Vol.07
「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー
日本版「ティール組織」とは〜自主経営を通じて、強い組織になる〜
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介
1968年の創業以来、レーザー技術の進歩とともに歩んできた日本最大のレーザー機器の輸入商社・日本レーザーは、90年代前半、赤字続きで倒産寸前に陥った。そんな窮地の中、社長に就任し、会社を再建に導いた近藤宣之氏。以来、無借金経営、25期連続黒字を達成し、離職率は10年以上ゼロと、高い従業員エンゲージメントも誇っている。一体なぜ、これほどまでに驚異的な実績を生み出せるのだろうか。その理由は、「日本版ティール組織」とも呼ばれる先進的な組織作りと、ありえないレベルで社員を大切にする仕組みにあるという。近藤氏の信念、そして組織作りの極意について伺った。
組織はいかにして進化を遂げるのか
寺澤近年「ティール組織」が次世代型の組織モデルとして注目されていますが、一方で日本では「ティール組織」的な組織運営を実践できている企業は、現状ほとんどないとも言われています。そうした中、御社が実践されている組織作りは、日本で唯一ともいえるほどの、まさに「日本版ティール組織」と呼ぶに相応しいものですね。
近藤我々は初めから「ティール組織」を目指してきたわけではありません。ただ当たり前の組織作りに取り組んできた結果、「ティール組織」的なものに近づいたということです。かつて日本レーザーは「オオカミの群れ」でした。不良社員、不良在庫、不良債権、不良設備など、“不良の山”がうずたかく積み上げられていました。今、改めて振り返ってみると、これらはすべて「オオカミの群れ」がなした行為だったと感じます。 ではなぜ「オオカミ」なのか。「オオカミの群れ」による組織は、力による支配のもと、短期的で衝動的な思考によって運営され、特定の個人が大きな力を持っている??。このように組織を「オオカミ」と比喩したのは、『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルー氏です。彼は組織の進化形態について、「衝動型(レッド)=オオカミの群れ」、「順応型(アンバー)=軍隊」、「達成型(オレンジ)=機械」、「多元型(グリーン)=家族」、「進化型(ティール)=生命体」の5つに分類し、組織はこの順番で進化していくと語っています。
寺澤なるほど。しかし現代の日本において、「オオカミの群れ」は言うに及ばず、「順応型(アンバー)=軍隊」による企業も、だいぶ少なくなっているのではないでしょうか。
近藤おっしゃる通りです。「順応型(アンバー)=軍隊」的な組織は、厳格な階級に基づくヒエラルキーと、上意下達の命令系統が存在します。よって、指揮命令はトップダウンでなされます。「安定」が重視され、長期的な展望ができるという特徴も持ちます。軍隊や警察、行政機関などが代表的な例です。第3段階の「達成型(オレンジ)=機械」では、競争に勝って利益を出し、成長を目指すことが組織の目的になります。前進するための鍵は「イノベーション」です。多くの日本企業は、「順応型(アンバー)」の段階を超え、今日では「達成型(オレンジ)」の組織が一般的ではないでしょうか。
第4段階の「多元型(グリーン)=家族」的な組織では、 ヒエラルキーは残っているものの、最前線のメンバーは「達成型(オレンジ)」的な組織のように機械的に働くのではなく、もっと主体的で多様性を持って働いています。さらに最前線のメンバーに意思決定の大半が与えられています。大幅な権限委譲がなされているのです。また「多元型(グリーン)」組織では、その組織の文化が非常に大切です。がんじがらめのルールではなく、価値観や企業文化を共有することで組織としてまとまります。さらにダイバーシティ、つまり多様性を持つことも重要であり、日本で言うなら、国籍、人種、性別、年齢、学歴などにこだわらず、多様な個性を認める組織でもあります。
そして最後の段階が「進化型(ティール)=生命体」的な組織です。ちなみにティールとは、カモの羽色という青緑色の一種。さすがにこの段階まで達している企業は、そうそうないように思えます。
「ティール組織」の3つの特徴
寺澤「ティール組織」の特徴について、近藤会長の見解も交えつつ、詳しくご説明いただけないでしょうか。
近藤「ティール組織」には、階層などに頼ることなく仲間との関係性の中で動く「自主経営」、合理的な部分だけでなく、精神的、情緒的、直感的な部分も含めて、各メンバーが個人として全人格で仕事に向き合う「全体性」、組織それ自体が生命と方向感を持っている「存在目的」という3つの特徴があります。いわばこの3点が「ティール組織」の突破口なのです。では、この3点についてもう少し詳しくご説明いたしましょう。
まず「自主経営」とは、社員が主体的、自立的、能動的に動き、働く組織のあり方です。誰に指示されるまでもなく、自分で考え、行動する。どうすれば売上げに繋がるか、どうすれば顧客が喜ぶか、どうすれば取引先と良好な関係を維持できるか…。そうしたことをいつも自分で考え、実行する。それが「自主経営」ができている組織だと思います。この対極にあるのが、指示待ち族の多い組織です。
続く「全体性」には、その組織は単に給料を得る場ではなく、言いたいことを言い合い、やりたいことを自由に提案し、本音や本心をさらけ出して、組織のメンバーに向き合うといった意味合いもあるでしょう。格好をつけたり、殻をかぶったりした、表向きの感情で同僚や上司と接するあり方とは対極にあります。その人の「人生そのもの」が、私の理解する「全体性」です。
次に「存在目的」は何かというと、組織がその組織の存在意義を問いかけるということです。多くの企業、とりわけ日本の大企業は“how to do”を問いかけます。つまりいかにすべきかを考えるわけです。どのように儲けるか、どのように事業展開するか、どのように人事管理をするか、どのように財務管理をするか…。“how to do”で考え、それを組織の目的にしています。しかし組織にとって本当に重要なのは、“how to do”ではなく“what should be”、つまり「どうあるべきか」なのです。“how to do”は「やり方論」で、“what should be”は「あり方論」ですが、「あり方」のほうが、ずっと根本的な問題であることがわかるでしょう。「ティール組織」では、その「あり方」も重視しています。
株式会社日本レーザー
代表取締役会長
近藤 宣之氏
1944年生まれ。慶應義塾大学工学部電気工学科卒業後、日本電子株式会社入社。1989年、同社取締役米国支配人就任。1994年、子会社の株式会社日本レ一ザー代表取締役社長に就任。2018年、同社 代表取締役会長(CEO)に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。2007 年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託職員が株主となる日本初の「MEBO」で親会社から完全独立。2011年、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」 など、経済産業省、厚生労働省などから受賞多数。著書に「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」(ダイヤモンド社刊2019年)、「未踏の時代のリーダー論」(日本経済新聞出版社 共著2019年)等多数。