Vol.07

「NEXT HR」キーパーソン特別インタビュー

日本版「ティール組織」とは〜自主経営を通じて、強い組織になる〜

株式会社日本レーザー 代表取締役会長 近藤宣之氏
インタビューアー:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介

大幅な権限委譲で自主経営を実現する

寺澤御社は、具体的にどのような点が「ティール組織」的なのでしょうか?

近藤弊社も「衝動型(レッド)」から始まり、少しずつ組織形態を進化させてきました。現在は「達成型(オレンジ)」が5割、「多元型(グリーン)」が3割、「進化型(ティール)」が2割くらいのバランスになっています。まず「達成型(オレンジ)」的な部分としては、利益を出すことを目的にはしていませんが、目的を達成する手段として利益を出すことは重要であると考えていますし、個人としても会社としても成長を目指しています。こうした部分はオレンジ組織の要素でしょう。
また「多元型(グリーン)」的な部分としては、例えばグリーン組織の特徴の一つである多様性を尊重しています。採用の際も、また入社後の待遇でも、国籍、人種、性別、年齢、学歴など、本人の能力や努力と関係ないことで区別することは一切ありません。その結果、弊社には実に多彩な人財が集まっています。とりわけ弊社のようなグローバル企業には、多様な価値観を持つ人財がいることはとても重要で、互いの多様な見方が刺激を与え合い、職場や組織全体を活性化させています。
では、「進化型(ティール)」的な部分はどこかというと、それは社員主体の「自主経営」を実践している点でしょう。弊社は権限委譲がかなり進んでおり、組織体系もフラットで上下関係がほとんどありません。部長、課長、係長といった肩書は一応存在しますが、それらは職位呼称ではなく、単なる資格呼称です。実質的には役員と一般社員の二層構造で、一般社員は自分の判断で自主的、積極的に仕事をして、仕事の幅も自分でどんどん広げています。そういう意味では、弊社の経営はまさに社員主体の「自主経営」です。もちろん「全体性」や「存在目的」も重視しており、こうしたことから、まだまだ完璧な「ティール組織」であるとは言えませんが、かなりそれに近い状態にあると言えるのではないでしょうか。

「自己組織化」を生み出す4つの条件

寺澤「ティール組織」に似たものとして「自己組織化」という概念があります。御社はこの「自己組織化」も積極的に進めておられるそうですが、そもそも「自己組織化」とはどのような状態のことを指すのでしょうか?

近藤「自己組織化」を成り立たせるためには、4つの条件が必要です。
1つ目は、組織やチームの在り方を問うよりも、創造的な個の営みを優先させること。つまり個々人の自己実現を支援するような組織作りをしなければなりません。
2つ目は、揺らぎを秩序の源泉とみなすこと。創造的な個の営みを優先すると、既存の型からはみ出す「揺らぎ」が生じてしまいます。この「揺らぎ」を受け止め、受け入れ、大切にして、新しいルールや規律の源泉にしようということです。
3つ目は、不均衡および混沌を排除しないこと。「揺らぎ」を受け入れると、例えばA君は認めるが、B君は認めないといったような不均等が生じ、組織の中に不協和音が起こります。しかしリーダーは、そういった混沌や意見のぶつかり合いを恐れず、ストレスや不安に耐えるだけの精神的強さを持って、うまくマネジメントしていかなければなりません。
そして4つ目は、コントロールセンターを認めないこと。コントロールセンターとは「会社の中枢=トップ」のことですが、これを認めないというのは、つまりトップダウンを認めないということであり、もっと言えば、組織のメンバーの自由度を広げるということでもあります。では、トップは何をしたらいいのか。私は、トップの役割とは、組織のオーガナイザーであり、サーバントであるべきだと考えます。ちなみに私は現在、CEOを名乗っておりますが、自己紹介する際は「Chief Entertainment Officer」の略だと言っています(笑)。これは半分冗談であり、半分本質でもあるのです。社員を持ち上げ、いい気持ちにして、必要に応じて予算をつけて、でも何かを押し付けることはなく、自分でやってみろと背中を押し、失敗したらアドバイスして、落ち込んでいたら励ましてあげる。そういうリーダーシップがあれば、自己組織化は実現できるのです。

株式会社日本レーザー 代表取締役会長
近藤 宣之氏

1944年生まれ。慶應義塾大学工学部電気工学科卒業後、日本電子株式会社入社。1989年、同社取締役米国支配人就任。1994年、子会社の株式会社日本レ一ザー代表取締役社長に就任。2018年、同社 代表取締役会長(CEO)に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで25年連続黒字、10年以上離職率ほぼゼロに導く。2007 年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託職員が株主となる日本初の「MEBO」で親会社から完全独立。2011年、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」 など、経済産業省、厚生労働省などから受賞多数。著書に「倒産寸前から25の修羅場を乗り切った社長の全ノウハウ」(ダイヤモンド社刊2019年)、「未踏の時代のリーダー論」(日本経済新聞出版社 共著2019年)等多数。