Vol.03

NEXT HR キーパーソン特別インタビュー

人事部門こそが第4次産業革命の成功の鍵を握る(前編)

経済産業省 産業人材政策室長 伊藤 禎則 参事官
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

第4次産業革命と雇用への影響とは

寺澤働き方改革は第4次産業革命への対応のために重要な政策とおっしゃっていますが、第4次産業革命について具体的に教えてください

伊藤第4次産業革命とは、テクノロジーの進化による産業構造・社会構造の変革です。それも今までと違って比較にならないくらい速いです。圧倒的に大きいのは、データの処理速度が上がり、扱うデータの量が増加したことです。リアルタイムで全量データを処理することができるようになりました。よって、ビックデータ、人工知能、IoTといった技術が発達し、それらが互いに組み合わされることによって、ビジネス現場で大きな変革が起きました。

リアルタイムでデータ処理することによって新しいサービスが生まれています。例えば、Uber(ウーバー)、Airbnb(エアビーアンドビー)などは、眠っているデータ資産を消費者一人ひとりのニーズに結び付けて、具体的なビジネスを展開しています。また、センサーであらゆるデータを取得し分析結果をビジネスに活かすことは、製造業のみならず、あらゆる分野で日常化してきています。

それらがインターネットでつながっていくため、日本では「第4次産業革命」という呼び名だけでなく、「ソサエティ5.0」、「コネクテッドインダストリー」などとも呼ばれています。
第4次産業革命は、色々な要素が「つながる」ことによって産業・社会・国民生活が変わっていくことなのです。

寺澤そういったテクノロジーの進化によって雇用が奪われるといわれています。実際雇用への影響はどうなるのでしょうか?

伊藤2013年、オックスフォードのオズボーン教授は、アメリカにおける雇用の47%の仕事がAIによって代替されるというレポートを発表しました。それを受けて、2016年4月に、経済産業省の産業構造審議会において、どういう仕事が減って、どういう仕事が増えるかを詳細に分析しました。製造分野や調達分野では、サプライチェーンの自動化や効率化によって雇用は減ります。また、バックオフィス、経理や一部の人事の現業分野、コールセンター、銀行窓口といった定型化された分野も減ります。

一方で、雇用が増える分野もありました。ハイスキルなマーケティングやAIを活用して商品企画等ができる人材は増えるという予測です。

今まで、ものづくりやサービス提供するために大量生産で行われてきましたが、これからはリアルタイムで全量データを処理することができるため、カスタマイズ化でき、それを個々の消費者のニーズに合わせて、商品開発、サービス開発していくことが求められるからです。また、最後まで残るヒューマンイントラクション(人と人とのふれあい)は、今まで以上に重要になります。オズボーン教授は、半分近くの仕事がAIに代替されると言っていましたが、我々の分析結果では実際にはそうはならないと考えています。

また、「人工知能」VS「人間」という構図ではなく、「AIを使って付加価値を高めることができる人間」VS「AIを使うことができない人間」という対立軸が起きる可能性があるので、その可能性(格差)を最小化しなければならないという問題意識を持っています。仕事の付加価値を提供する人をピラミッド構造で分けています。ハイエンドゾーン(高付加価値提供者)〜ミドルエンドゾーン(中付加価値提供者)〜ボリュームエンドゾーン(低付加価値提供者)と分けていますが、今後それらの全体をどう底上げしていくか求められます。底上げしなければ、ボリュームゾーンの一部の仕事は人工知能に代替されることは事実で、ミドルゾーンは低付加価値化されてしまうと、やはりいずれ人工知能に代替されます。ハイエンドゾーンに近づけるためにも、人材育成と教育の充実がこれまで以上に重要になっていきます。

経済産業省 産業人材政策室長 参事官
伊藤 禎則 氏

1994年東京大学法学部卒、通産省入省。コロンビア大学ロースクール修士、米国NY州弁護士登録。日米通商摩擦交渉、エネルギー政策、筑波大学客員教授、大臣秘書官等を経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者。政府「働き方改革実行計画」の策定に関わる。経営リーダー人材育成指針、ITスキル認定制度の創設等も手がける。