Vol.03

NEXT HR キーパーソン特別インタビュー

人事部門こそが第4次産業革命の成功の鍵を握る(前編)

経済産業省 産業人材政策室長 伊藤 禎則 参事官
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

ビックデータや人工知能、IoTというテクノロジーの進化はまさに産業革命である。雇用の在り方や産業構造の大きな転換を迎えつつある中、日本企業はこうした「変革」への対応を迫られる。そのとき、人事部門はどう対応していかなければならないのか?

「第4次産業革命」を掲げ、その舵取りの一端を担う経済産業省 産業人材政策室長・伊藤禎則参事官をお招きし、企業活動や雇用の未来予測や人事部門の重要性についてお話を伺った。

産業が発展するために旧来の日本型雇用モデルは変化していかなければならない

寺澤国力を高めるためには産業が発展しなければなりません。これから産業が発展するためには日本企業が抱える問題・課題はどこにあるのでしょうか?

伊藤2015年、経産省の人材政策の責任者として着任しました。まず、旧来の日本型雇用モデルを変えていかなければならないと思い、取り組みをはじめました。あくまでも旧来モデルを進化させることであって、単純にアメリカ型とかヨーロッパ型に変えればいいという議論ではありません。

2015年着任前までは政府の成長戦略を担当してきましたが、成長戦略の大きな柱が第4次産業革命への対応で、こういう産業構造変化の中で旧来の日本型雇用モデルのいくつかの仕組みがサスティナブルでなくなっていると感じていました。その理由は3つあると考えます。

一つ目は、新卒一括採用から終身(年功長期)雇用に至るまでの「タコツボ/縦割り型モデル」の限界です。大学を卒業して会社に就社し、定年まで勤め上げるというモデルにはメリットもたくさんあったのですが、転職できにくい結果となっています。最近の電機メーカーを中心とした相次ぐ大型経営破綻で、最後の最後で何万人もリストラされると、社会的損失があまりにも大きい。加えて、流動性が低く企業でも国全体でも人材の最適配置が困難です。

二つ目は、「職務の無限定性」と「長時間労働」の問題です。日本型雇用の実態として、仕事は会社や上司から言われたことが全てであって、職務の範囲が明確ではありませんでした。これは国際的には必ずしも一般的ではありません。ある程度職務や役割を明確化していくことが、国際的な雇用モデルの趨勢です。職務が無限定であり、チームで取り組むという日本型雇用モデルの特性が相まると、誰かが残っているから帰れない、仕事が残っているから手伝うといった、長時間労働に繋がりやすい慣行になります。明らかに世の中の流れとはミスマッチとなっています。育児・出産・介護といった制約を持っている方が増える中で、旧来の長時間労働を前提とした仕事のスタイルというのはサスティナブルではなくなってきています。職務、労働時間あたりの「成果」をはっきりさせていく必要があります。

三つ目は、「社内完結型人材育成システムの限界」です。教育といえばOJTと同義で使われてきました。古き良き時代の特徴として、会社の中の色々なスキルが先輩から後輩へと伝承されてきました。しかし、ITを中心として産業構造の変化のスピードが速くなってくると、社内で教えきれなくなっています。あのトヨタ自動車でさえ、OJTをうまく活用しつつも、人工知能や自動運転の新しい分野においては、社内のみでは育成に必要な人材や知見が賄いきれません。そこで、アメリカにトヨタリサーチインスティテュートを立ち上げ、アメリカにいる専門家を雇用する動きがあります。そうした背景から、日本で、社内に完結しない人材育成システムを作らなければなりません。

この三つの論点は、元々日本企業が抱えていた問題で、ここ数年の中で顕在化してきました。日本が直面している産業構造の転換に対応して、旧来の日本型雇用モデルを進化させることと同時に、連立方程式として人口減少と高齢化といった問題を解かなければなりません。そうした背景から、政府は「働き方改革」に取り組んでいます。長時間労働問題を解消し、今まで主であった男性労働者以外の働き手、女性や、介護で離職された方、一部の領域においては外国の方々にも働いてもらわないと、日本の労働の現場は廻っていきません。

経済産業省 産業人材政策室長 参事官
伊藤 禎則 氏

1994年東京大学法学部卒、通産省入省。コロンビア大学ロースクール修士、米国NY州弁護士登録。日米通商摩擦交渉、エネルギー政策、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者。政府「働き方改革実行計画」の策定に関わる。経営リーダー人材育成指針、ITスキル認定制度の創設等も手がける。