないに等しくなっています。この作者が、希望する企業から念願の「内定」連絡を受け取った時期がいつかは不明ですが、仮に4年生の6月だとすると、実に1年以上にもわたる就職活動の末に、ようやく手に入れたことになります。

それは確かに嬉しいことでしょう。この1年間の出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡るでしょう。この合格メールを受け取る前には、いくつかの企業からのお祈りメール(不合格)を味わったかもしれません。でも、この合格メールさえ来れば、もうそんなことは気になりません。「間違ってないよね、本当に合格って書いてあるよね」と何度もメールを見返しては、「合格」の文字を確認するたびに自然とにんまりしてしまう姿が目に浮かぶ、なんともほほ笑ましい作品です。

次に、【優秀賞】を紹介します。こちらも本来は2作品を予定していましたが、該当作品が少なく、残念ながら今回は1作品だけの受賞となりました。

「私が 尊敬するのは 母親です」 隣の部屋に 聞こえぬように(東京都 1ダースさん)


ビジネスのオンライン会議では、ヘッドレストやマイク付きイヤホンを使用して会話することが多く、こちらの話す内容は隣の部屋にも漏れてしまいますが、相手が話している内容まで聞かれることはありません。しかし、なぜか就活のオンライン面接においては、PCのマイクとスピーカーを使うことがマナーとされているようで、面接官の質問も家族に聞こえてしまいます。

実家暮らしの学生が、隣の部屋にいるかもしれない家族に、オンライン面接でのやりとりの内容を聞かれないように、スピーカー音量を下げるとともに、小声で回答することはよくあること。企業からの質問内容が家族に関することであれば、本人には聞かれたくないという思いはなおさらでしょう。でも、「尊敬している」という内容であれば、胸を張って大きな声で回答してみるのもいいかもしれません。家族本人に面と向かって伝えるのではなく、さりげなく伝えられるこんな機会はめったにないでしょうから。

就活にも「蛙化現象」が蔓延中

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